“考える力”が最もはっきり出るのが作文問題
「作文も読書感想文も、何を書いたらいいかわからない」……。
そんな「文章を書くことが苦手」なお子さんも少なくないでしょう。ですが、現在の入試では、単に知識の有無を問うような形の問題はどんどん少なくなっており、記述問題や作文などの割合が増えてきています。“考える力”が最もはっきり出るのが作文だからです。
文章で情報や気持ちを伝えるスキルは、読書感想文などの学校の課題や受験の際に必要になるだけでなく、考える力や感じる力のもととなり、社会人になってもとても役立つ力であるためぜひ身につけたいところ。
普段の生活ではなかなか「作文」の勉強まで手が回らないかと思いますので、こうした長い休みの機会に、このような普段できない課題に取り組んでみることをオススメします。
以下に、実際に中学受験に出題された作文問題と、講師による解答例を掲載します。2問を取り上げますが、どちらも絵や写真を見て感じたことを答えるという、自由度の高い問題です。「正しい文章を書く力」、「文章全体の構成を組み立てる力」、「価値ある題材を盛り込んで書く力」、「主題を深く考える力」、「必要な字数を制限時間内にまとめる力」などが総合的に問われます。
ぜひ、今のお子さんの現在の作文力や苦手な部分などを把握するためにも、この機会に親子で一緒に挑戦してみてください。
本稿の最後に、解き方のコツや、親子学習のポイントなども解説しますので、そちらもご参考いただければと思います。
それでは、実際の問題を解いてみましょう。
問1) 次の「木材」の写真を見て、あなたが考えたことを分かりやすく書きましょう。
(出題:東京都立桜修館中等教育学校 2014年)
解答例)
形も大きさも少し違う木材が、少しずれて並んでいる。私は、この写真を見て、大きい子の上に小さい子が乗り、少しずれ落ちそうになりながら遊んでいる様子を連想した。木材の形や大きさの違いをうまく組み合わせることによって家ができる。人間も、その違いをうまく組み合わせた社会を作り上げていくべきだと思う。
そのためには、互いの違いを認めることが大切だ。今の社会は、人間を同じような規格に合わせてしまうところがある。私も流行のファッションには興味があるが、できるだけ自分の個性を生かす方向で取り入れようと思っている。右にならえではなく、個性の違いを尊重し合うことが、より豊かな社会を作っていくことにつながるのではないだろうか。
また、規格からずれていることが、進歩のもとになると考えることも大切だ。日本の歴史を見ても、新しいことを始める人は、周囲との摩擦を覚悟しなければならないことが多かった。
江戸時代、松下村塾では、個性を重んじる教育が行われ、多くの逸材を輩出した。同じような考えの人たちの集まりは、摩擦もないが進歩もない。
木材は、もともと生きている木から切り出されたものだ。だから、性質も違うし、形や大きさも違う。しかし、その違いやずれをうまく組み合わせることが、丈夫な建物を作る土台になる。私たち人間の社会も同様だ。多様な人間が、その違いをうまく生かし合い、組み合わせることによって、よりよい社会が形成されるのである。
<解き方のコツ>
課題が何かを表している。何かを象徴していると考えられる。しかし、何を書いていいのかわからない。どのようにとらえることもできそうだ。そういう課題を象徴課題と呼びます。
象徴課題の取り組み方は、まず主題となる意見を考えることです。その考え方として、人間の生き方や社会のあり方に結びつけると、焦点が絞りやすくなります。
人間の生き方や社会のあり方として意見を立てた場合、それを展開する部分は、そのための方法を書くと展開しやすくなります。
この課題の場合は、ふぞろいの木材が少しずれて積み重なっている様子を表しているので、ここに「多様な社会とそこに生きる自分」を投影し、異なる素材を組み合わせて、よりよいものを作るというような意見にしていくことができます。
方法を書く展開部分は、課題から離れて書いてかまいません。しかし、書き出しと結びは、課題のキーワードとなっている「木材」という言葉を生かして書いていきます。
反対意見に対する理解を入れ込む
いかがですか? 大人でもなかなか難しかったのではないかと思います。
続けて、もう一問、象徴課題を出題しますので、チャレンジしてみてください。
問2) 次の資料から、あなたが考えたことを分かりやすく書きましょう。字数は、五百字以上、六百字以内とします。 資料)いろいろな世界地図
地図はすべて略地図(出題:東京都立桜修館中等教育学校 2013年)
解答例)
私たちは、普段、日本が真ん中にきて、北が上にある世界地図を見慣れている。しかし、それはあるルールのもとに作られた地図で、世界にはそれとは異なるさまざまな地図がある。
私は、物事をある一つの方向から見るのではなく、いろいろな方向から見ることができるようになりたいと思う。
そのためには、第一に、自分と違う意見の人の話にもよく耳を傾けることだ。この前、私は、納豆の食べ方について兄と口論になった。納豆をごはんにかけて食べている私に、兄は納豆だけで食べるほうがおいしいと言うのだ。試しに兄の言うとおりに食べてみると、納豆そのもののおいしさを味わうことができた。
第二には、自分の考えをいつも軌道修正できるように、柔軟な姿勢でいることだ。私は、算数でわからない問題があっても、とことん自分で考えるようにしていた。しかし、父から、まず解法を見たほうがよいと教えられた。最初は抵抗があったのだが、父に教えられたとおりにしてみると、無駄な時間を費やすことなく、勉強がはかどるようになった。
確かに、物事を一つの方向だけから見るというルールがあるから、世の中はうまく運営されている。しかし、それだけでは新しいものは生まれない。世界地図は、一方向からだけ見るものではなく、さまざまな国の人たちがさまざまな角度から見るためのものだ。私は、一つの考えにとらわれず、柔軟な見方ができるようになりたい。
<解き方のコツ>
世界地図が逆さまになったものと、日本が中心ではなくヨーロッパが中心になったものが並べられています。
先ほどの課題同様、何かを象徴しているが、具体的にどういうことが問われているかわからないという課題の場合は、人間の生き方や社会のあり方に関連させて意見を考えていきます。
この地図の場合、常識だと思えるようなことでも、他の立場の人にとってはそうではないことを表していると考えることができます。すると、異なる立場を理解することの大切さを考え、そのためにはどうしたらよいかという方法で展開することができます。
展開部分は自分の作った意見に関連した話で進めていっていいのですが、書き出しと結びだけは、課題として出されている「世界地図」というキーワードを使ってまとめていきます。
結びの意見を書くときには、「確かに別の考えもあるが……」というように、反対意見に対する理解を入れて書いていくと意見が深まります。
準備力を高めるポイント
以上、中学入試に出題された作文問題2問をご紹介しました。
象徴課題にかぎらず、作文力は上達するのにかなり時間がかかるので、合格作文を書くレベルまでいくには、基礎的な文章力があることが必要になります。そして、この基礎的な文章力を伸ばすために大事なのが準備力です。
その準備力を高めるポイントは、大きく二つあります。
一つ目は、題材の準備です。あるテーマについて、子どもの考えた実例だけでなく、お父さんやお母さんの体験談も話してあげます。また、子どもが自分で調べる力があれば、そのテーマに関連する資料をデータが入るような形で調べます。
二つ目は、感想の準備です。世の中で話題になっていることやニュースなどについて、日ごろから親子で話し合うことです。大人の視点を知ることで、子どもは感想をより深めて書いていくことができます。
受験作文は、過去問に沿った課題で勉強しますが、過去問とそっくり同じ課題でやる必要はありません。題材をふくらませていくことと主題を深めていくことが受験作文の準備で、それができたうえで、表現を工夫していくという形で上達させていきます。
この受験作文の準備と同じことを小学校低学年からやっていくと、試験のときにも使える材料が蓄積されていきます。
子どもの作文力は親の関わり方が大きく影響します。ぜひ、子どもの“考える力”を伸ばし、準備力を高めるために、上記のような親子の対話や取り組みを行ってみてください。
作文教室「言葉の森」代表
中根 克明(なかね かつあき)
1952年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、25歳のとき、マスコミ志望の大学生を対象にした作文教室を開く。1981年、作文教室の草分け的存在である「言葉の森」を横浜で開講。通信教育も始め、小学生から社会人まで約1万2000人が学んだ。卒業生には東大・京大・早稲田大・慶應大などの難関大、難関中・高に進学する生徒が多数。オンラインを利用した少人数の発表型の学習で思考力、創造力を伸ばす「寺子屋オンライン」を開催する。著書に『小学校最初の3年間で本当にさせたい「勉強」』(すばる舎)、『小学生のための読解・作文力がしっかり身につく本』(かんき出版)がある。
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