「恋愛をするようになってから」ではなく、その前に知っておきたいこと
前回の記事では「プライベートゾーンを知ることの大切さ」と「被害者にも加害者にもならないためには」について、助産師SUNAこと、砂川梨沙さんに話を伺いました。
シリーズ第7回となる今回は、「子どもにも知って欲しいジェンダーアイデンティティ」について。
▲ 助産師SUNAこと、砂川梨沙さん (トータルバースプランナー)
1982年鳥取県産まれ。鳥取看護専門学校・ベルランド看護助産大学校(助産学科)卒業。トータルバースプランナーとして、働く女性のための訪問型「にじいろ助産院」を開業し、産前産後に必要な知識と頼れる場所を提供し、心身ともに健康で自分らしく生きていくことをサポートしている。現在この活動と並行して、性教育についても全国各地で講演中。プライベートでは3児の母。
「ジェンダーアイデンティティ」とは何か
有田千幸 (以下、有田): 思春期前の子どもたちが、社会生活を送る上で大切なことのひとつに「ジェンダーアイデンティティ」があるということでしたが、これについて教えていただけますか。
助産師SUNA (以下、SUNA): はい、まず「ジェンダーアイデンティティ」は、日本語では「性自認」といい、自身が認識する性別のことを指します。「LGBTQ」という言葉も広まってきてはいますが、ジェンダーアイデンティティにはわかっているだけでも「LGBTQQIAAPPO2S」と、これだけの種類があるといわれています。そのため、性の多様性のことを表現するのであれば「SOGI (Sexual Orientation Gender Identity) = 性的指向と性自認」という言葉のほうがふさわしいのではないかと思っています。
有田: なるほど。でもそう考えると、今世の中の多くのことが「男性 or 女性」というふたつの選択肢から選ぶようになっているという状況に疑問を感じざるを得ないですよね。
SUNA: はい。性には、「体の性」「心の性」「表現する性」「好きになる性」と4つの種類があります。体のつくりを表すのが「体の性」、自身の性別の認識を表すのが「心の性」、服装、メークや言葉遣いで自身をどのように表現したいかを表すのが「表現する性」、そして恋愛対象を表すのが「好きになる性」。これだけのことすべてを、たとえば「LGBTQ」というような何かの枠に当てはめ表現するということ自体、非常に難しいことだと思います。
SUNA: たとえば私の場合、今日はスカートを履いていて、男性の夫がいて、子どもがいます。でも、明日になったら「ちょっとボーイッシュな格好してみたいな」とか「あの女の子可愛いな」とか、見た目の印象や好みが日々変わることがあります。それだって一種のジェンダーアイデンティティの変化。確固たるジェンダーがあったとしても、婚姻関係があったとしても、出産していても、関係ないと思うんです。
有田: そういう気持ちになることって、日常に割とよくあることかもしれませんね。
SUNA: はい、むしろ表現方法は変わってもいいし、決めてても戻ってもいいし、わからなくてもいい。自分は自分。大切なのは、自分と違う感覚に出会ったとき「否定しないこと」なのではないでしょうか。
なぜ子どものときから性やアイデンティティを理解することが大切なのか
SUNA: 性やアイデンティティについての理解が足りないことでいちばん心配なのは、それが差別、偏見や生きづらさに繋がってしまうということです。またそれが加速して、命に関わるようないじめが引き起こされているのも現状です。今、13人に1人がいわゆる性的マイノリティにあたるといわれています。これは、左利きの人や血液型がAB型の人の割合くらいです。
有田: 25〜30人くらいのクラスだとしたら、2人ほど該当するということですね。
SUNA: 私たちは生まれたときから、男の子は青の服、女の子はピンクの服、というような一種の刷り込みの中に生きています。だからこそ、それを当たり前として過ごしてきた子どもたちにとって、自分とはちょっと違う子に出会したとき、それをすぐに理解し受け入れるということは少し難しいことかもしれません。それだけに、そこは私たち身近にいる大人たちが、たとえば「ママやパパやあなたが知っていることがすべてではないのよ」や「今、常識といわれていることも間違いかもしれないのよ」または「価値観はひとつじゃないのよ」などということを、教えてあげるべきではないかと思うんです。
いじめや差別行為は、小学1年生からすでに起こっています。性やアイデンティティを理解することというのは、命や人権に関係すること。性が関係することは、恋愛や結婚を具体的に考えたりするときに大切だと思われがちですが、日々の生活や個人の価値観に関わってくることだからこそ、その多様性や価値観については恋愛などを考えるよりはるか前の “物心つくころ” には知っていて知っていってほしい。そのためには、まず親である私たちまわりの大人の知識のアップデートが必須だと感じています。
有田: “刷り込み” の中で過ごしてきたという点は、私たちやその親世代もきっと同じですよね。「今一度スタート地点に立つ」、私たち自身もそれくらいの気持ちで子どもたちと一緒に学んでいくべきなのではないかと強く思いました。
次回の最終話は、「あなたなら何て答える!? ママパパ〜、セックスしたら赤ちゃんできるの?」について。砂川梨沙さんと一緒に性教育クラス「いのちのお話」のスピーカーを務めた、助産師の徳留良奈さんにお話を伺います。
イラスト/Mai Kaneya
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ライター
有田 千幸
外資系航空会社のCA、建築設計事務所の秘書・広報を経て美容ライターに。ニュージーランド・台湾在住経験がある日・英・中の トリリンガル。環境を意識したシンプルな暮らしを心がけている。プライベートでは一児の母。ワインエキスパート。薬膳コーディネーター。@chiyuki_arita_official