時候の挨拶とは?
時候の挨拶(じこうのあいさつ)とは、手紙や挨拶状の冒頭に記す、季節を表す言葉を用いた文章のことです。時候の挨拶は1月から12月までそれぞれの月に応じたものがあり、さらに細かく上旬・中旬・下旬によって使う言葉が異なる場合もあります。
お礼の言葉や相手の健康を気遣う文章が入るのが一般的で、フォーマルな文体のビジネス文書とカジュアルな文体のプライベート用の文章の2タイプに分けられます。
時候の挨拶のルール
時候の挨拶を用いた手紙はおおよその文章の定型が決まっており、前文、主文、末文、後付という順で構成するのが基本です。
前文は「拝啓」などの頭語・時候の挨拶・挨拶状を出す相手の健康や安否を気づかう言葉・自分の近況報告やお礼の言葉などで構成されます。主文は、手紙の本文のことです。末文は結びの挨拶のことで、相手の健康や繁栄を願う言葉を記載し、後付では手紙を書いた日付、署名、宛名の順に入れます。
前文と末文とで表現が重複しないように気をつけましょう。読みやすさやスムーズな流れにも気を配る必要があります。
5月の時候の挨拶
5月は新年度が始まり、慌ただしい時期を経て、少し落ち着きを取り戻す時季と位置づけられるでしょう。晩春から初夏にかけての時期であり、緑が鮮やかで爽やかな印象のある季節です。
時候の挨拶には季語を入れるのが基本であるため、5月の代表的な季語をいくつか覚えておくことをおすすめします。
5月の代表的な季語
5月の季語は数多くありますが、時候の挨拶にふさわしいのは「一般的にもよく知られている季語」です。俳句などの文学作品と違い、聞き慣れない言葉は基本的には使いません。時候の挨拶によく使用されるのは、植物を描写した言葉、風を描写した言葉、季節を表す言葉です。それぞれ、代表的なものをいくつかご紹介しましょう。
【植物】新緑・若葉・青葉・葉桜
5月は植物の緑が鮮やかな季節。時候の挨拶でも植物関連の季語を使うことが多いといえるでしょう。
「新緑」「若葉」「青葉」は5月全般で使える季語。新緑は夏の初めの頃に芽吹いた若葉の鮮やかな緑色、若葉は生えてまもない草木の葉、そして青葉は若葉の頃をすぎた青々とした葉という意味があります。
「葉桜」は5月上旬に使える季語で、桜の花が散って葉だけになった状態を表しています。
【風】薫風・緑風
「薫風(くんぷう)」は5月5日から5月末まで使える季語です。新緑の季節に吹く快適な風という意味があります。「緑風(りょくふう)」は5月全般に使える季語で、草木を揺らす風という意味です。どちらも爽やかなイメージの言葉であり、5月という季節の快適さ、過ごしやすさを表す言葉といえるでしょう。
【季節】晩春・立夏・軽暑
「晩春(ばんしゅん)」は5月初旬に使える季語で、春の終わりのころという意味があります。「立夏(りっか)」は5月5日から数日の間に使える季語で、夏の始まりの時期を表します。「軽暑(けいしょ)」は5月中旬から下旬にかけて使える季語で、早くも暑さを感じ始める季節を意味します。
このの3つの季語は使える期間が限定されているので、手紙を送るタイミングを考慮して使いましょう。
【ビジネス編】5月の時候の挨拶・例文
ビジネスシーンで使える5月の時候の挨拶を紹介します。ここで注意しなければならないのは、季節感は土地によって異なるケースがあることです。相手の住んでいる地域を確認し、その土地のその時期にふさわしい季語を選ぶように配慮してください。
ビジネスで使える時候の挨拶の簡単な基本形は、季語+「の候」です。「の候」は「のこう」と読みます。「のそうろう」と誤読するケースが多いため、注意しましょう。
5月上旬
【例文】
・晩春の候、貴殿ますますご活躍の趣、お慶び申し上げます。
・惜春の折、皆様におかれましては、お元気でご活躍のことと拝察いたします。
・葉桜の折、御社の一層のご発展をお慶び申し上げます
・緑風の候、貴殿つつがなくお過ごしのことと存じます。
・若葉の候、いよいよご発展のことと心からお喜び申し上げます。
5月中旬
【例文】
・目に鮮やかな新緑の候、貴殿におかれましてはご健勝のこととお喜び申し上げます。
・新緑の候、貴殿ますますご活躍の趣、大慶に存じます。
・薫風の折、貴社の皆様におかれましては、つつがなくお過ごしのことと存じます。
・初夏の日差しに若葉が光り輝く季節、お健やかにお暮らしのことと存じます。
・若葉の緑が美しい5月、貴社の皆様にはお健やかにお過ごしのこととお慶び申し上げます。
5月下旬
【例文】
・薫風緑樹をわたる、すがすがしい季節を迎え、貴社におかれましてはいよいよご繁栄の由、大賀の至りに存じます。
・向暑の候、貴社にはいよいよご盛栄の段、何よりと存じます。
・軽暑の候、ご壮健にてお過ごしのことと存じます。
・万緑の候、皆様にはいよいよご清祥のことと存じます。
・軽暑の候、貴社におかれましては、ますますご清適のことと拝察いたします。
【プライベート編】5月の時候の挨拶・例文
プライベートでの5月の時候の挨拶は、ビジネスにおけるものよりもカジュアルな文章になるのが一般的です。「~の候」という始まり方をすると少し堅苦しくなってしまうので、口語を上手く使うとよいでしょう。
とはいえプライベートにも、さまざまな関係があります。親しい友人であればある程度くだけた表現になっても構いませんが、「親しき仲にも礼儀あり」を念頭においてください。
5月上旬
【例文】
・風薫る5月、鯉のぼりが青空に映える季節となり、皆様にはますますお元気でお過ごしのことと存じます。
・八十八夜も過ぎ、茶畑の緑が一層色濃く感じられる季節になりました。ご家族の皆様もお元気でお過ごしのことと拝察いたします。
・新年度が始まって早くも1か月が過ぎました。もう新しい環境に慣れたころでしょうか。
5月中旬
【例文】
・若葉のまぶしい季節となりました。皆様におかれましては、なお一層ご活躍のことと拝察いたしております。
・暦の上ではもう夏、皆さまお変わりございませんでしょうか。
・木々の緑が目にまぶしい今日この頃、お元気でご活躍のことと思います。
・五月晴れの心地よい季節となりました。社会人としての生活にも慣れてきたでしょうか。
5月下旬
【例文】
・日中は少し汗ばむほどの季節となりましたが、お変わりございませんか。
・若葉が初夏の日差しに輝く気持ちのいい季節となりました。皆様もお健やかにお過ごしのことと存じます。
・初夏の風がすがすがしい季節になると、一緒に旅行をした時のことを思い出します。いかがお過ごしですか?
・○○さんのお庭は、美しい花が咲き誇る季節ですね。お元気でしょうか。
基本を知り、5月の時候の挨拶を使いこなして
時候の挨拶は、基本のフォーマットを知っておけば、さほど難しくはありません。5月の季語を知っておくこと、ビジネスでは「~の候」「~の折」などの言葉を活用するのがおすすめです。プライベートでは、口語で表現するといいでしょう。手紙を送るシチュエーションや相手との人間関係を考慮し、5月の時候の挨拶を使いこなしてください。
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