懸案事項(けんあんじこう)とは?
懸案(けんあん)とは、前から問題になっていながら、まだ解決されていない事柄を指します。懸案だけでも事柄を指しますが、語尾に「事項」をつけて「懸案事項」と表現するともあります。
「事項」とは、ある物事の中の一つ一つの事柄です。つまり、懸案も懸案事項も同じ意味で使われる言葉です。「懸案」だけでは収まりが悪いと感じるときは、「懸案事項」と表現してみてはいかがでしょうか。
【懸案】けんあん
前から問題になっていながら、まだ解決されていない事柄。「―事項」「年来の―」
(引用〈小学館 デジタル大辞泉〉より)
使い方を例文でご紹介
懸案事項は少し硬い印象のある言葉のため、プライベートの会話というよりはビジネスシーンで使われる傾向にあります。例文を通して使い方を見ていきましょう。
・このプロジェクトには懸案事項が多数ある。解決しないと先に進めない。
・新しい店長に懸案事項について相談してみたが、暖簾に腕押しだった。
・懸案事項を協議したが、良い解決策が見つからなかった。
懸念事項(けねんじこう)との違い
懸念事項(けねんじこう)とは、気に掛かって不安に思う事柄のことです。懸案事項と漢字も発音も似ているため、意味の違いに注意せずに使われることもあります。
しかし、懸案事項は「現在の時点で解決していない事柄」であるのに対し、懸念事項は「将来的に不安になる事柄」であり、意味だけでなく問題の発生時期が異なります。
たとえば、幼児向けのおもちゃを開発している場合について考えてみましょう。安全性に配慮して製作しても、「誤飲しないだろうか」「手指を詰めないだろうか」などの懸案事項が生じるのは当然のことです。消費者からも意見をもらって工夫を重ね、懸案事項を解決し、安全に遊べるおもちゃとして市場に出す必要があります。
しかし、懸案事項を解決しても、事故が起こらないというわけではありません。「誤飲しないだろうか」「手指を詰めないだろうか」という懸案事項が懸念事項に変わり、そのまま残る可能性があります。
・商品の安全性が懸念事項のひとつだ。
・懸念事項が多く、このまま販売するのは不安だ。
懸案事項と類似する表現
懸案事項と類似する表現としては、次のものが挙げられます。
それぞれの使い方や懸案事項との違いについて、例文を通して解説します。
心掛かり
「心掛かり」とは、気に掛かることや心配のことです。「心懸かり」と表記することもあります。
・楽しいはずの旅行だが、風邪気味だった子どものことが心掛かりであまり楽しめない。
・心掛かりなことはありませんか?なんとなく不安そうなお顔をしていますよ。
「心掛かり」は心配している事柄を指すため、懸案事項というよりは懸念事項に近い言葉といえます。また、懸案事項とは異なり、解決する必要はありません。
気掛かり
「気掛かり」とは、どうなるかと不安で、心から離れないことを指す言葉です。また、不安が心から離れない様子を指すこともあります。
・明日の天気が気掛かりだ。このままでは下山もやむを得ない。
・元気がなかった彼女のことが気掛かりで、夜に電話をかけてみた。
「気掛かり」も「心掛かり」と同じく、不安と感じている事柄を指すため、懸案事項よりは懸念事項に近いニュアンスの言葉です。
不安要素
「不安要素」とは、気掛かりで落ち着かない要素、心配な要素のことを指す言葉です。「要素」とは物事を成り立たせている基本的な内容を指すため、「不安要素」は必ずしもひとつとは限りません。
・不安要素は多いが、なんとなくうまくいくような気がする。
・彼女を信じたいけれど、何度も裏切られてきたため不安要素のほうが大きい。
「不安要素」は心配な事柄を指すため、懸案事項よりは懸念事項に近い言葉です。また、心配事は解決するほうが望ましいですが、必ずしも解決すべきというわけではない点も懸案事項とは異なります。
課題
「課題」とは、解決しなければならない問題や果たすべき仕事のことです。
・現代日本の課題として、人間関係の希薄化が挙げられる。
・人材不足による業務縮小は、我が社が喫緊に解決すべき課題だ。
解決することが求められる点は、課題と懸案事項は同じといえます。懸案事項の言い換えにも使ってみましょう。
また、「課題」には題目や主題という意味もあります。題目や主題の意味で使う場合は、必ずしも解決を求めているわけではないため注意が必要です。
保留事項
「保留事項」とは、その場で決定しないで延ばしておく事柄を指します。次のように使ってみましょう。
・今日の会議の議題のうち、新店舗の立地については保留事項とします。
・当事者が来なかったため、その議題については保留事項とした。
保留事項は、懸案事項とは異なり、必ずしも解決すべき問題とは限りません。しかし、保留事項の中には解決を必要とする懸案事項が含まれることもあります。
蟠り(わだかまり)
「蟠り(わだかまり)」とは、心の中にこだわりとなっている重苦しく嫌な気分のことです。不満や不信、疑惑などの感情は、わだかまりとして残ることがあります。
・わだかまりを捨てて、仲良くしようよ。
・長い間、犬猿の仲だったが、わだかまりなく話し合える関係になった。
解決が必要だという点では、懸案事項とわだかまりは似ています。しかし、懸案事項は気分とは無関係な言葉のため、私的な感情を表現したいときは「わだかまり」を使うほうが良いでしょう。
懸案事項のニュアンスを理解しておこう
懸案事項は、現時点で解決が必要な事柄を指します。一方、懸念事項は将来的に想定される不安のことです。漢字も音も似ていますが、意味と問題の発生時期が異なります。正しくニュアンスを理解し、使い分けるようにしましょう。
また、類似する言葉としては課題や保留事項が挙げられます。言い換えに使うと、表現の幅が広がります。
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