「落葉松」の読み方と意味
「落葉松」という漢字を見ると、つい「おちばまつ」と読んでしまいそうですが、「落葉松」と書いて「からまつ」と読みます。落葉松とは、マツ科カラマツ属に属する落葉高木のこと。
亜高山帯に多く分布し、本種は日本特産であるため、落葉松を英語表記すると「Japanese Larch」となるそうです。現在では、世界各地で栽植され、「アメリカカラマツ」や「オウシュウカラマツ」など、数種が知られています。
円錐形の樹冠をしている落葉松の樹皮は灰褐色で裂け目があり、高さは30メートルにもなるため、一般的なマンションの10階に相当する高さになります。葉は緑色をしていて柔らかく、長さが3センチほどの針状です。秋には黄色、または黄褐色に色づき、やがて落葉します。
針葉樹の中では丈夫で、耐久性や耐湿性に優れているため、落葉松は建材や土木材として用いられていました。年数を経た落葉松からは樹脂が染み出し、木肌が赤みを帯びて風格のある美しい木材となります。成長が早いため、木材利用がひっ迫した際には大変重宝され、寒冷地で植林が盛んになったのだとか。
しかし、割れやすいため、どうしても仕上げ面が粗くなってしまったり、乾燥によるねじれが生じやすかったりする落葉松。住宅の品質確保の促進などが法律として定義された現在では、そのまま建材として使用するというよりは、集成材などに加工されたものを使用するということが多いです。
また、マツ科の植物の樹脂からは「テレビン油」と呼ばれる精油を得ることができ、落葉松の樹脂からも生産されます。この精油は、主に塗料や医薬品、油絵の画溶液として利用されるそうです。
なお、落葉松のことを「ラクヨウショウ」と表記することもありますが、こちらは間違いではありません。落葉松には複数の呼び方や漢字表記があり、ほかにも「フジマツ」や「唐松」などがあります。「唐松」という漢字が当てられたのには、中国の絵画である「唐絵」に描かれる松の木と落葉松の見た目が似ていたからという理由があるそうです。
「落葉松」と軽井沢
皆さんは、『落葉松』という合唱曲や詩についてご存じでしょうか。合唱曲・詩ともに、長野県の軽井沢に関係しているのです。ここでは、『落葉松』と軽井沢の関係について紹介します。
1:軽井沢について
自然豊かな避暑地として大変人気のある軽井沢ですが、昔は長年に渡る浅間山の噴火による影響を受けたり、牛馬の放牧地として利用されていたりしていたため、森林はあまり多くありませんでした。そのため、大雨が降ると、土砂災害などが起こりやすく、大きな問題となっていたのです。
また、軽井沢の開発は明治初期から始められていたのですが、戦後はホテルや高級別荘などが進駐軍の保養施設として接収されるなど、美しく清澄な軽井沢の街は、軍事基地のような物々しい風景になってしまいました。
本来の美しい軽井沢の街を取り戻すべく、戦後からは開発が本格的に進められることとなり、その際に落葉松が盛んに植林されたのだとか。現在では、軽井沢の林の多くが落葉松の人工林となっていますが、天然の落葉松林も各地で見ることができます。
軽井沢といえば、ジョン・レノンが愛した街としても知られています。妻であるオノ・ヨーコの別荘が軽井沢にあったことがきっかけで訪れるようになったと言われていますが、彼もまた、思わず深呼吸したくなるような落葉松林の中を歩いていたのかもしれません。
2:合唱曲の『落葉松』
「落葉松の秋の雨にわたしの手が濡れる」という歌いだしの『落葉松』。この歌はもともと、詩人・野上彰氏による詩だったのですが、作曲家の小林秀雄氏が野上の詩に感銘を受けて、曲を合わせたそうです。野上彰氏は『軽井沢物語』という小説も残しており、軽井沢の美しい自然をこよなく愛していたことが分かります。
ゆったりとした曲調や歌詞には、深まる秋の情景や温かみを感じることができますね。
3:詩の『落葉松』
『落葉松』は、明治から昭和初期にかけて活躍した詩人・北原白秋による詩で、現在では中学校の教科書にも掲載されています。北原白秋といえば、詩だけでなく、短歌や童謡、民謡など、幅広い分野で活躍したため、彼の作った歌や俳句などが思い浮かぶ方も多いのではないでしょうか。
北原白秋が作った『落葉松』は、詩集の『水墨集』にまとめられています。大正10年(1921)に、妻と一緒に軽井沢を訪れた白秋は、堂々とそびえ立っている落葉松の林から着想を得て、落葉松を題材とした詩を作ることにしたのだとか。
落ち着きのある詩からは、静寂に包まれた初夏の落葉松林を想像することができます。
「落葉松」の見分け方や特徴は?
マツ科カラマツ属に属する落葉松ですが、アカマツやクロマツなど、マツ科の植物には似たような見た目をしたものが多く、見分けるのが難しいかもしれません。しかし、落葉松にはほかのマツ科とは決定的に異なる特徴があります。それは、落葉松が日本に自生するマツ科の中で唯一、落葉性であるという点です。
落葉松の葉は、秋になると緑色からきれいな黄金色に紅葉し、その後一斉に落葉します。一般的な落葉樹の紅葉と比べて時期が遅いことから、落葉松の紅葉は冬の訪れを意味するといわれることも。
また、軽井沢の開発の際に落葉松が植林されたことについては先述の通りですが、北海道にも広大な落葉松林があることで有名です。しかし、北海道の落葉松は「グイマツ」と呼ばれる寒冷地特有の品種が多くなっています。
このグイマツは、落葉松と同属ですが、北東アジアの寒冷地に多く見られるもので、落葉松よりも葉が短く、「松ぼっくり」とも呼ばれる果実の種鱗が丸くて外側へ反り返らないことが特徴として挙げられます。
最後に
今回は、「落葉松」の意味や見分け方、「落葉松」を題材とした作品について紹介しました。マツ科では珍しい落葉性という特徴を持つ「落葉松」。美しく色づいて落葉していく様子に、多くの人々が心を打たれたということが分かります。心を落ち着かせたい時や日々の疲れをリフレッシュさせたいときなどには、ぜひ落葉松林を訪れてみてください。
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