七夕の由来とは?
七夕は、日本の四季を彩る「五節句」の一つです。江戸時代に「式日」として定められたことから人々の生活に深く根付き、現在でも「夏の恒例行事の一つ」として執り行われています。
日本人にはもはやおなじみの行事ですが、もともとのルーツは中国にあるといわれます。奈良時代に伝わった中国の風習が日本の風習と結びつき、「七夕」という形になったのです。七夕には様々な要素が結びついているのですが、主な由来をご紹介します。
中国伝来の乞巧奠(きっこうでん)
七夕のルーツは、中国の七夕伝説に由来する「乞巧奠(きっこうでん)」です。かつて中国の人々は織姫と彦星の逢瀬を祝うとともに、織姫にあやかって裁縫や機織りの上達を願いました。奈良時代に乞巧奠が日本に伝わると、貴族たちは中国のしきたりと同様に織姫と彦星の逢瀬を祝い、芸事や書道の上達を願うようになります。そして、この習わしは「七夕(しちせき)」と呼ばれる宮中行事となりました。
七夕では針糸や果物などを供え、星に祈りを捧げ、祭壇の両脇に笹を立てて五色の糸を垂らしたり、梶の葉に詩歌を詠んで祀ったりしていました。
こうした風習が現代まで引き継がれ、現在の七夕の元になったのではと考えられています。
日本古来の棚機津女(たなばたつめ)
一方、日本には、古来より「棚機津女(たなばたつめ)」の伝説がありました。「棚機津女」と呼ばれる乙女が水辺の機屋に入り、「棚機(たなばた)」という機織り機で、神様に捧げる神御衣(かみこ)を織るという内容で、神御衣を織って神様に捧げるのは、その年の豊作を願うとともに人々の穢れを祓うという意味がありました。
やがて、棚機津女と織姫が結びつき、七夕の行事が形成されていきました。こうした成り立ちから、「七夕」を「たなばた」と読むようになったのです。
七夕っていつ?
七夕は本来、旧暦の7月7日に行われていた行事です。多くの地域では新暦でも「7月7日」に七夕を行っています。しかし、日本全国を見渡してみると、「8月7日」に七夕を行う地域も多くあります。
古くから継承されてきた日本の行事は、新暦になった際、旧暦の日付そのままで行うもの、月だけを1ヶ月ずらして行うもの(これを「月遅れ」といいます)、旧暦の日付を新暦におきかえて行うものに大別されます。
七夕の場合、7月7日という日付に意味があるので、7月7日に行っているところが多いのです。本来の季節感を大切にするところでは、月遅れの8月7日に行われています。さらに、旧暦の日付を新暦におきかえて行っているところもあります。「七夕っていつ?」と思ったら、まずは地域の習慣を確認するのがベターです。
七夕飾りとは?
七夕といえば、欠かせないのが七夕飾りです。しかし、なぜ七夕では短冊に願い事を記し、笹に飾り付けを行うのでしょうか。その理由について考察します。
短冊に願いを書く理由
短冊に願い事を書くのは、乞巧奠がもともと裁縫の上達を願って行われたものだからです。梶の葉に詩などを記した習慣が変化して短冊という形になったと考えられます。
特に、七夕が五節句の一つと定められた江戸時代は、寺子屋などで学ぶ子どもが多かった時代です。七夕は習い事の上達を願う行事として広く親しまれ、短冊に願い事を書く習慣が定着しました。
また、なぜ短冊が「五色」なのかご存知でしょうか。五色とは、古代中国から伝わった「陰陽五行説」に因んだ色です。万物を表す五つの要素を色で表したものが「青・赤・黄・ 白・黒」の五色で、日本の行事や伝統で多用されています。
日本古来のしきたりが短冊の色にも現れているというわけです。
笹を飾る理由
七夕に笹を飾るのは、神様の依り代とされたからです。笹は上に真っすぐ伸び、広く根を張る習性があります。その姿は力強い生命力を感じさせ、葉の音は神様を呼び寄せるとも信じられていました。昔の人は笹に願いを込めた短冊や飾りものをつるし、願いが届きやすいよう天高く掲げるようになったのです。
また、笹には邪気払いの意味があります。古来、邪気は尖ったものに弱いとされました。笹の葉の上に供物を置き、穢れとともに流す習慣があったのもこのためです。
節句には必ず植物の力を用います。七夕ではこの時期に青々とする笹を用いるので、別名「笹の節句」と呼ばれています。
七夕飾りの種類や意味
七夕飾りにはさまざまなものがありますが、それぞれに大切な意味が込められています。親子で七夕を楽しむ予定のある人は、それぞれの七夕飾りにどのような意味があるのかを子どもに教えてあげたいところ。
後世にも伝えていきたい、七夕飾りの種類や意味を紹介します。
長寿の象徴である鶴
鶴は、「長寿」「長命」の象徴です。「鶴は千年」といわれるとおり、鶴を飾ることには長寿を願う意味があります。
また、鶴のつがいは一生相手を変えません。このことから、鶴は「夫婦円満」の象徴ともいわれます。「家族仲よく暮らしたい」という人も、ぜひ鶴を飾っておきましょう。
七夕では「千羽鶴」が基本ですが、実際に千羽織る必要はありません。「千=たくさん」という意味なので、思いを込めてなるべく多く作ればOKです。
金運アップの巾着
その昔お金を入れるのに使われていた巾着には、「金運上昇」の願いが込められています。商売を営んでいる人や無駄遣いが多い人などには、最適な七夕飾りです。
より金運を高めたいなら、黄色や白の色紙を選ぶとよいと言われています。また、紙で作った巾着ではなく、本物の財布を笹に吊すこともあります。
整理整頓の心を育むくずかご
紙で作ったくずかごは、「物を大切にする心」を表しています。ただし、飾るときは空っぽのままではいけません。七夕飾りを作って出たごみをその中に収めて飾るのです。
小さなごみを集め、整えて飾りに使うことで、物を粗末にせず大切にする気持ちが養えます。また、整理整頓がうまくなるようにという願いも込めることができます。
裁縫上達の紙衣・神衣(かみこ)
紙衣(かみこ)は、紙で作った着物です。神衣とも書き、「棚機津女(たなばたつめ)」の織った「神御衣(かみこ)」にも通じます。七夕本来の由来どおり「裁縫が上達しますように」といった意味のほか、「着るものに困りませんように」といった願いも含まれています。
また、人形(ひとがた)にすれば、その人の災いが移り、身代わりになってくれるとされています。
大漁の願いを込めた網飾り
網飾りは、漁師が漁に使う網を模した飾りです。これを笹に飾るのは、豊年・豊作・大漁を祈願する意味が込められているといわれます。
また、漁に使われる網は、かかったものを絡め取り、引き寄せるものです。このことから、網飾りには「幸せを引き寄せる、すくい取る」という意味もあります。
織姫の織り糸を表す吹き流し
鯉のぼりにも使われる「吹き流し」には、魔除けの意味があります。また、七夕飾りでは「織姫の織り糸」を象徴するといわれ、「織姫のように裁縫がうまくなりますように」と願って飾られます。
その昔は習わしのまま「五色の糸」を垂らしていたそうです。しかし現在はより見栄えよく、折り紙や色テープなどを使って作られるのが一般的で、くす玉にする場合もあります。
魔よけの意味を持つちょうちん
日本のお祭りや法事などで使われることの多いちょうちんは、「正しく導く」「魔除け」などの意味を持つものです。
七夕飾りとして使われれば、周囲を照らし魔を退けるといわれます。魔除けとしての意味を強めたいなら、色紙は赤がおすすめです。
七夕飾りを飾る期間
七夕がイベント化している現在では、ずいぶん早くから七夕飾りが見られるようになりました。しかし、古来の習わしでは七夕飾りを飾る時期が定められていました。
七夕飾りは本来どのタイミングで飾るのが望ましいとされていたのでしょうか?
本来は一夜限り
七夕飾りは前日に飾り、七夕当日に片付けるのが古来の習わしです。つまり、七夕が7月7日がなら6日に飾り付けをします。
禊という意味合いから、七夕飾りには人の穢れといった「陰の気」が移ると考えられていました。どんなにきれいな飾りでも長く飾って楽しむことはせず、七夕が済めば片付けてしまいます。
その昔は、役目を終えた七夕飾りを川や海に流すことで、飾りに移った穢れを浄化させていました。
現代は飾り方に変化も
七夕は前日に飾るのが習わしとはいえ、店舗などでは前月から笹を用意してムードを盛り上げているところがあります。
また、七夕を「行事」とする幼稚園や保育園では、飾り付けは子どもたちの楽しみの一つです。早めに飾りを作ったり短冊を書いたりして、ゆっくりと当日に備えることも多いです。
家庭での七夕も、ピンポイントに「前日」の飾り付けは難しいかもしれません。特に共働きの家庭の場合、時間のやりくりが大変。暇をみて徐々に準備しようという人は多いのではないでしょうか。
現代の七夕は、昔のそれとは違います。本来の方法を知ることは大切ですが、必ずしも昔のやり方に倣う必要はありません。
七夕飾りの片付け方
七夕飾りを楽しんだ後は、片付けが待っています。せっかく作った七夕飾りはどのように片付け、処分するのが望ましいのでしょうか?七夕飾りの片付け方を見てみましょう。
七夕当日に片付ける
七夕の飾りは、前述のとおり当日に片付けるのが習わしです。前日に飾り付けをしたら、当日には処分せねばなりません。
とはいえ、今や七夕は「禊」ではなく夏の楽しいイベントの一つとして認知されています。「一夜飾り」にそこまで固執する必要はないのかもしれません。
近年は両親共働きで忙しい家庭も増えていますから、片付けもそれぞれのタイミングで行えばよいのではないでしょうか。
ただし、1度飾った七夕飾りを来年も使うのはおすすめできません。写真などに収めたら、全て処分してしまいましょう。
神社でのお焚き上げがおすすめ
願い事が書かれた短冊や七夕飾りは、神社などで「お焚き上げ」をしてもらうとよいでしょう。
お焚き上げとは、魂や念が入っているものなどを火で燃やし清めることです。短冊など願いが込められたものは、燃やすことで天に願いが届けられるともいわれます。
持ち込みをする時間がない場合は、郵送で受け付けている神社を探してみる方法もあります。
また、もっと簡単に処分したい場合は「燃えるごみ」として出すことができます。ただし、少し配慮して飾りを白い紙に包むなどするのがベターです。このほか、地域で七夕祭りを行っているならば、そこに持ち込むと処分してもらえることもあります。
折り紙でできる七夕飾り
七夕飾りは、折り紙を使って作ると簡単です。子どもに七夕の起源を話したり飾りの意味を伝えたりしながら折ってみましょう。
折り紙で作れる七夕飾りについて紹介します。
彦星と織姫
七夕伝説の主役といえば、彦星と織姫です。
さまざまな形や作り方がありますが、最も簡単なものは1枚の折り紙をシンプルに数回折るだけでできます。子どもに顔を描かせれば、愛着の湧く彦星・織姫の完成。
また、もう少し難易度の高いものになると、着物を別に折ったり髪の毛を後から付けたりなど手の込んだものになります。どの折り方を選ぶかで難易度や印象が変わるので、子どもの年齢などを考えて相談しながら作りましょう。
流れ星や星
夜空を見上げて楽しむ七夕では、星の飾りもあると雰囲気が盛り上がります。金や銀などキラキラした色紙で目立つ星を作りましょう。
星も折り紙1枚で折れますが、隅をきちんとそろえたり段折りをしたりとかなり難易度が高い印象です。適当に作ると、最後はきれいな星形になりません。子どもがどうしても難しいと感じるところは手伝ってあげましょう。
また、子どもが小さく複雑な折り方ができないときは、ハサミで紙を星形に切り、ビニールテープを貼り付けるのもおすすめです。カラフルな色のテープを使ったり星に顔を描いたりすれば、すてきな流れ星が完成します。
網飾りやちょうちん
網飾りもちょうちんも、基本的には「折り紙を折って輪になった部分にハサミを入れるだけ」で完成します。切り込みの間隔は1cm程度が一般的ですが、より繊細な網やちょうちんにしたいなら、5mm間隔などで切り込みを入れるのもおすすめです。
ハサミがうまく使えなかったり切り込みの間隔がつかめなかったりする子どもは、あらかじめ鉛筆などで印を付けておくと失敗しにくくなります。
また、ちょうちんを作るときは両面色付きの折り紙を使うとより本物らしくなり、おすすめです。
おしゃれな七夕飾りの作り方
「笹を使わずに七夕気分を味わいたい」という人は、身近な道具で作る七夕飾りにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
さまざまあるすてきな七夕飾りのアイデアの中から、子どもと楽しく取り組めそうなものをピックアップして紹介します。
オリジナルイラスト入りのガーランド
まずおすすめなのが、イラストなどを吊した手作りのガーランドです。ガーランドとは、飾りのついたひも状の装飾品全般を指します。壁にひもを取り付けて好きなものを飾るだけなので、大した手間はかかりません。
七夕の雰囲気を出すなら、織姫や彦星のイラストや流れ星、笹の葉などを描いてみてはいかがでしょうか。
また、先ほど紹介した折り紙の星やちょうちん、織姫や彦星を吊して楽しむのもおすすめです。このほか、フェルトで飾りを作ったりモールやタッセルを使ったりしても見栄えのよい七夕飾りとなります。
自由なセンスで、子どもと一緒に飾り付けしてみましょう。
手軽にできるマスキングテープの笹
マスキングテープを使えば、壁やガラス戸などに自由に笹を描けます。節を付けたり真っすぐに長く伸ばしたりなどして、笹らしい雰囲気を出しましょう。
このとき、短冊は実際に画用紙などを切って準備します。子どもと一緒に願い事を書き、それをマスキングテープで作った笹の葉に貼り付けて飾ります。
こうすると短冊だけがひらひらとゆれ、七夕気分が一気に盛り上がります。
また、もっとデザイン性を高めたい場合は、笹の周りにも工夫してみましょう。星形の立体シールを貼り付けたり、ガーランドで飾りを追加したりなどすると見栄えがよくなります。
「どんな七夕飾りにしようか」と子どもと相談するのは、親子の楽しいひとときになるはずです。
写真/Shutterstock.com
お正月やひな祭り、お花見、お盆、お祭りなど、季節の行事を親子でいっしょに学べる絵本。由来やしきたり、遊び方や箸の持ち方、衣服のたたみ方など、行事を子育てに役立てるためのコツが満載。
和文化研究家
三浦康子
古を紐解きながら今の暮らしを楽しむ方法をテレビ、ラジオ、新聞、雑誌、Web、講演などで提案しており、「行事育」提唱者としても注目されている。連載、レギュラー多数。All About「暮らしの歳時記」、私の根っこプロジェクト「暮らし歳時記」などを立ち上げ、大学で教鞭もとっている。著書『子どもに伝えたい 春夏秋冬 和の行事を楽しむ絵本』(永岡書店)ほか多数。
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