story1 24時間、呼吸をするように料理のことを考えます
Profile
KANA(仮名) 44歳
職業/大手食品メーカー勤務。調査部・食品開発部・商品企画部を経験し、2年前から新規事業開発部へ。
住まい/都内で夫・子ども(中学1年生)と暮らす
味付け直前まで仕込みをしておく
「朝5時に目が覚めて、すぐにパソコンを立ち上げます。仕事はどこでもできるし、起きている間はいつも頭の中で事業開発のことを考えています。そして料理をするのは、仕事の合間の気分転換のタイミング。仕事は左脳、料理は右脳を使うそうなので。おなかがすいて作り始めるのではなく、いつでもすぐ料理ができるようにスタンバイしておく。それが、私のルールです」
食品会社で働くKANAにとって、食について考えるのは「呼吸をするようなもの」で、オンタイム・オフタイムの境目もない。
さて、日常でどうしているかというと。材料をまとめ買いしたり、作り置きのお惣菜で時間を節約するのは、よくある方法。KANAの場合は、それを少し進化させ、味付け直前まで仕込みをしておく。たとえば、こんなふうに。
娘が学校から帰る時間の連絡をもらったら、それに合わせて帰りの電車の中で夕食の献立を考える。今、冷凍庫にあるもの――下味をつけた牛・豚・鶏、切って混ぜておいた複数の野菜――などを思い浮かべ、そこに娘の気分や体調を重ね合わせ、メニューをいくつかイメージする。シチューがいいか、カレーがいいか、ビーフストロガノフなのか。はたまた、ハンバーグ状に下ごしらえしてある肉を使って、和風ハンバーグにするか、ロコモコにするか、ミートボールにするか。完成形をどれにするかの選択権は、これから帰ってくる娘にある。
家族のオーダーに答えることが喜び
フレックス勤務なので、KANAが先に家に着いている場合もあるし、娘が先のこともある。どちらにしても、娘への最初の会話は「何分後に食べる?」「何が食べたい?」から始まる。答えが「20分後」「シチュー」なら20分で仕上げる動線とメニューを頭に描き、「10分後」なら10分なりにできることをものすごいスピードで考え、動く。
その後、時間をあけて夫が帰ってきたら、また同様にオーダーを聞いて作る。
「カットして下味をつけておいた豚小間肉と野菜で肉野菜炒めの準備をしておいても、『ラーメン食べたい』と言われたら、それを具としてラーメンに乗せます。同じ材料でも片栗粉であんかけ状にすれば中華丼にもできるし。さらに、こうした合間にまた翌日以降の下ごしらをして、次のオーダーに備える。もちろん仕事のための開発業務も、同時に考えています。頭と体をフル回転させて、いくつものこと並行してやるのは、私にとって楽しい時間なのです」
その背景には、KANAが加工食品の開発の仕事の中で、試作品をたくさん作って、食べてきて、何をどう足したらどんな味になるか、だいたいわかるという特技ができた。同じ食材でも、加熱の温度や五味(甘味・辛味・酸味・苦味・うま味)をどう掛け合わせたら、おいしくなるか。とことん繰り返すうちに、自然に身についてきた。それを家庭で実現するのが、調味料やスパイス類。家のキッチンには、ソース類や市販の合わせ調味料なども含め、ひととおりそろっている。下ごしらえした素材に、どれを足せば、オーダーの品に短時間で仕上がるか、だいたい頭に入っている。
素材のほうはというと、肉も野菜も食後のフルーツも、安いときにスーパーでまとめ買いをする。その時点では何を作るか決まっていなくても、「安い」ことが優先。どうアレンジするかは、当日に考えればいい。結果、このほうが時間もお金も有効に使えるとわかった。
五感をフル活用し、家族の健康と満足度のため、ストイックに食に向かうKANA。さらにその感覚が研ぎ澄まされたのが、この春、娘の中学受験のときだった。(story2に続く)
南 ゆかり
フリーエディター・ライター。ただいま、7月頭発売の書き下ろし新刊を準備中! ほかに『Domani』2/3月号のワーママ10人インタビュー、Oggi誌面「お金に困らない女になる!」「この人に今、これが聞きたい!」、 CanCam.jpでは「インタビュー連載/ゆとり以上バリキャリ未満の女たち」なども掲載中。