【「女の時間割。」スピンオフトーク】
藤﨑忍さんが“女・妻・母”における“自分らしさの濃度”を分析すると…
Vol.1「女」時間〜ひとりの女性として仕事に向き合う時間〜
Vol.2「妻」時間〜妻として夫に向き合った思い出の時間〜
Vol.3「母」時間〜母として子どもに向き合う時間〜
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藤﨑 忍さん
株式会社ドムドムフードサービス代表取締役社長・58歳
基本的に“他者への尊重”を大切に行動するのが私の指針
——この連載では毎回“女・妻・母としての自分をそれぞれ何かにたとえてください”という自己分析をお願いしています。藤﨑さんが仕事をしているとき、妻として過ごされていたとき、母としてのご自身について、それぞれひとことで表すとしたらどのような表現になりますか?
「私の場合、仕事をしているときの自分と、妻であったときの自分、母をしているときの自分の3つに違いがあるというよりは、それぞれにおける“自分らしさの濃度が違う”ということが言えるかもしれません。基本的に“他者を尊重する気持ち”をいちばんに行動しているからです。
当たり前のことですが仕事をするときにはお客様とスタッフを尊重しますし、妻時代は夫を尊重することをいちばんに考えてきました。母親として息子に接するときももちろん息子を尊重することを優先します。とはいえ私にも自己はありますから、お相手のことを尊重する中で自分らしさの濃度にコントラストがあるのが私という人間ではないかと思っています」
女・妻・母に“自分らしさの濃度の高さ”で順番をつけるとしたら…
——“自分らしさの濃度”の違い。とても興味深いです。
「女・妻・母の3つの顔に“自分らしさの濃度”で順番をつけるとしたら、最も自分らしさの濃度が高いのは、やはり仕事をしているときの私でしょうか。ドムドムフードサービスに入社して以降は家計を支えるためではなく“自分のために仕事をするモード”に入りましたからなおさらです。
対照的にいちばん低いのは、かつて夫が議員として元気にバリバリ活動していたときの妻である私。政治家の妻時代も夫の介護をしていたときも、夫を最優先にしていたので“自分らしさの濃度”は最も低かったと思います。
しかし、時がたって状況がさらに変化した現在では、息子の子供のお世話を手伝っていることもあって、自分らしさの濃度がいちばん低いのは母であるときの自分なのかもしれないと思っています。順番が入れ変わりました。人って不思議ですね。
最近、息子が孫を叱る様子を見ていると、なぜだかすごく嫌な気持ちになってしまうんです(苦笑)。そしてそのことを息子に言うと、息子は“お母さんがよく言うよ”と笑いながら返してくるのです。確かに彼が幼い時代、私はものすごく厳しい母親でしたから。
ところがバァバになってみると、かつて働きながら子育てしていたときとは違う自分に気がつきました。私の中で孫は“大切な預かりもの”という意識が高くなっていたからです。たとえば休日孫が遊んでいるのを見守りながらスマホでメールチェックをするときも、気持ちの7割は孫のほうに集中していて、残りの3割でメールを見ている感じなのです。働きながら子育てをしていた時代はがむしゃらに仕事をしながら子育てをしてきましたが、比較をするなら今はそこがすごく違うなと感じています」
自分にダメ出ししてしまう人に伝えたいこと
——仕事と子育てで多忙な40代のワーキングマザーはどうしても、日々目の前のことでアップアップになってしまいがちです。結局自分は何も生み出せていないんじゃないか、職場で何か職を与えられてもまっとうできないんじゃないかなどと、キャリア不安の悩みを抱える人も少なくありません。そんな後輩世代をどうごらんになりますか。
「今の子育て世代の女性たちを見ていると、本当に大変だなと思います。私もごくたまに、朝、孫を送ってから出社することがあります。保育園や幼稚園で出会ってきたママたちと接していて感じるのですが、日中はオフィスで仕事をめいっぱい頑張って、夕方仕事が終わったらお迎えに行き、帰宅してご飯をつくって食べさせて寝かしつけるうちにあっという間に1日が終わってしまう日々は本当にしんどくて大変なものですよね。
そんなふうに仕事や子育てでいっぱいになっていたらどうしても、すべてにうまく対応することは物理的に難しくなる。でもみなさん“自分は目の前のことに追われるばかりで何もできていない”と自分にダメ出しをしてマイナス評価をしてしまうのです。
でも、そんなことはないんです。“大丈夫。もっと自分のことを愛してあげてください”と言ってあげたいです。悪いところばかり見ようとせずに、“できないこともあるけれど、私は笑顔がいいと言われる”とか“字がきれい”だとか、小さなことでもいいので自分の良さを認めてあげてください。自分を愛でてあげることができるようになると、何かにワクワクする心の柔軟性も戻ってくると思うのです。
“あばたもえくぼ”という言葉がありますよね。ひいきめで見ればどんな欠点も長所に見えてくるものです。自分をひいきめに見てあげて、“世の中は私を中心に回っている”とか“苦しいことや嫌なことがあってもきっと必ず挽回できる”など心を立て直す言葉をもっていると、リカバリーのきっかけとして作用することがあります。ぜひひいきめで、自分のイイとこ探しをしてみてください」
人生にムダな経験は何ひとつない
——藤﨑さんは日ごろどのような言葉を心の支えにされていますか?
「“日日是好日(にちにちこれこうにち)”です。今日という日は二度と来ないかけがえのないときであるという唐の禅僧の有名な言葉です。私は人生における過去の経験すべてがその人をつくりあげると思っています。良いこともそうではないことも、ムダな経験は何ひとつありません。
この言葉を座右の銘としてあげるようになったのは、ドムドムフードサービスの社長に就任して半年ほどで業績が上向きになり、取材で尋ねられるようになってからですね。“ああ、これまで悲しいことも辛い経験もあったけれど、今までの自分の人生すべてがムダではなかったんだ”と思えたのです。幼少期の生育環境から人と接することが得意になり、39歳で働き始めたことによってたくさんの苦労も経験しましたが“こだわらない心”をもつことができ、それらのすべてがドムドムの経営において良い結果をもたらしたことを実感したのです。」
——今後のお仕事については、どのようなビジョンをもっていらっしゃいますか。
「それが、わからないんですよ(笑)。ここ1、2年で社外取締役の仕事やスタートアップベンチャーに関わる仕事などが増えてきたことをきっかけに改めて、私には何ができるんだろう、何がしたいんだろうとずっと考えているところなんです。
基本的には、“来たものを受け入れて素直に返していくこと”を大切にし続けようと思っています。目の前にあるものに、素直に一生懸命に取り組んで行くのが私の生き方ですので。
たとえば、WOWOWの社外取締役をお引き受けした経緯もそのような流れでした。当初は放送審議委員として会議に参加してほしいとのオファーをいただいたのです。俳優の方や放送作家の方など淙々たるメンバーのみなさんの中でひとり場違いな自分を感じながら、事前に指定された番組を、わからなければ何度もくり返し見て、一生懸命自分なりに言葉でまとめて発表し続けたことが“顧客目線に立ってものを考えられる”と評価していただけて、そこから社外取締役のお話につながりました。
はたから見ると、一見、アクティブに何か新しいことを生み出し続けているように見えるかもしれませんよね。でも、私は仕事もプライベートも、実は来るものを受けとめているだけなんです。野球のポジションでたとえるなら、ピッチャーに見えるキャッチャーだと思います。せっかくいただいたお話は素直にお受けしてみる。そのことでいい循環がまわってくることも実感しています。皆さんも、仕事でもプライベートでもなんでも、何か新しくお声がけがあったら尻込みはしないでみてください。どんどん受け続けていくうちに、いろいろな変化が出てくると思います」
〈取材現場より〉
仕事をもつ女性の中にある「3つの顔」をフォーカスする『WEB Domani』の連載「女の時間割。」に株式会社ドムドムフードサービス代表取締役社長の藤﨑忍さんにご登場いただきました。藤﨑さんの人生や価値観に触れるうちに、取材陣もポジティブなエネルギーをチャージできたような貴重なひとときとなりました。
Profile
藤﨑 忍
ふじさき・しのぶ/1966年、東京都生まれ。青山学院女子短期大学卒業後、21歳で結婚、政治家の妻となる。23歳で長男出産。2005年に夫が心筋梗塞を患い、家計を支えるために39歳で専業主婦からSHIBUYA109のアパレルショップ店長へ。5年で年商2億を達成する。43歳のとき夫が脳梗塞で倒れて介護が始まる。アパレルショップ本社の経営方針変更を機に44歳で退職。居酒屋でのアルバイトを経て2011年に新橋に家庭料理の店『そらき』を開業。愛される店づくりの手腕と食に対するセンスを見込まれ2017年にドムドムハンバーガーのメニュー開発顧問に抜擢される。そのとき考案した“手作り厚焼きたまごバーガー”が大ヒット。同年11月に51歳でドムドムフードサービスに正式入社。9か月後の2018年8月に代表取締役社長に就任する。現在は(株)神明ホールディングス社外取締役、(株)WOWOW社外取締役監査等委員を兼任。年間の講演回数は40回超。著書に『ドムドムの逆襲 39歳まで主婦だった私の「思いやり」経営戦略』(ダイヤモンド社)、『藤﨑流 関係力』(repicbook)などがある。
インスタグラム:@fujisakishinobu
撮影/眞板由起
取材・文
谷畑まゆみ
フリーランスエディター・ライター・キャリアアドバイザー
働く女性のインタビュー企画がライフワーク。2016年よりDomaniで「働くいい女」「女の時間割。」連載を担当。共著『わかる!伝える!視線の心理術』(造事務所編・メディアパル刊)。
私の生き方