女性は「裳着」
女性の成人式としては、公家社会で行われていた「裳着(もぎ)」が知られています。「裳(も)」とは腰から下にまとう衣服のことで、公家の成人女性が身に着けていました。「裳着」では初めて裳を身にまとい、垂らしていた髪を大人のように結い上げます。裳着は結婚を意識する年頃に行われることが多く、12~16歳頃には済ませていたようです。
成人式の歴史
現在の成人式は自治体が主体となって式典を開き、新成人の門出を祝うのが一般的です。成人式が現在の形になった歴史を振り返ります。

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戦後、若者に希望を与えるために始まる
日本で最初の成人式を開催したのは、埼玉県の蕨町(現在の蕨市)です。第2次世界大戦終戦直後の1946年に、将来を担う若者を激励し希望を与えるために企画した「青年祭」の開幕式典として開かれました。
「成年式」と名付けられた式典や青年祭の内容は大変好評で、全国各地からも高い関心が寄せられます。青年祭がきっかけとなり成人の日が制定され、全国で新成人の門出を祝う式典「成人式」が開催されるようになったのです。
目立ちたい?「荒れる成人式」がニュースに
成人の日には各地の成人式の様子が盛んに報道され、新成人ではない人も目にする機会が多いと思います。近年は会場内での悪ふざけやケンカなど「荒れる成人式」のニュースが目につきますが、以前にも成人式当日にトラブルを起こす若者は一定数存在していたようです。
成人式で着る「振り袖」とは
成人の日と言えば、華やかな振り袖姿の女性をイメージする人も多いのではないでしょうか?娘のために、振り袖の購入を早いうちから検討している家庭も少なくありません。ところでなぜ、成人式に振り袖を着るようになったのでしょうか?女性にとっての振り袖の意味も合わせて見ていきましょう。

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長い袖は恋愛のサインだった?
振り袖は、脇を大きく開けて体温を逃がしやすく仕立てた子ども用の小袖(こそで)が元です。江戸時代の始め頃に、所作が美しく見えるように工夫された袖の長い振り袖が登場し、若い女性の間で大流行したのが現在の振り袖の起源とされています。明治以降は未婚女性の正装とされ、結納や結婚式などの改まった席で着られるようになりました。
振り袖の最大の特徴は、足元まで届くほどの長い袖です。若い女性が袖の長い着物を好んで着るようになった理由は、江戸時代の恋愛事情にあるとされます。当時は女性が自分の気持ちを自由に口にすることはできず、未婚の女性が男性に告白するなどもっての他と考えられていました。
そこで女性たちは長い着物の袖を使って、相手に気持ちを伝えるようになります。袖の振り方が恋愛のサインとして広まり「振る」「振られる」という言葉の由来にもなりました。未婚の女性にとって振れるほど長い袖は、良縁を得るための必需品だったのです。
結婚すると袖を振る必要がなくなり、振り袖も役目を終えます。既婚女性は袖の短い留袖が一般的で、振り袖を着ることはないため、振り袖は現在も未婚の女性専用の着物として定着しています。
厄を払う効果も?
振り袖には、厄除けの願いも込められているとされます。昔から何かを「振る」仕草には、神様を呼び起こし、厄を払う力があると考えられてきました。昔の人が子どもに振り袖を着せていたのは、体温調整の他にも袖を振る仕草が厄除けになると考えていたからです。女性は19歳が最初の厄年に当たるため、成人式には「厄が去り幸せになれるように」との願いを込めて振り袖を着るようになったという考えも広く浸透しています。
海外にも成人式はある?
成人式は、日本ならではの伝統的儀式です。海外には日本のような「成人の日」の祝日や「成人式」はありません。それでは、世界にはどのような成人のお祝いや儀式があるのでしょうか。国別に代表的なものをご紹介します。
アメリカ
アメリカには「スウィート シックスティーン(Sweet Sixteen)」という16歳の女の子の誕生日を祝うイベントがあります。法律上はほとんどの州で18歳で成人を迎えますが、古くから16歳が結婚を意識し、大人の女性の仲間入りをする年齢だと考えられていたことから16歳は特別な年齢としてお祝いする習慣があります。また、多くの州で車の運転免許を取ることができることから、自立した女性への第一歩だと考えられています。お祝いの方法に決まりはなく、友人を招いて大規模なパーティーを開いたり、家族だけでお祝いしたり、形式もフォーマルなものからカジュアルなものまで主役の希望を家族が叶える形で行われます。最近では、性別に関係なく男性も16歳のお祝いをすることが増えています。
イギリス
イギリスでは、18歳と21歳の2回成人のお祝いをします。1969年までは21歳が成人年齢でしたが、現在は18歳が成人年齢とされているためです。以前は成人の証として「鍵」を贈っていたことから、鍵のモチーフの付いたプレゼントを贈るのが恒例になっています。また、イギリスでは18歳未満の花火の購入が禁止されているため、18歳のお祝いには花火を盛大に打ち上げる文化があります。
オーストラリア
オーストラリアには21歳の誕生日をお祝いする「トゥエンティーファースト(21st)」というイベントがあります。オーストラリアでの成人は18歳ですが、1973年まで21歳が成人年齢だったためです。自宅やコミュニティーセンターなどで友人や家族、親戚を集めてパーティーを開催します。また、成人のお祝いではありませんが、1歳、30歳、40歳、50歳などの節目の誕生日は、例年よりも盛大にお祝いする習慣があります。
メキシコ
メキシコの成人年齢は男女で異なり、男性は18歳、女性は15歳です。ラテンアメリカの多くの国では女の子15歳の誕生日をお祝いする習慣があり、スペイン語で「15歳の祝儀」を意味する「フィエスタデキンセアニェーラ」と呼ばれます。メキシコのカトリックの伝統では、感謝のミサで始まります。お祝いのパーティでは華やかなドレスに身を包み、ダンスを楽しみます。このお祝いは、女の子が生まれるとこの日のために貯金をはじめるほど、結婚式に匹敵する盛大なパーティです。地域によって、ハイヒールをプレゼントしたり、近親の親戚が主役の頭に王冠をかぶせたり、ドレスを着た人形を贈るなど習慣は様々ですが、パーティが終わると大人の女性としてみなされます。
ネパール
ネパールでは成人は16歳とされていますが、厳密には法的な成人年齢は決まっていません。民族やカーストによって異なりますが、一般的には男性のみ「バルタマン」という儀式が行われ、これを終えると成人として認められます。ヒンドゥー教の伝統的な儀式で、儀式を行う時期は占いによって決められるため、人によって異なります。
フィリピン
フィリピンでは女性が18歳、男性は21歳成人年齢ですので、18歳と21歳の誕生日は特別なものとしてパーティを開きます。中でも女の子の18歳の誕生日は「デブー(Debut)」と呼ばれ、結婚式のようにドレスを着て盛大にお祝いするのが慣例です。
中国
中国には、かつて伝統的な成人の儀式として20歳の男性に冠が授けられる「冠礼(かんれい)」や15歳の女性が髪型を変えて髪にかんざしを挿す「笄礼(けいれい)」がありましたが、現在ではほとんど行われていません。中国での成人の年齢は18歳ですが、受験と重なるため盛大に行う習慣はなく、学校ごとの行事としてお祝いするのが一般的です。
韓国
韓国では、5月の第3月曜日が「ソンニョネナル(成年の日)」と制定されています。19歳が成人年齢で、かつては「成年礼」という成人の儀式が行われていました。現在では式典などが行われることはほとんどないため、家族や友人と成人をお祝いするのが一般的です。また、日本では「成人の日」は祝日ですが、韓国ではこの日は祝日ではありません。一部イベントとして成人式を行なっている地域では、男女ともに韓服を着て、男性は冠をかぶり、女性は髪を結いかんざしをさす儀式が行われます。
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