内定承諾後でも辞退は可能だが、速やかかつ誠意ある対応が重要。
Summary
- 内定承諾後でも辞退は可能ですが、丁寧な手続きと説明が必要です。
- 企業への影響を最小限にするには、連絡のタイミングと誠意が大切です。
- メールと電話、辞退連絡は両方を組み合わせるのが理想的です。
内定を承諾したものの、やむを得ない事情で辞退を考える場面は少なくありません。しかし、どのように伝えればいいのか、メールだけで済むのか、怒られるのではないか、損害賠償を請求されるのではないかと、不安を感じる人も多いでしょう。
そこで本記事では、内定承諾後に辞退する際のマナーや注意点、状況別の対応方法を詳しく解説します。円滑な辞退を実現するために、正しい知識を身につけましょう。
内定承諾後の辞退は可能? 基本的な考え方と注意点
内定を承諾した後に辞退を検討する場合、どのように進めるべきかを把握しておくことが重要です。まずは、判断する際に意識すべき点を整理しましょう。

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内定承諾後でも辞退は可能なのか?
内定承諾後の辞退については、法的な側面や企業側の視点を踏まえた理解が求められます。内定は、条件付きではありますが「労働契約が成立した」と扱われることがあります。
とはいえ、労働契約は成立したとしても、従業員の退職が認められるように、内定、辞退も然るべき手続きを行なえば受理されることが一般的です。しかし、辞退のタイミングや伝え方によっては、企業に与える印象を悪くする可能性があります。
また、採用プロセスの段階によっては、企業側がすでに手続きを進めている場合もあるため、辞退の意向を伝える際には適切な配慮が必要です。特に、入社手続きの準備が整っている時期での辞退は、企業側の負担が大きいため、慎重な対応が求められます。
企業側の負担の大きさを考えれば考えるほど、損害賠償を請求されないかが心配になるでしょう。内定辞退に対する損害賠償請求自体、裁判例は多くありません。内定辞退者に対して「損害賠償を負うものではない」とした事件(X社事件、東京地裁、2012年12月28日)をみると、その内定辞退者は、内定辞退を決心することになった出来事があった後すぐに両親に伝えたり、翌週には大学就職課に相談したりと取るべき行動を迅速に取っていました。
内定辞退を決心したのであれば直ちに然るべき手続きを取り、企業と必要な手続きが完了するまで丁寧な説明を続ければ、損害賠償請求についてはそれほど過度に恐れる必要はないでしょう。
辞退を決断する前に考えるべきこと
辞退を検討する際は、どのような理由によるものなのかを明確にし、自分の今後のキャリアにどのような影響があるかを整理しましょう。
転職市場においては、内定辞退の記録が直接的に他の企業に伝わることは原則ありませんが、同業界内の情報ネットワークは無視できません。特に、同じ業界で再び転職活動を行う際には、過去の辞退の影響が間接的に及ぶ可能性があるため、長期的な視点を持つことが望ましいでしょう。
また、辞退の理由が一時的な不安や迷いに基づくものでないかを再確認することも欠かせません。仮に現在の決断が短期的な視点に偏っている場合、後になって後悔する可能性もあります。そのため、現在の状況や今後の選択肢を総合的に整理し、大学等の就職課や信頼できる目上の人に相談してから結論を出すなど、慎重に判断しましょう。
辞退による企業側の影響と配慮
企業は採用活動に多くのリソースを投入しており、内定を出した時点で今後の組織運営を考慮した計画を進めています。そのため、辞退の意向を伝える際は、企業側への影響を考えた対応が求められます。
特に、辞退の伝え方によっては、辞退の手続きそのものが円滑に行かなくなる可能性があります。連絡が遅くなった場合や、辞退の理由が不明瞭な場合、企業側が対応に困ることもあります。これを避けるためには、辞退の意向が固まった時点で速やかに連絡し、誠意をもって理由を伝えることが望ましいでしょう。
また、企業によっては辞退を受け入れた後も、将来的に再び採用の機会がある可能性も考えられます。その際、過去の辞退時の対応が影響することもあるため、関係を悪化させないための配慮が必要です。

状況別! 新卒・転職・中途での適切な辞退方法
内定辞退の対応は、状況によって異なります。新卒、転職、中途採用のそれぞれのケースにおいて、企業側の受け止め方を踏まえ、各立場に応じた辞退の進め方と注意点を押さえておきましょう。

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新卒の内定承諾後の辞退マナーと注意点
企業が新卒採用を行う際、配属計画や研修スケジュールが既に決まっていることが多く、直前の辞退によって企業の対応が難しくなる可能性があります。特に、入社予定日の数週間前になってからの辞退は、他の候補者の採用機会を奪う結果にもつながるため、慎重な対応が求められます。
辞退の際は、誠意を持った伝え方を意識することが肝要です。連絡の方法としては、可能な限り電話を用い、その後、正式な辞退の意思を記したメールを送る形が望ましいでしょう。
転職での辞退、エージェントへの伝え方
転職者の場合、企業側は即戦力としての採用を前提にしているため、新卒よりも短期間で業務の引き継ぎや人員調整を行うケースが多いです。そのため、内定承諾後の辞退においては、できる限り速やかに企業へ意向を伝えましょう。
転職エージェントを通じて内定を得た場合、まずはエージェントに辞退の意向を伝え、企業への連絡方法について相談しましょう。エージェントは、企業との調整役として機能するため、適切な伝え方をアドバイスしてくれる可能性があります。
直接企業へ伝える場合は、業務開始までの期間を考慮した上で、担当者と話し合うことが望ましいでしょう。理由としては、転職者は企業側にとって即戦力として期待されているため、急な辞退が企業に影響を及ぼす恐れがあるからです。
中途採用の辞退で気を付けるべきこと
中途採用で辞退することを決めた場合、まずは企業の採用担当者へ連絡し、入社予定日までの期間を考慮した伝え方を選ぶことが大切です。特に、辞退の連絡が遅れた場合、企業側の業務調整に影響を及ぼす可能性があるため、できる限り早めに対応することを推奨します。
また、企業によっては、辞退後の関係を維持する可能性も考慮する必要があります。特に業界内での転職を繰り返す場合、将来的に別の機会で再び関わることもあり得るため、円満な辞退の進め方を心がけることが肝要です。

新卒・転職・中途いずれも迅速かつ丁寧な辞退連絡が信頼維持のポイント。
メールでの辞退は失礼? 失敗しない連絡マナー
内定辞退の意思を伝える方法として、企業や状況に応じた適切な連絡手段を選ぶことで、誠意が伝わりやすくなります。

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メールと電話、どちらが適切か?
辞退の意思を伝える際、メールをするか、電話をするかは状況によって異なります。企業によっては、採用担当者が多忙なため、電話での辞退連絡が負担になることも考えられます。
一方で、メールのみでの辞退連絡は、企業に対する敬意が不足していると受け取られる可能性があります。そのため、まずは電話で辞退の意向を伝え、電話だけだと証拠が残らないため、その後メールで正式に文書として残す形が望ましいでしょう。
ただし、どうしても電話が難しい場合や、企業からメールでのやり取りを求められた場合には、適切な文面を準備し、簡潔かつ丁寧に伝えることが重要です。
実際に使える辞退メールの例文
辞退のメールを送る際には、簡潔でありながらも誠意を伝える内容が求められます。以下の例文を参考に、状況に応じた言葉遣いを意識するといいでしょう。
件名: 内定辞退のご連絡
本文:
〇〇株式会社
採用ご担当者様
お世話になっております。〇〇と申します。
この度は内定のご通知をいただき、誠にありがとうございました。
慎重に検討した結果、大変申し訳ございませんが、諸般の事情により内定を辞退させていただくことを決断いたしました。
貴社には多くのお時間を割いていただいたにもかかわらず、ご期待に添えない結果となり、大変心苦しく存じます。
突然のご連絡となり恐縮ですが、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。
今後の貴社のますますのご発展を心よりお祈り申し上げます。
(署名)
氏名:〇〇〇〇
メールアドレス:〇〇〇@〇〇〇.com
電話番号:〇〇〇-〇〇〇-〇〇〇〇
メールだけで伝える場合の注意点
企業の方針や状況によっては、やむを得ずメールのみで辞退の意向を伝える場合もあります。その場合、どのように書けば誠意が伝わりやすいか、押さえておきましょう。
1. 件名を明確にする
「内定辞退のご連絡」「内定辞退についてのお詫び」など、企業側がすぐに内容を理解できる件名を設定することが望ましいでしょう。
2. 誠意を持った表現を心がける
「大変申し訳ありませんが」「貴社にはご迷惑をおかけし心苦しい限りです」など、相手に配慮した言葉遣いを選ぶことで、印象を損ねにくくなります。
3. 連絡後のフォローを検討する
メールを送った後、数日経過しても返信がない場合には、確認のために改めて連絡を入れることが適切です。メールのみのやり取りでは、企業側の受け止め方が分かりにくいため、慎重な対応が求められます。
最後に
- 内定承諾後でも辞退は可能であり、法的リスクは低いが、誠意ある対応が求められる。
- 企業への配慮を忘れず、連絡はできるだけ早く、明確かつ丁寧に伝えるのが基本。
- メールのみで辞退を伝える場合は、件名や文面、送信後のフォローまで誠実さが重要。
内定承諾後の辞退は、慎重で迅速な対応が求められます。適切なマナーと正しい知識をもとに、状況に応じた方法で対応することが大切です。本記事で紹介した内容を参考に、落ち着いて対応策を検討し、円滑に進めていきましょう。
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監修
わく社会保険労務士事務所代表 和久 明(わく・めい)さん
社員12万人超の会社で社会保険、給与計算、社内研修講師を15年以上経験した後、社会保険労務士開業。 常に忙しく手が足りない中小企業の、就業規則作成や法改正フォロー、業務の見える化による社員の働きやすさ実現に取り組んでいる。褒め言葉インストラクター。趣味はサウナ。
事務所ホームページ:https://waku-sr.com
ライター所属:京都メディアライン