「鯱」の読み方や意味とは?
みなさんは「鯱」という漢字を見たとき、どのように読みますか? 魚へんが付くためなにか海の生き物をイメージする方も多いはず。「鯱」は、「海の王者」とも言われる「しゃち」ともう1つ別の読み方があるのです。今回は、そんな「鯱」の読み方や「鯱(しゃち)」の生態、「鯱鉾」との違いについて紹介します。
「鯱」という漢字を辞書で調べてみると、大きく分けて2つの読み方が出てきます。
しゃち【×鯱】
1 マイルカ科の哺乳類。体長約7メートルのハクジラ。背は黒色、腹は白色。雄の背びれは大きく、直立する。性質は獰猛 (どうもう) で、イカ・魚類のほかアザラシ・アシカ・イルカ類、時には群れで鯨などを襲う。さかまた。
2 「しゃちほこ」の略。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用しゃち‐ほこ【×鯱】
1 想像上の、魚に似た海獣。頭は虎 (とら) に似て背に鋭いとげがあり、尾は空に向かって反り返る。
2 城などの屋根の大棟 (おおむね) の両端につける1をかたどった金属製・瓦製などの飾り物。火よけのまじないとされ、鴟尾 (しび) が、後世、形を変えたものともいわれる。しゃち。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
1つ目の「しゃち」ですが、こちらは水族館などで見かける海の生き物です。2つ目の「しゃちほこ」は、城の屋根の両端に付けられる飾り。空想上の生き物を指します。
「鯱(しゃち)」とはどんな生き物?
では、まず1つ目の「鯱(しゃち)」の生態について解説します。
「鯱(しゃち)」は、マイルカ科の哺乳類で、体長約7メートルあります。背中が黒色で、お腹の辺りと目の上の白い斑模様が特徴です。世界中の海に生息し、海洋生態系の頂点にたつ「海の王者」とも呼ばれています。その性格は獰猛(どうもう)であるとされ、イカや魚類、アザラシやアシカ、群れで鯨を襲うこともあるそう。
数頭から数十頭の集団で行動し、群れによって異なる鳴き声を持っています。イルカ並みに知能が高く、芸をよく覚えるため、水族館でも飼育されています。「鯱(しゃち)」は怖いというイメージを持っている方も多いようですが、人懐こい一面もあるようです。体が大きいにもかかわらず泳ぐスピードは、時速60〜70kmと哺乳類の中でも最速クラスです。
「鯱(しゃち)」は、古くから日本人と馴染みの深い生き物でもあります。アイヌは、山の幸の頭である「熊」と共に、「鯱(しゃち)」を海の幸の神として崇め、「レプンカムイ(=沖の神の意)」と呼んでいました。
「鯱(しゃち)」は、鯨を追って殺したり、海岸に追い上げて住民に多くの富を与える存在とされていたそう。海へ出る時も「鯱(しゃち)」に豊漁を祈願していたことが伝わっています。
「鯱(しゃちほこ)」ってどんな生き物?
次に2つ目の「鯱(しゃちほこ)」について解説します。なお、「鯱鉾(しゃちほこ)」という漢字もありますが、どちらも同じ意味になります。
意味
「鯱(しゃちほこ)」とは、中国の空想上の生き物のこと。頭は龍または虎、胴体は魚、そして天に向かって反り返る尾を持っています。ちなみに「鯱鉾(しゃちほこ)」の「鉾(ほこ)」とは、この尾の形が鉾のようにそそり立っていることから付けられた名前であるとされています。
そんな神秘的な生き物である「鯱(しゃちほこ)」には、波を起こし雨を呼ぶ力があるのだとか。当時の日本は木造建築が中心だったため、何より火事が大敵でした。そこで、寺院や城郭では本堂や天守に“火除けの守り神”として、「鯱(しゃちほこ)」を飾るようになったのです。
そして、「鯱(しゃちほこ)」を初めて城郭に取り入れたのが、戦国武将である織田信長といわれています。彼が作った滋賀県安土城の城跡からは、「鯱(しゃちほこ)」の瓦の破片が見つかっています。その後、豊臣秀吉が大阪城の天守に金色の「鯱(しゃちほこ)」を飾って権威を示し、全国の城にも用いられるようになったとされています。
ちなみに「鯱(しゃちほこ)」に金色の装飾を施したものは「金鯱(きんしゃち)」と呼ばれ、名古屋城のシンボルとして有名です。全国の「鯱(しゃちほこ)」が見られるお城としては、青森県の弘前城、愛媛県の松山城、兵庫県の姫路城、広島県の広島城などが有名です。歴史好きな方は、ぜひ足を運んでみては?
鯱張るとは?
「鯱」を使った慣用句に「鯱張る」があります。「鯱張る」とは「しゃちほこばる」と読みます。
意味を辞書で調べてみると、
しゃちほこ‐ば・る【×鯱張る】
1 鯱のようにいかめしく構えた態度をとる。しゃちこばる。しゃっちょこばる。「—・って訓辞を垂れる」
2 緊張してかたくなる。しゃちこばる。しゃっちょこばる。「—・ってお辞儀をする」
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
という意味になります。よく似た読み方も複数あるようですね。緊張して体が固まってしまった時や、もったいぶった気難しい態度をとる人などに使用する慣用句です。「新入社員である彼は、鯱張ってお辞儀をした」「あまり鯱張らずに楽にしなさいと上司は言った」というように使うことができます。
「鯱(しゃち)」と「鯱(しゃちほこ)」に関係性はあるの?
同じ漢字を使う「鯱(しゃち)」と「鯱(しゃちほこ)」ですが、両者は別の生き物といえます。
もともと「鯱(しゃちほこ)」は、14世紀頃に中国で生まれた空想上の生き物でした。その外見の特徴が魚と虎に似ていることから「鯱」という漢字が使われています。詳しい理由は定かではありませんが、もともと空想上の生き物につけられていた名前を、明治時代に海の生き物(現在の「しゃち」)につけたとされています。
英語表現とは?
「鯱(しゃち)」は英語で、「orca」または「killer whale」といいます。「orca」はラテン語で「魔物」という意味があるそう。実際の会話の中では「orca」の方を使うのが一般的です。「killer whale」の「killer」は「殺す」という意味。「Whale」は「鯨」です。「鯱(しゃち)」が、イルカや鯨を襲う習性があるため、名付けられたとされています。
・Orcas are beautiful animals(鯱は美しい生き物です)
・I saw a real orca yesterday(私は昨日、本物のシャチを見ました)
・I saw a killer whale from the boat(私は船から鯱を見ました)
・Killer whales are very smart(シャチはとても賢いです)
最後に
今回は、「鯱」という漢字の読み方や由来、「鯱(しゃち)」の生態や「鯱(しゃちほこ)」の歴史について紹介しました。
読み方が2つある「鯱」という漢字ですが、海の生き物である「鯱(しゃち)」と、中国の空想の生き物である「鯱(しゃちほこ)」とは、まったく別の生き物であることがわかりましたね。同じ漢字を使っていて紛らわしいため、注意しましょう。「鯱」の漢字を使った豆知識として覚えてみてはいかがでしょうか?
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