アナウンサー高畑百合子さんと語る 後編「〝新世代感〟へのとまどい」
最終回はドマーニ世代のアナウンサー、TBS・高畑百合子さんをお招きして対談。共感必至です!
原田 今の後輩世代を見ていて違いを感じることはありますか?
高畑 すごくタッチが軽いですね。たとえば遅刻したとき。私の世代は「大変申し訳ございません。こういう理由で遅刻しまして、今後一切いたしません!」と平謝りですが、「ごめんなさ~い。シャワーに時間かかっちゃって~。でもちゃんと5分の遅刻ですみました(ニコッ)」みたいな。「えー⁉」って思いますよね(笑)。
原田 空気を読んで、自分のキャラを活かしているのでしょうか。
高畑 〝新世代感〞を盾にしている気がします。「え?それで怒っちゃうの?古ーい」というような空気感。その圧に負けちゃうんですよね。古いって、言われたくないなぁ…って。
原田 そういう後輩に、カリカリしたり、お説教はしないんですか?
高畑 暖簾に腕押しかなと。仕事の相談をされて、「どうしたらいいですか?」と聞くので、すごくまじめに提案や経験などを熱弁したら「あ、わかりました」と遠い目をしていたことがあって。逆に「いいんだよ!そんなの適当で~」と気楽に答えると目をキラキラさせたり。だから自分が本当のアドバイスだと思うことは、話しても伝わらないのかなと。
原田 スポーツ選手を指導している方も苦労されているようです。「日本のため、組織のため」という感覚がないからプレッシャーには強いけれど、言うことを聞かなくなっていて。
高畑 取材で、悲壮感に近いものを背負ったトップアスリートの姿を見てきたのですが、今の選手は発言も練習への姿勢も驚くほど楽観的です。
原田 就職状況がいいのも要因かと。学生への「そんなんじゃ、就職できないよ」という脅しは効かない。「え~、◯◯先輩だってできなくてもいい会社に入ってるし」と返されます。表面はいい子なんですが、従ってはくれない。僕も日々悩んでいます。
高畑 私の場合は、正面きってコミュニケーションをとらないくらいで、熱がちょうどいいみたいです。
原田 熱すぎるんですね(笑)。あと、この3~4年はLINEの普及で、人間関係でちょっと面倒なことがあったらすぐ〝ブロック〞すればいいや…という発想が若者に染みついている気がします。
高畑 ブロックも既読スルーもできると、その分、人間関係で詮索しなくてはいけないことが多いのでは。
原田 「彼氏が女の子といたよ」とLINEで回ってきたり、彼が女の子をフォローしたら「こいつ、だれ?」と調べまくったり。友達が裏アカウントですごく悪口を言っていて幻滅してしまうケースもあります。
高畑 傷つかないでいいことで傷つきますね。大人でも疲れてしまうのに、多感な時期に心がもたない!
原田 ミレニアル世代は「ネフリでチルってる」がグローバルのキーワード。これはNetflixを観ながらまったり(チルアウト)している、の意味です。要は何もしていないということで、それが幸せだと。
高畑 それは普段SNSの海を泳ぎすぎて疲れているのかも。私も心を休ませたいときほど、寝ずにスマホゲームをやりたくなってしまうんです。ゲーム中はひとりで頭の中を静かにできる。チルアウトしたい若者たちの気持ちはちょっとわかります。ある後輩は、すごく暗い顔でひたすら自撮りした後、その写真を黙々と加工していました。ひとりの空間に居場所があるんだなと。一方で私より上の先輩は、悩みがあるとよく話しかけてきますね。
原田 ドマーニ世代は先輩後輩両方の感覚がわかるからこそ、苦しんでいる。ポジティブに言えば、つなぐことができる価値ある世代です。
高畑 確かに。「後輩がこんなことを言ってた」と心配している先輩に、「それはこういうことだと思いますよ」と通訳できるというか。
原田 若者も悪気がない人が大半なので、解説してくれる通訳者がいると自分の至らない点に気づけることは多いと思います。お互いにいいかけ橋になりたいものですね。
マーケティングアナリスト
原田曜平
1977年生まれ。慶応大学商学部卒業後、(株)博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーに就任し、世界中で若者研究及び若者向けのマーケティングや商品開発を行う。2018年12月より(株)サイバーエージェントにて、サイバーエージェント次世代生活研究所・所長に就任。若者研究とメディア研究を中心に、次世代に関わる様々な研究を実施。また、実際の若者たちと広告・プロモーション開発までを担う予定。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。「さとり世代」、「マイルドヤンキー」、「伊達マスク」などの流行語の名づけ親。主な著書に「さとり世代」「ヤンキー経済」<「これからの中国の話をしよう」「力を引き出す」「平成トレンド史」「若者わからん」「それ、なんで流行ってるの?」などがある。現在、TBS「ひるおび」レギュラー。
TBSアナウンサー
高畑百合子
1980年、東京都生まれ。2003年にTBS入社。アナウンサーとして、『朝ズバッ!』『Jスポーツ』、オリンピック中継などスポーツを中心に幅広い番組で活躍。明るい笑顔と気さくな語り口で人気。報道に担当が変わったことを機にDomaniを愛読。2018年9月まで、原田さんがコメンテーターを務める『ひるおび!』内ニュースも担当。『報道1930(いちきゅうさんまる)』BS-TBSで好評放送中!
Domani2018年12月号『新・Domaniジャーナル 「後輩世代のトリセツ」』より
本誌撮影時スタッフ: 撮影/五十嵐美弥 構成/佐藤久美子