「板に付く」の板、どんな板か知っていますか
「板に付く」という言葉は、普段なんとなく使うけど、その由来は知らないという人が多いようです。 この記事では、詳しい由来と用例の例文を紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
「板に付く」の意味と由来
「板に付く」という表現は、現代でもよく用いられており、一種の慣用句といってもよいでしょう。「スーツ姿が板に付いてきたね」などと使います。
何気なく使っている言葉ですが、「何が板に付いているのか」と考えるとわからない方も多いのではないでしょうか? そこで「板に付く」という言葉の意味と由来について解説しましょう。
板(いた)に付(つ)・く 1 役者が経験を積んで、演技が舞台によく調和する。 2 経験を積んで、動作や態度が地位・職業などにしっくり合う。「—・いた司会ぶり」
元々は舞台劇が発祥
「板に付く」の「板」は、歌舞伎などの舞台の「床板」を意味しています。 歌舞伎役者の演技が上達してきたときに「板に付いている」と表現しました。すなわち演技の仕草の足の運びが舞台の床板にしっかりと付いて見えるという表現が由来となっているのです。
役者の演技の上達度合いを表現した「板に付く」という言葉が、やがて舞台劇以外の庶民の生活の中で比喩的表現として定着したというわけです。
どんな意味で使われる?
「板に付く」という言葉は、舞台劇での役者の演技力を評価する言葉が由来だけに、ある事象において未熟だった者が上手になってきたさまを表す言葉として一般社会でもよく用いられています。
会社なら上司や部下に対して、学校なら教師が生徒に対して、部活なら先輩が後輩に対して、家族なら親が子に対して、または兄や姉が弟や妹に対して、物事の上達度を評価して使うことが多い言葉が「板に付く」なのです。
「板に付く」の用例
「板に付く」は多様な状況で使えるので、比喩的表現としては一般的な日本語の用法として便利に用いられている印象があります。 使い勝手がよい「板に付く」の用例について、3種類のパターンを以下に紹介しましょう。
家族で使う「板に付く」
家族間での「板に付く」という表現は、子供の成長過程を毎日見ている親だからこそ口にできる言葉だといえるかもしれません。 親が子供に言う「板に付く」という言葉の使用例を以下に挙げてみましょう。
・一郎君の縦笛、だいぶ上達してすっかり【板に付いてきた】ね
・うちの娘の歌、最近はずいぶん【板に付いてきた】ようだよ
・雄二は、ゴールキーパーぶりが【板に付いてきた】な
以上の例文のように、年長者が未熟だった子弟の上達ぶりを評して使う言葉が「板に付く」です。
会社で使う「板に付く」
例えば新入社員は、上司や先輩から仕事における上達のレベルを評価されることになります。 会社内での会話で用いられる「板に付く」の使用例を以下に紹介しましょう。
・山田君は新人の頃に比べると、最近はだいぶ仕事が【板に付いてきた】な
・部長、数か月前に主任に昇格した田中君、今では主任らしい【板に付いた】仕事ぶりですよ
上記のように、目上の立場から部下や後輩に対して、仕事ぶりの良さをほめて表現する言葉として「板に付く」がよく使われています。
「板に付く」は目上の人に使える?
未熟者の仕事ぶりなどがさまになってきた状態を、舞台監督や先輩役者などが評する言葉が「板に付く」です。 それだけに「板に付く」という言葉は、あくまでも目上の者が目下の者の行動に対して言う言葉なので、決して目下が目上に対して使う言葉ではありません。
「板に付く」は目下の者が目上の人に対して使うのはご法度です。
「板に付く」の用語アラカルト
歌舞伎用語から始まった「板に付く」という言葉は、令和の現在も比喩的表現として使われ続けている息の長い言葉です。 「板に付く」は、仕事や作業などを繰り返すことで一人前になった人物の仕事ぶりを表現する際に、短くて便利な慣用語として用いられています。
ここで、上達ぶりをほめる「板に付く」の類儀語と、逆の意味を持つ対義語を、いくつか以下に紹介しましょう。
「板に付く」の類義語
「板に付く」と意味が似ている言葉では、以下のような表現が挙げられます。
【類義語1】様になる(さまになる)
「様(さま)になる」は「板に付く」とほぼ同じ意味の言葉といってよいでしょう。
ニュアンスとしては、動作や仕草に対して用いられることが多いようです。 「あの人は、格好が【さまになっている】ね」という風に使われます。
様(さま)にな・る それにふさわしいようすになる。かっこうがつく。「着物姿が—・っている」
【類義語2】堂に入る(どうにいる)
「堂に入る」も「板に付く」と同じような意味ですが、「堂」は「堂々としているさま」を表現しており「板に付く」よりも、さらに習熟度が高いニュアンスがあります。
「板に付いたね」と褒められた人が、さらに精進して一流になった際に「堂に入っていたね」と、投げかけるにふさわしい言葉といえるでしょう。 なお「入る」は「はいる」ではなく「いる」と読むのが正しいので注意しましょう。
堂(どう)に入(い)・る 《「堂に升(のぼ)りて室に入らず」から》学問や技芸がすぐれて、深奥をきわめている。また、技術的に熟練していて、身についている。「—・った演技」 [補説] この句の場合、「入る」を「はいる」とは読まない。
この他「板に付く」の類義語として以下の単語が挙げられます。 「熟練(じゅくれん)」「熟達(じゅくたつ)」「習熟(しゅうじゅく)」いずれも、努力して仕事や作業の成果が上達していくさまを表す単語です。
「板に付く」の対義語
それでは「板に付く」と対は反対の意味を持つ「対義語」にはどのような言葉があるのでしょうか? 以下に紹介します。
【対義語1】半人前(はんにんまえ)
「仕事が板についていない」すなわち、未熟な人のことを「半人前」という言葉で表現します。
「あいつは頑張ってはいるが、まだ【半人前】だな」 という風に使います。 「半人前」という言葉には侮蔑のニュアンスはあるものの、一人前になるために努力している修行中の状態を指す言葉ともいえるでしょう。
はんにん‐まえ〔‐まへ〕【半人前】 1 一人前の半分。「半人前の量」 2 一人前の半分の働きしかしないこと。未熟であること。「仕事は半人前でも口は一人前だ」
【対義語2】素人臭い(しろうとくさい)
「素人(しろうと)」とは、仕事や作業における未経験者、または未熟者を指します。 そして「素人臭い(しろうとくさい)」とは、すでに経験を積んでいるのに、未熟なため、まるで素人のように見えることを表現した言葉です。
したがって「半人前」よりも、相手を侮蔑するニュアンスが強い言葉です。未熟さを表す「素人」にわざわざ「臭い」という単語を添えて相手を侮辱した表現といえるでしょう。 人を傷つける言葉なので、なるべく避けたい俗語です。
まとめ
「板に付く」は、江戸時代から令和になって現代でも用いられている便利な比喩表現の言葉であり、物事が上達し一人前になってきたことを示す「ほめ言葉」でもあります。 ただし、あくまでも目上の者が目下の者に対して用いる言葉であることを忘れてはなりません。
また、いかに目上の立場とはいっても「上から目線」で言っていると思われかねないケースもあるので、会社などではTPOを考えて用いる気遣いが必要でしょう。
親が頑張って上達した子供に投げかける誉め言葉としての「板に付く」なら、子供にとってはよい励みとなることでしょう。
写真・イラスト/(C) Shutterstock.com
※引用はすべて〈小学館 デジタル大辞泉〉より