【目次】
第14回:What’s サマースクール!? 人気校は今が検討の時期!
〈お話を伺った方〉
GKcors Co-Founde Director 満木夏子氏
聞き手・原稿:教育エディター 田口まさ美
▶︎Instagram: @masami_taguchi_edu
▲左から:ジョー・チャンさん(ハーカースクールサマー・ELIプログラム責任者)、満木さん、ジョー・ローゼンタールさん(ハーカースクールディレクター)
田口:サマースクールとは、語学学校や大学、私立学校が夏休みの期間を利用して開催する外部の子供たちも参加できるプログラムのことで、国内インターおよび各国で行われています。このサマースクール、人気のものは春先には満席となってしまい、気づいた時には「時すでに遅し!」なんてことも。 一体どんなもので、いつから準備すればいいのか?など、本場アメリカの名門、ハーカースクールでの様子をもとに、サマースクール全般の基礎知識を教えていただけますか?
満木:はい、サマースクールは国内のインターナショナルスクールでも体験できますが、今回私はシリコンバレーにあるスタンフォードが作った一貫校「ハーカースクール」に取材に行きました。2歳の息子も連れて行き、息子は別の学校のプレスクールに2週間通わせながら、トータル1ヶ月ほど家族でシリコンバレーの夏を過ごしてきました。
田口:アメリカのサマースクールって、敷居が高いものですか?
夏子:決してそんなことはないですよ。ただ、学校によっていろんなサマースクールがありまして、年齢に応じアクティビティ中心に楽しめるコースや、長時間の座学でしっかりお勉強中心のコースなど、その内容は様々で、ハーカーのサマーは上級者向きです。
田口:アメリカはボーディング制度がないので、小学生のサマースクール体験には親の付き添いが必須ですが、長期で仕事を休むのはご両親ともに大変ですよね?
満木:そうですね。私は仕事も兼ねていましたし、たまたま夫も都合がついたのでラッキーでしたが、通常は難しいですよね。例えば、友達家族と協力して1週間ずつ交代交代で子供を預かり2週間コースを受けるという方もいました。それも良いアイディアだと思います。
田口:友達家族と一緒に行くのは、心強いし親も楽しそうですね! サマースクールでは、子供たちは何をするのでしょうか?
満木:以下にご説明しますね。プレスクールの場合は通常の幼稚園のようにアクティビティ、お遊戯中心となります。小学生の場合は、午前だけ勉強して午後はアクティビティ、という学校など様々ですが、ハーカーは座学の勉強を長めにするややハードなサマースクールになります。英語力にある程度自信があり、さらに英語力を上げたいお子様向けには、こちらのようなコースがおすすめです。
【一般的な開催時期】
・7月上旬〜8月頭/2週間〜1ヶ月くらい
※ハーカー校の場合は、6月〜、7月〜、8月〜、の3タームで期間が決まっており、2週間タームで、最大6週間通うことが可能
■プレスクール(未就学児)の場合
通常の幼稚園や保育園の内容と大きくは変わりません。屋外&屋内のアクティビティを工夫しながら英語力が養われるように行われます。
[開園8:30〜/閉園17:00]
(※午後何時にピックアップしてもOK)
・屋内で工作やダンス
・屋外でアクティビティ
息子は屋外では探検ゲーム“ダイナソーを探せ!”などをやらせていただきました!とても楽しそうでしたよ。
■小学生の場合(例えばThe Harker school Summer 2023)
【クラス】
初級、中級、上級に分かれ、その中でもまた細かくクラス分けされていて、1クラス10人ほどの少人数制。1クラスに先生1名とチューター3名くらいとかなり手厚い。
【参加者】
国籍比率などは学校によってかなり違う。ハーカー校の場合はアジア系がとても多い。まず中国。それから韓国。ハーカー本校に入りたい子たちが参加することが多く日本人は1割ほど(各クラスに1、2名)。
【セキュリティ】
授業妨害や他の子への暴力や嫌がらせなど子供の態度が悪いと、期間の途中でも退学になる。注意を数回受けても直らないと、強制退学になることも。
【授業内容】
基本的に英語レッスン。その子のレベルに合わせたスピーチなどの4技能をバランスよく伸ばす授業構成。
(ある1日のタイムスケジュール)
−Elementary (小学校低学年)−
8:00-8:25 a.m. Recess(朝の自由時間)
8:25-8:45 a.m. Attendance/Morning Announcements(朝礼)
8:45-10:15 a.m. Class (クラス)
10:15-10:30 a.m. Recess (休み時間)
10:30-11:30 a.m. Class (クラス)
11:30 a.m.-12:10 p.m. Lunch/recess (ランチ:持ち込みOK)
12:10-12:50 p.m. Class (午後のクラス)
12:50-1:40 p.m. Elective Class (Recreation Activities) (選択クラス、レクリエーション)
1:40-2:20 p.m. Class (午後のクラス)
2:20-3:20 p.m. Activities/Snack (アクティビティ。スナックタイム)
3:20-4:00 p.m. Class (午後のクラス)※この時間帯で帰宅する生徒が多い
4:00-4:40 p.m. Elective Class (Recreation Activities) (選択クラス、レクリエーション
4:40-5:15 p.m. Giddy Up/Recess (自由時間)
5:15-5:30 p.m. Shuttle leaves BKN-arrives STG by 5:45(シャトルバスお迎え)
子供が自力でがんばる経験をするサマースクール
田口:サマースクールの一番の利点はどんなことだと思いますか?
満木:2週間で英語力が飛躍的に伸びることはあまりないかもしれませんが、学校という環境の中で、言葉が通じない子と話すことで、伝えようとする意識が芽生えます。親がいない場で、自ら伝えようとしないと何も伝わらない。自分でやらなきゃいけない。子供が初めて「自分でどうにかしないといけない」と思った時に、自意識が芽生えると思います。それは日常ではなかなかできない経験です。
私の息子も2歳半ですが、それなりにストレスのかかる環境下だったのでしょう、スクール後、急に英語のワードが出てくるようになりました。それまでは日本語と英語のミックスになりがちでしたが、頑張って英語だけで伝えようという意思が見られるようになったのは大きな成長だったと思います。
だからこそ、あまり無理に能力以上のコースを選んでしまうのは禁物です。実際に体験する子供にとっては負担であるという認識が大切で、あまり無理をしてトラウマになったり、英語への意欲を削いでしまうことにならないように注意してください。そういったケースも時々聞きますので、あくまでお子様の等身大のコースを選ぶことで、子供も楽しめ、ひいては効果の最大化につながると思います。
余談ですが、ママたちは子供がスクールに通っている間はやることがないので、普段なかなか取れない一人時間を過ごせる夏休みになりますよ!今はオンラインで仕事をしようと思えばできる方も。子供を預けてご自身も語学学校に通う人もいらっしゃいます。保護者にとっても有意義な時間になるとよいですよね。
田口:そうですね。せっかく行くなら、ママも楽しいのがいいですね!
いざサマースクールへ!いつから準備すればいい? どの国へ行く?
田口:さて、サマースクールを検討したいママは、まずどう動けばいいでしょうか。
満木:サマースクールへの申し込みは、大体1月スタート。半年以上前から申し込みする形になります。なので、留学エージェントに相談し始めるのは12月頃までがおすすめです。
1月から申し込みが始まり、人気校になると1月中に枠が埋まったりもします! 申し込んだらすぐにアクティビティの申し込みもしたほうがいいですよ。人気のアクティビティは早い者勝ちです。
田口:え〜早い! 今から余裕を持ってエージェントを探し始めてちょうどよいくらいですね。
満木:そうなんです。実際ハーカースクールには夏が終わってすぐの9月から既に問い合わせが入ったりもしています。留学エージェントはたくさんありますが、その企業が提携のあるスクール・リストをまずチェックいただき、そのスクールが自国においてどういった位置にあるのかを、ご自身で調べることをおすすめします。
例えば生徒が少ないが故に、海外生徒を募集しているだけの学校だったりしないか。そういった“学校の質”について、エージェントに任せきりではなく知っておくことは大事ではないかと思います。
また、英語の準備がゼロで行くよりも、ある程度準備して行ったほうが絶対にリターンが大きいはず。留学エージェントは学校選びや申し込みを代行してくれるのですが、それに加えて実際に行く子供の準備までもを考えてくれる企業の方が、効果を期待できるかもしれません。あとは、先ほども申し上げましたとおり、座学の長さやアクティビティの内容などを調べて、お子さんに合いそうな学校を選んであげるといいですね。
留学先の国ですが、インターナショナルスクールに通っていらっしゃるお子様に人気なのは、その後の進路も考えてかイギリス、アメリカ、スイスなどです。そうでなく、日本の学校に通っていて英語初心者のお子様に最近人気なのは、アジア系。シンガポールやマレーシア、タイ。この辺りは時差も少なく近場で行きやすいですよ。ハワイなども、リゾートで親御さんも楽しめそうなイメージがあるのか、人気が高いです。小学生まではその辺りの国が中心で、中高生以上になると、カナダやオーストラリアが人気国になってきます。
中国などアジア系のご家庭は、その学校に進学することが目的でサマースクールへ参加されることも多いです。学校の先生に少しでも顔を覚えてもらいたいとの思いや、子供自身がその学校を疑似体験できるようにとの考えで参加されます。
海外移住を考えているならば、希望学校へのサマースクールの参加は是非検討いただきたいことだと思います。弊社GKでもお手伝いしています。
サマースクールに参加したことでの本校受験の合否への影響は“ない”という前提ですが、やはり先生も人間ですし、オンライン面接だけよりは、お子様自身も学校への理解が深まるだろうと思います。
田口:他に保護者が用意するものは?
満木:提出する書類がたくさんあるので、用意しなければなりません。
●申込書
●承諾書(同意書系)
●州に提出する書類が3種類
●小さなお子様は、予防接種の履歴(母子手帳の英訳)
※予防接種は国や州によって受けなければいけないものが違うので、行く地域の予防接種リストは早めにチェックすること!
盲点ですが、母子手帳を英訳も結構大変なのでGKでお手伝いをしています。保険、宿泊、航空券、レンタカー、ビザ、ESTAなども入国に必要。全部やってくれるエージェントさんもありますが、ご自身でやる際には意外と手間ですので、抜かりなく早めから準備を!
How much!? サマースクールのお値段
満木:サマースクールにかかるお値段については、以下が目安になるかと思います。
〜アメリカの場合〜
[2週間コースの学費]
2000〜3000$
[宿泊費相場]
1泊130〜200$として×2週間=1820〜2800$
(エアビーなどが便利。大きめのアパートメントで友達家族とシェアしても!)
[飛行機]
時期により変動あり
アジアの場合は飛行機代など含め上記の半分近くのトータル・コストになるかもしれません。レンタカーなども値段も考えておくと良いと思います。
パパの育児&教育参加率の高さと、日本教育と海外教育の違い
田口:今回アメリカに行って、他に感じたことはありますか?
満木:各国のパパの育児&教育参加率は高いですね。富裕層のとても忙しく働いているエリートでも、子供の面倒をよく見るパパは多いです。子供の送迎の半分は父親です。積極的というか、「それが普通」と思って子育てを主体的にしている感じですね。欧米系だけでなく、中華系も含めて日本よりもかなり父親が教育に関わっているなと感じます。
また、中国・韓国系は、アメリカへの教育移住を熱心に考えているご家庭が多いです。こうしてアメリカに教育移住する家庭が増えていくとすると、将来的にもしかしてすごいパワーになるのかな、と思ったりもします。ここに日本人が1割しかいないと言う現実を、どう捉えていけばいいのかは難しいところですね。
また、アメリカでは※SELの教材やマネー教育系の教育教材が増えています。ただ教育の質に関しては、知れば知るほど日本の教育にも、素晴らしい面があると思います。
※Social Emotional Learningの略で、日本語で「社会性と情動の学び」。対人能力や共感力、自己理解や感情制御力などを伸ばすプログラムでアメリカ中心に広まっている。
SELのような相手の気持ちを想像するスキルなどは、もともと日本にこそあるものではと思いますし、義務教育機関で、幅広いレベルの子供たちに丁寧に一般知識のインプットをしてもらえる日本の教育システムは、ありがたいものだと思います。
※STEAM教育も、昨今日本でも流行っていますが、日本の小学校受験の内容や初等教育は、そもそも9教科の中にサイエンス的な知識も入れながら、図工や音楽などの技能も組み合わせていて、STEAMと言えるのではないでしょうか。
※Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学・ものづくり)、Art(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)の5つの単語の頭文字を組み合わせた教育概念
日本の教育は、今あるものを大切にしながら時代に合わせてリニューアルさえしていければ、素晴らしい内容だと思います。海外の教育が全て優れているというわけではありません。ただ、サマースクールのような海外経験も上手に組み合わせながら学びを深め、子供たちが国際的な視野ももって成長していってくれると理想的ですよね。
田口:日本の教育の良さと、海外の良さと、どちらも取り入れられたらいいですね!
私個人としては、英語学習の魅力は十分に感じながらも、必ずしも国民全員が英語を話せることが最重要とは思っていません。英語以外に最重要な学習はあると思っているのと、少なくとも、“誰もが英語を話せないと生きるのに困る”というような状況にならないことの方が望ましい、とは思っています。
つまり、日本人の多くが英語を話せないのは、海に囲まれた日本が「日本語だけで生きてこられた」ということに他ならないからです。国民の多くが第二外国語として英語を話せる国々は、その必要性があるのです。英語を「世界で戦う武器」のように言う人がいますが、果たして言語は武器でしょうか?
近年は、「インターナショナル」という言葉の出番が減り、代わりに「グローバル」という言葉が使われてきました。このグローバルという言葉は、1つの世界という思想です。ですが、“世界は1つ”という思想で得をする国はどこでしょうか。誰が言い始めたのでしょうか。
小国・少子化・極東と三拍子揃った日本は、他国に用意された土俵での戦いに勝つ以外に、幸せに生きられる道をどのように確保できるか。それを賢く模索していくべきだとも思うのです。
ここ数年で世界はまた新たな局面を迎えつつあります。急激に世界のパワーバランスが変化し、世界の各方面に力が分散されつつあります。つい最近まで、米ドルの持つ力は今よりも偉大でした。例えば石油の取引は米ドルだけで行われていましたが、近年米ドル以外での取引が許可されるようになりました。同様に、英語の世界の公用語としての力は、いつまでどのような形で続くのでしょう。もちろん、簡単には変化しないと思います。ただ今までにない流れが、世界で起こっています。
そんな激動の時代に、本当は「外国語が話せなくても生きられる日本を、どう守っていけるのか?」をこそ、真剣に考えていくべきかもしれないのです。逆説的ですが、そのためにしっかりと英語でコミュニケートできる能力が必要になるのかもしれません。
同じ学ぶにしても、学びは目的が大事です。どの国にとっても、「語学」は戦うためではなく、本来お互いが「相手(の国)を理解し合い尊重し合うため」に学ぶもの。今こそインターナショナルの概念で、恐怖心や戦いのためではなく、人の幸せと整った倫理観のために学んでいきたいですね。
そんな、英語教育への理想に立ち返りながら、今回はサマースクールのご紹介をさせていただきました。
プロフィール
満木 夏子 Natsuko Mitsugi
GKCors 取締役。大学卒業後、2年間渡英。帰国後は、グローバルカンファレンスの企画・運営を経験。国内外での経験を経て、日本のグローバル化に課題を感じるようになる。日本からグローバルに挑戦する人を増やすためには根本的な改革と育成システムが必要と考え、英語の幼児教室GKcorsを2018 年に設立。運営責任者として、幼少期からの英語教育・グローバル発想の育成に努めている。GKcorsは、米国シリコンバレーのトップスクールとの提携も果たし、グローバルスクールへと成長中。
▶︎GKCors 公式HP
Instagram▶︎@gk_japan
Interview& Writing
田口まさ美
〈教育エディター〉
小学館で教育・ファッション・ビューティ関連の編集に20年以上携わり独立。現在Creative director、Brand producerとして活躍する傍ら教育編集者として本連載を担う。私立中学校に通う一人娘の母。Starflower inc.代表。Instagram▶︎@masami_taguchi_edu
教育現場より