土用の丑の日とは?
土用の丑の日が近づくと、ウナギの話題を耳にすることが増えてきます。ウナギを食べる風習は、多くの日本人になじみのあるものです。しかし、「土用」も「丑」も日常的になじみのある言葉ではなく、よく意味を知らないという人も多いのではないでしょうか。まずは、これらの言葉の意味を解説します。
「土用」の意味
日本ではかつて、中国から伝えられた「五行説」が広く信仰されていました。五行説とは世の中のあらゆるものは木・火・金・水・土の五つに属しているという考え方で、春に木・夏は火・秋には金・冬には水というように、季節ごとに割り振りが決められています。このとき、土はどの季節も割り振ることができなかったため、土をすべての季節の変わり目に当てはめ、春夏秋冬の最後の約18日間を土用と呼ぶことにしたのです。季節が変わる前の期間に土用があることで、季節の切り替わりをスムーズにするという役割も担っています。
「丑」の意味
丑は「十二支」の一つです。昔の日本では時刻や日付にそれぞれ十二支を当てはめる風習があり、12日周期で干支が一周するようになっていました。子の日、丑の日、寅の日というように、年間30周ほど十二支が巡ります。なかでも、土用期間にある丑の日には、人々の健康を祈るとよいと考えられ、親しまれていました。丑の日は一つの土用期間中に1〜2回あり、1回目を「一の丑」2回目を「二の丑」と呼ぶのが決まりです。
土用の丑の日はいつ?
土用の丑の日は年に1回だけだと誤解されがちですが、実は季節ごとに複数回あります。各季節にある土用の丑の日と意味について詳しく見ていきましょう。
季節ごとに1〜2回ある
土用は立春・立夏・立秋・立冬それぞれの前の約18日間を指します。十二支は12日間で1周するため、土用の期間と丑の日が重なるタイミングは必然的に何度か生まれる仕組みです。つまり、土用の丑の日は季節ごとに1回、暦によっては2回あります。
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一般的には夏の丑の日
1年間に数回ある土用の丑の日ですが、現代において広く認識されているのは、立秋前の7〜8月にある丑の日です。5月上旬に始まる「立夏前の土用期間にある丑の日」ではなく、「立秋前の土用期間にある丑の日」であることに注意しましょう。土用の期間は季節の変わり目であるため、天候や気温が急激に変化したり、寒暖差が激しくなったりしやすく、人の体に負担がかかります。特に立秋前にあたる7〜8月の土用は厳しい夏の暑さにさらされ、ひときわ厳しい環境です。そのため、もとは複数あった土用の丑の日の風習のなかから、夏のものだけが注目を集めるようになりました。
ウナギを食べる由来
前述したとおり、現代では夏の土用の丑の日に合わせてウナギを食べることが一般的です。土用の丑の日にウナギを食べるようになった理由には諸説あり、最も有名な説は幕末にまでさかのぼります。詳しく見ていきましょう。
ウナギ屋の宣伝がきっかけ
土用の丑の日にウナギを食べるという風習は、江戸時代に活躍した蘭学者である平賀源内が作り出したといわれています。古来より「ウナギは栄養価が高く精力の付く食べ物」とされていましたが、本来ウナギに脂がのっておいしくなる季節は冬であり、夏のウナギは身がやせて人気がありませんでした。そもそも夏の暑い時期に脂っぽいウナギを食べることも避けられていたのです。
夏にもウナギを売りたい、と近所のウナギ屋から相談を受けた平賀源内は、丑の日に「う」の付くものを食べるとよいという風習にちなみ、ウナギ屋に「本日土用の丑」と貼り紙をさせました。これにより店は大繁盛し、「土用の丑の日といえばウナギ」と人々に広く知られるようになったのです。
夏バテ防止に
ウナギには疲労回復に効果があるとされているビタミンB1が豊富に含まれています。夏バテにより体力が落ちた体にはうってつけの食材です。天然のウナギは冬に最もおいしい旬を迎えますが、現在では養殖ウナギが盛んになり、どの季節でも脂がのったウナギを食べられるようになりました。夏にウナギを食べても、十分に豊富な栄養が摂取できるようになったのです。そのことも、現代まで土用の丑の日の風習が残っている理由として考えられるでしょう。またウナギは非常に生命力が強く、数日間は餌を与えなくても生きていけるといわれています。ウナギを食べることによって、生命力の強さにあやかるという意味も含まれているのです。
関東・関西で食べ方が異なる?
ウナギは開いてかば焼きにする食べ方が一般的ですが、関東と関西では食べ方に違いがあります。関東では、まずウナギを背中から開き、頭を落とし、一度素焼きにして蒸し焼きにするという調理法です。身がふっくらとするうえに余分な脂を落とすことができます。味付けに使うのは甘さ控えめのあっさりとしたタレです。江戸の武士が多い関東では、切腹を想像させる腹開きは避けられていたとされています。
関西の調理法は、ウナギを腹から開き、頭を残したまま焼き上げる方法です。関西では大阪の商人が好む「腹を割って話す」という言葉にかけた調理方法がとられたといわれています。素焼きにしない分、脂がのった仕上がりが特徴です。味付けのタレは甘味が強く、ややとろみがある点も関東と異なります。
ウナギ以外の食べ物でもOK!
土用の丑の日にウナギを食べるという風習は広く知られているものの、本来はウナギ以外の食べ物でもかまいません。ゲン担ぎができる食材はもちろん、実際に夏バテ解消に効果的な食べ物を選ぶのもおすすめです。ここでは土用の丑の日に好んで食べられる、ウナギ以外の食材をいくつか紹介します。ウナギが苦手だという人や、なかなかウナギが手に入らないという人も代わりの食べ物で土用の丑の日を迎えましょう。
「う」が付く食べ物
土用の丑の日に推奨される食べ物は、丑の日の「う」にちなみ、名前に「う」が付く食べ物です。「う」の付く食べ物を食べれば夏バテ解消に効果があるとされていました。梅干し・うどん・瓜・牛の肉・馬の肉などさまざまなものがあげられます。今はウナギを食べることの方がポピュラーになっていますが、現代でも一部の地域で残っている習わしです。好んで食べられたもののなかには、単に「う」が付いているというだけではなく、ちょうど旬を迎える食材もあります。夏バテに効果的な栄養素を含んだ食材もあるので、積極的に取り入れてはいかがでしょうか。
あんころ餅
関西・北陸では、夏の土用の時期に作ったあんころ餅を食べて夏バテ対策をする風習があります。このときに食べるのが「土用餅」です。かつて土用の入りに丸めた餅をみそ汁に入れて飲む風習が宮中にあり、これが江戸時代にあんころ餅に変わりました。小豆は厄除けの効果があると信じられており、「力持ち」に通ずる餅と合わせて食べることで健康に過ごせると考えられたのです。
シジミ
シジミは夏と冬に旬を迎える食材です。古くから夏の土用の丑の日に食べるシジミは「土用シジミ」と呼ばれ、親しまれていました。「土用シジミは腹の薬」という言葉もあり、産卵期を迎えたシジミはミネラルをはじめとした豊富な栄養を蓄えています。夏バテ防止にぴったりの食べ物です。一方、冬のシジミも寒さに耐えるためにしっかり栄養を蓄えていることから、「寒シジミ」という別の呼び名がつけられています。
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土用の丑の日に避けた方がよいこと
土用の丑の日は、暑さで疲れた体を労わるためにゲンを担いだ食材を楽しみます。しかし、行うと縁起がよいといわれていることがある反面、五行説に従って避けた方がよい行動もいくつかあるのです。ここからは、土用の丑の日に控えた方がよいといわれている行動を紹介します。縁起を気にする人は、なるべく控えた方がいいかもしれません。
庭の手入れ
土用の時期は、土の神様である「土公神」が土を支配しているため、土を動かすことは避けるべきだと考えられています。土に穴を掘ったり、土を運んだりすると祟りがあるともいわれており、縁起を気にする人は、庭の土いじり・ガーデニング・農作業などは土用の時期を外すように心がけてみては。直接土をいじるわけではなくても、新築や増築などもよくないとされています。土台として土を動かすことになるため、避けるべき行動とされています。また神様を怒らせないためという以外にも、土用の時期は季節の変わり目で体調を崩しやすいことも理由といわれています。7〜8月の厳しい暑さの中、無理に外で畑仕事をして体を壊さないようにする、という昔の人の知恵から生まれた風習だといえるでしょう。
引っ越し・旅行
土用の時期に引っ越しや旅行に行くことは、よくないことだとされています。五行説は方角にも当てはめられており、昔の人はどこかに移動する際には事前に好ましい方角と時期を選んでいました。土はどの方角にも当てはまっておらず、土用の時期にはどこに移動することもよくないと考えられていたのです。また、土用の時期は新しいことも避けた方がよいとされています。結婚や転職はもちろん、これにともなう新婚旅行や新しい勤務地への引っ越しも避けた方がよいといわれていました。縁起を気にするのならば、土用期間中は、家で静かに過ごす方がよさそうです。
相性の悪い方角
土用の時期はどの方角もあまりよくありませんが、なかでも特に悪い方角は「土用殺」と呼ばれており、注意が必要です。春の土用には南東、夏は南西、秋は北西、冬は北東がそれぞれ悪い方角といわれています。縁起を気にするのならば、土用殺の方角は避けた方が安心かもしれません。
立夏前の土用期間は4月末〜5月、立秋前の土用期間は7月末〜8月です。ゴールデンウィークや夏休みなど、暦によっては大型連休と重なるため、何かしら予定を立てる際の参考にしてみては。
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