「War for Talent(人材をめぐる戦い)」時代を生き残れますか?
――働く女性を取り巻く環境の変化を踏まえた未来とは?グロービスの林 恭子さんのお話から、マネージメント側が今後すべきことが見えてきます。
お話のポイント
・日本の生産年齢人口は減少。テクノロジーも進化し、労働環境は劇的に変化
・多くの企業が若く才能あふれる人材を求めている
・「アンコンシャスバイアス」が、女性の成長を阻害している
・その背景には、高度成長時代の滅私奉公の精神が
求められるのはイノベーションを起こせる若い才能
「少子化により、生産年齢人口が減少している今。優秀な人材を巡る仁義なき戦いが始まっています。同時に、ビジネスではグローバルな競争が必至になりました。そうすると、どんなことが起こるでしょうか?
世界各国の方と激戦を繰り広げなければいけないわけです。同時に、テクノロジーによる激震があり、大きくビジネスが変わり始めています。すると、多くの企業は、これまでの延長線上ではなくて、新たなイノベーション(改革)を起こせる若いタレント人材が欲しいはずです。こういう人がいないと、これから先、勝っていけないんです。
では、そういう人たちはどんな職場で働きたいでしょうか。多様性の乏しいモノカルチャーな職場ではないはずですよね。日本の労働市場における男性と女性は、国籍も言語も文化も教育水準も同じで、唯一違うのは性別だけ。このたったひとつの違いさえ乗り越えられないのだとすると、そのような職場はこれからの時代生き残っていけないと思います。迫り来る『War for Talent(人材をめぐる戦い)』を生き残るためには、危機感をもってこの問題に取り組むことを、私はおすすめします」
林 恭子さん(左) グロービス 経営管理本部長 マネジング・ディレクター 筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士課程前期修了(MBA)。米系電子機器メーカーのモトローラで、半導体、及び携帯電話端末のOEMに携わった後、ボストン・コンサルティング・グループへ。人事担当リーダーとしてプロフェッショナル・スタッフの採用、能力開発、リテンション・プログラム開発、ウィメンズ・イニシアチブ・コミッティ委員など、幅広く人材マネジメントを担当。
右が、この日のトークにも登場された内閣府男女共同参画局長の池永肇恵(としえ)さん。
「リーダーはやりたくない」の背景にあるもの
――ではどう改善したら、「War for Talent(人材をめぐる戦い)」で生き残ることができるのでしょうか? 引き続き、グロービスの林 恭子さんのお話しをご紹介します。
「女性から『リーダーはやりたくない』という言葉が出ることについて考えてみましょう。これは、大変なことを任される経験が足りないからです。
『アンコンシャスバイアス』という言葉をご存知でしょうか? 去年あたりからさまざまな会合でよく聞くようになりました。女性だから大変なことをやらせたらかわいそうだ、という過剰な思いやりをさします。女性の活躍推進で悩んでいらっしゃるある企業の課長さんが、海外出張があるけどとても女性には行かせられないと聞いたとき、私は度肝を抜かれました。女性に海外出張させちゃいけないというけれど、もし命が危険にさらされるような国なら女性だけでなく男性にも行かせられないはずですよね。女の人だからという思いやりは、実はいらない場合が多いんです。
ほかにも、育児で時短中だからやらせる仕事をセーブしないとかわいそう…。これも思いやりに見えて、ただチャレンジングな仕事を経験する機会を奪っているだけ。人は誰でも、少しくらい額に汗をかきながらやるくらいでないと、伸びないものです。その成長機会を阻害してしまうのが、アンコンシャスバイアスなのです。
それともうひとつ、女性の活躍推進に前向きな男性のエグゼクティブな方とお話ししたとき、『女性はコミュニケーション能力が高い。だから人事とか広報とかどんどんやらせたらいい』と言うんです。これは、実は一番気をつけなければならないことなんです。こうした思い込みから、HR(Human Resource:人事)、IR(Investor Relations:投資家向け広報)、CSR(Corporate Social Responsibility:社会的責任担当)の3Rといわれるところにばかり女性を配置してしまう。それによって、営業のフロントや製造の最前線に立つ機会を阻んでいるのです。『女性だから3Rに』というのも、ある意味アンコンシャスバイアスです。いろいろな個性があってそれぞれに強みが違うのですから、思いやりのつもりでアサインされたことが、実は本人の才能を伸ばすことにはプラスになってない場合もあるわけです。
現在の管理職の女性の中には、子どもを産んだら辞めるつもりだったのに、難しい課題に挑戦した結果、仕事が面白くなったという方が多いそうです。少し背伸びしてストレッチするような経験は、あえてしてもらったほうがいいということを証明していますね」
能力を身につけるのは研修だけじゃない
「(女性管理職になるには)能力が足りてない、という問題はどうでしょうか。この話になると、人事の方は必ずこう言うんです。『うちは男女関係なく研修をやっている。だから育成しているはずだ』と。でも、能力を伸ばしたり学んだりするのは本当に研修だけでしょうか。そんなことないですよね。男性でいえば、男子トイレの中や喫煙室、仕事帰りの飲み屋、週末ゴルフなどで、先輩男性から仕事に関するリアルな話を学んでいることが多いですよね。こういうのを『オールドボーイズクラブ』というらしいのですが、これが案外重要なことなのです。研修だけでなく、女性社員に学習の機会を継続的に提供することが大切です。また、有能な男性上司をメンターとしてつけて、どうやって仕事をするのか見せる。ちょっと話し相手になるとかではなく、具体的に何をすればいいのか、しっかり教えて育てていくことが有効だと思います。
女性が参画する機会の提供は公平になったかもしれませんが、実際に会社の中で回っているシステムは、いまだに滅私奉公型です。女性もみんな公平だから一緒にやろうと言うけれど、上がったところの土俵が、男性による男性のための男性のルールで回っている。この背景には、武士の家族制度があると言われています。それを引きずったまま、終身雇用制度が長きにわたってあり、専業主婦がいて、24時間365日働ける男の人、高度成長時代はこれでよかったわけですね。けれど、今は違います。働き方改革が進まないと、男女共同参画はない、といえそうです」
――労働時間を短くするだけの「働き方改革」ではなく、かつての雇用の意識からの改革。それこそが、本当に必要なこと。そのための施策について、次回で具体的に考えます。
南 ゆかり
フリーエディター・ライター。10/5発売・後藤真希エッセイ『今の私は』も担当したので、よろしければそちらも読んでくださいね。CanCam.jpでは「インタビュー連載/ゆとり以上バリキャリ未満の女たち」、Oggi誌面では「お金に困らない女になる!」「この人に今、これが聞きたい!」など連載中。