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2018.06.15

オリンピック外交に女性たちを投入する真の思惑は…【三浦瑠麗の「優しさで読み解く国際政治」】

国際政治学者・三浦瑠麗さんに教えていただく世界の「今」。今回はトランプ政権の「方向性」について伺いました。

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平昌オリンピック外交で活躍した女性たちに秘められた思惑

2月に平昌オリンピックが無事閉幕しました。韓国で繰り広げられた各種競技を熱く応援された方々も多いのではないでしょうか。 ただ、同時にこの五輪は非常に政治色の強いものでもありました。まずは、核ミサイル開発をやめない北朝鮮への先制攻撃の噂が米国政府から各方面に流されていた中で、韓国が北朝鮮と合同チームを結成したり、キム・ジョンウン氏の妹、キム・ヨジョン氏を丁重にもてなすなどの宥和を演出する。そして、米国のペンス副大統領は水面下で北朝鮮と接触する方向性でいたものの、北が態度を硬化させてからはヨジョン氏を独裁者の罪を負うべき存在だとするなど、激しく非難しました。

他方、日本の安倍晋三首相はペンス副大統領と事前に日本で会談し、歩調を合わせつつ、拉致問題に関してひと言言おうと北朝鮮の序列第2位といわれるキム・ヨンナム氏にさっと接触する――。 閉会式では、米国は大統領補佐官でありトランプ大統領の娘であるイヴァンカ氏を投入しました。イヴァンカ氏は上院議員らと訪韓しましたが、青瓦台の中でも特別な別館での晩さん会など、補佐官としては異例の厚遇を受けたようです。しかし、北朝鮮は負けていません。なんと、諜報や軍事の数々の作戦を仕切ってきた労働党幹部、キム・ヨンチョル氏を閉会式に派遣したのです。

イラスト/本田佳世

宥和に誘おうとした韓国に対して、大きな試練を突きつける北朝鮮

時を遡ること8年前、2010年の春に韓国の哨戒艇「天安」が突然沈没する事件が起きました。国内外の専門家らによる調査の結果、北朝鮮の魚雷攻撃であるという見解が示されました。当時のイ・ミョンバク大統領は激高し、強硬な軍事的報復をしようとします。ところが、徴兵制のある韓国では若者が開戦リスクを肌身で感じる立場にあります。すわ開戦かと社会が緊張し、結果的に抑制を求める進歩派が統一地方選で大勝しました。若者が大挙して投票に出かけたからです。

しかし、いくら戦争を避けたいからといっても、国辱を悔しく思う気持ち、死者を悼む気持ちが韓国の国民感情に傷跡を残したことは間違いありません。 今回訪韓したキム・ヨンチョル氏は、その哨戒艇沈没事件を指揮したと言われているのです。お分かりでしょうか。北を宥和に誘おうとした韓国大統領に対して、大きな試練を突きつける人選であったことは…。

真の指導者のポジションにたくさんの女性が就くことで、不毛な「パペット」批判は減少傾向に…

改めて五輪での外交を振り返ってみると、女性が果たす役割がいかに象徴的で大きなものだったかと身に沁みます。イヴァンカ氏は韓国でも大人気です。それは強面のトランプ大統領とは異なり、ソフトで魅力的なイメージを持ち、実際に世代から言ってもかなりリベラルだからでもあるでしょう。他方、彼女は権力も持ち合わせています。当然、彼女は父である大統領からの対北政策に関するメッセージをムン・ジェンイン大統領に伝えたとされます。

トランプ大統領に否定的なリベラル系メディアは、チャーム(魅惑)作戦でキム・ヨジョン氏にイヴァンカ氏が競り勝てたかどうかは微妙であり、せいぜい引き分け、と皮肉っぽく論じています。保守系メディアはそれを批判し、もしもトランプ大統領の政策やイデオロギーの責めをイヴァンカ氏に負わせるならば、当然虐殺や拷問を躊躇わない地上で最もひどい指導者であるキム・ジョンウン氏の妹であるヨジョン氏にその責めを負わせるべきだと論じています。 このように、指導者の信頼が厚い女性を使って、ソフトな外交イメージを醸しだそうとする両国の指導者に関し、メディアは国内の政争の観点から口汚く言い争っています。女性活躍という観点からすると、鼻白んでしまう展開ですね。真の指導者のポジションにたくさんの女性が就くことで、不毛な「パペット」批判が展開する空間は徐々に減っていくのではないでしょうか。

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国際政治学者

三浦瑠麗

1980年生まれ。国際政治学者。東京大学農学部卒業。東大公共政策大学院修了。東大大学院法学政治学研究科修了。法学博士。現在は、東京大学政策ビジョン研究センター講師、青山学院大学兼任講師を務める傍ら、メディア出演多数。気鋭の論客として注目される。

Domani5月号 新Domaniジャーナル「優しさで読み解く国際政治」 より
本誌取材時スタッフ:構成/佐藤久美子

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