デートはいつもハマ! 横浜至上主義男とのマリンラブ
お話を伺ったのは…
佐々木直美さん(仮名・42歳)、埼玉県出身・中堅私立大学経済学部卒業、証券会社勤務(年収480万円)。1歳年上の夫(IT関連会社勤務・年収800万円)と結婚11年。荒川区内の賃貸マンションに在住。子どもは10歳の女子1人。身長155cm、全身無難なファストファッションで、黒・白・ベージュしか基本的に着ない。ネイルは短めピンクで、栗色のセミロングヘアを軽く巻いている。
恋愛というものをしてみたいと一念発起
「夫とは前に建築関連会社に勤務しているときに出会いました。私は29歳、夫は30歳で、お互い埼玉県内の同じ町出身で盛り上がって意気投合。『直美さんは僕と結婚しなくてはいけない』みたいなことを言われて、あれよあれよと結婚。友人たちからは『村上春樹か!』と今でも突っ込まれます」
すぐに娘が授かり、夫も真面目で優しく、理想的な家庭ができていた。
「夫はコスパ重視の人で、割安な家賃の物件を見つけてすぐに引っ越し。コスパいいクルマを買い、ポイントバックが多い日に給油に行き、その足でスーパーの特売商品を買うのが趣味という人。あるポイントを何万ポイントも貯め、海外旅行に連れて行ってくれたり……面白くていい人なんですけれど、トキメキがない。40歳のときに『このままでいいのかな』と思ったことがあったんです。娘も友達と遊ぶ時間が多くなり、夫婦の週末を特売品探しに終わるのは嫌だと思い、女性として一花咲かせようと思ったんです」
5㎏ダイエットに成功! キレイになると、賞賛されたくなる
直美さんも夫も、性欲が弱いほうで、10年の結婚期間のうち、8年はレス。
「でも全く不満は出ませんでした。別にしたくないんですよ。でも、そういうことをしていないと、自分の体がどんどん四角いシルエットになっていき、オジサンっぽい感じになるんです。恋愛しようと決意してから、5kgダイエットし、ヘアスタイルも服も変えました。これでも相当キレイになったんです」
キレイになると人に見せたくなるのが人情。
「痩せてキレイになっても、夫は無関心。誰かに触ってほしいし賞賛されたい。そこで浮気相手を探しました。狙いをつけたのは、大学の同級生の男性。この年で知らない人と深い仲になるのはリスクが大きすぎるからです」
不倫相手の彼は横浜出身で、洒脱な雰囲気を持っており、独自の美学がある人物。卒業後の飲み会でも顔を合わせることが多かった。
「大学のとき、ちょっと片思いしていたんです。年上の奥さんと20代前半で結婚したのですが、半年前に離婚してバツイチだと聞いたこともあり、Facebookを通じて連絡。それから2週間後の土曜日に『会おう』ということになったんです」
待ち合わせで指定してきたのは、横浜
直美さんは荒川区に住んでいる。それを知ってか知らずか、彼が予約したお店は横浜。
「雰囲気もサービスも素敵なステーキ店で、お肉も美味しくて、東京よりも安い。片道一時間以上かけていく価値があると思いました。初回の食事とお酒の後、話が盛り上がって、その日は解散になりました。私の電車の時間が迫っていたからです。『東京ならホテルに行けたのに~』と後ろ髪を引かれながら帰りました」
翌々週の2回目のデートも、彼が待ち合わせ場所に指定してきたのは横浜。
「2回目はドライブデート。彼の愛車は赤いドイツ車です。本牧あたりまで行って、横浜横須賀道路に乗って葉山まで行き、ランチのあとラブホに行きました。彼の手が触れてきたときのドキドキ感は今でも覚えています。休憩とはいえ一番高い部屋をとってくれたのが衝撃でした。夫とではありえないくらいに乱れてしまって、『女として生まれてきてよかった』と思いました」
3回目のデートも、まさかの横浜
この頃になると、2週間に1回、土曜日にデートするという暗黙のルールができ上がった。
「3回目のデートも横浜。確かに横浜は街並みが美しく、ゆったりとした空間の上質なレストランがあり、歴史があるバーも多い。大人のデートの必要十分条件を満たしている。彼に東京で会うことを打診すると『海がないし、人が多くてゴミゴミしていて嫌』と言う。お台場があるじゃん、って言葉を飲み込みましたよ。さらに、海がない埼玉出身の私はどうなるんだ……とも思いました(笑)。先日、映画『翔んで埼玉』を観て、彼と分かり合えない理由が、ぼんやりとわかりました。石原裕次郎氏が活躍していた昭和30~40年代の映画で描かれたカッコよさが、横浜男子のベースなんだ、って。クルマ、海、ギター、サングラス、憧れのアメリカ、バイク、女の子、アイビー系カジュアル……って感じ」
昭和時代で時が止まったカッコよさ
4回目のデートになると、こっちもあきらめているというか、横浜まで行って、ラブホに行って帰るだけという感じになっていた。
「彼はモテてきただけあって、アレがすごく上手い。先輩・後輩関係も濃厚みたいで、女性の扱い方をいろいろ教わっていたんだと思います。私は完全に彼の体目当てでした。横浜に来れば、ラブホに入る時も堂々と行けるという利点もありました」
気持ちは醒め、性欲に集中するにつれ、彼が予約するお店も、色あせて見えるようになった。
「なんか昭和っぽいんですよ。絨毯敷きの床とか、シャンデリアとか、わかりやすいマリングッズとか……。救命浮き輪、碇(いかり)、灯台風モチーフがあるインテリアとか。別に文句を言う筋合いはないけど、それは昭和のカッコいいだよね、アップデートしようよ、と指摘したくなる」
直美さんの気持ちが冷めるほど、彼は歓心を引こうとする。
「東京でデートするだけでいいのに、元町ブランドの高価なアイテムをくれるんです。全然趣味じゃないし、そんなものにお金を使ってほしくない。そろそろ別の同級生に連絡してみようと思ってます」
理想の恋愛を追い求めると、空しさが広がるようになる。それが自分の幸福を蝕む病巣になる可能性は高い。
写真/(C)Shutterstock.com
Writer&Editor
沢木 文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。お金、恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。