「弁護士もほかの仕事と同様、コロナ禍で働き方は大きく変わりました」
「日本でロースクールに入学し、私が弁護士になったのは32歳。遅いスタートでした。それから約10年でファーム(大手弁護士事務所)のパートナー(管理職)になりましたが、その間に3人を出産し半年ずつ休暇を取ってきたので、休みなしでやってきた人に比べれば、昇進までは3年ほど長くかかりました。
弁護士もほかの仕事と同様、コロナ禍で働き方は大きく変わりました。会議や依頼者との面談はオンラインになり、私も今では週2日ほど在宅勤務です。かつてのような、長時間のオフィス勤務や子どもの用事のためのスケジュール調整といったストレスから解放されたのは、ありがたいこと。個々のペースやスキルがより尊重され、仕事と生活を自分なりにブレンドしていく、『ワークライフバランス』ならぬ『ワークライフブレンド』が認められる社会にシフトしてきていると感じます。
かくいう私も、ひとり目を出産し休暇をとったときは、キャリアが中断されることを不安に思ったものでした。でも、発想を変えればとてもラッキーなことではないかと。専門の法分野について改めて専門書で勉強し直すのに、休暇はいい機会です。ふたり目・3人目のときは、育休中に論文を書いたりと、普段できないことに時間を使うことができました。そして今は、通勤途中でポッドキャストを聞いたり、子どもの勉強を見ながら自分の勉強も並行してやったり、すき間時間を有効に使うようにしています。
いちばん集中したい仕事は、朝からオフィスに持っていきできるだけ午前中に。午後は依頼者との電話・面談や打ち合わせがメイン。契約書や訴訟書面の作成には時間がかかるので、仕事が終わらないときは、夫と交代で夜遅くまでオフィスに残ることもあります。体力もあるので、つい頑張ってしまうけれど、こんな性格が裏目に出たことがありました。後輩から『矢上さんみたいにはできない』『子育てと仕事の両立に自信がない』と言われたのです。それで、気づきました。私をロールモデルにするばかりでなく、反面教師にしてくれてもいいのだと。後輩には、いろんな人のいろんなところを取り入れながら自分のペースをつくっていけばいいとアドバイスするようにしています。
昨年参加した、国際法曹協会(IBA)の世界各国の女性弁護士の会合では、日本の女性進出の遅れを目の当たりにしました。海外では、女性弁護士の比率が半数に近いというのに、日本ではたった18%。パートナーとして活躍する女性弁護士もごくわずかです。弁護士は大変な印象があるかもしれませんが、自分のペースで働ける今、むしろ女性に向いている仕事だと思います。異動もないし専門性も高い。最近の働き方の変化は、女性がキャリアを形成していくうえでも、大きな追い風になるはずです。私自身は、こうした気づきや失敗を伝えながら、後輩女性を元気づける立場になることが、次の目標です。優秀な後輩女性たちに、どうやったらより高いセルフエスティーム(自己肯定感)をもってもらえるか。そのためにコーチングも勉強したいと思っているところです。
2021年以降に力を入れたいことがもうひとつあります。弁護士としてのプロボノ(専門スキルを活かしたボランティア活動)です。私が取り組んでいるのは、難民として日本に入国した方のために、難民認定申請のサポートをすること。弁護士の仕事にも流行があるので、常に勉強。大変ですけれど、これが弁護士の面白さでもあると思います」
弁護士
矢上浄子
やがみ・きよこ(44歳)/1976年生まれ。中央大学法学部卒業後、中国・アメリカの大学院への留学を経て、2002年から中国北京市の法律事務所にて勤務。2007年に早稲田大学法科大学院修了、2009年アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。2010年結婚、2011年に長女・2013年に次女・2016年に三女を出産。2019年1月に同事務所パートナー弁護士に就任。第二東京弁護士会国際委員会副委員長。非常勤で大学・大学院の講義も担当。
Domani12/1月号「2020年→2021年〝じぶんのじかん〟、〝かぞくのじかん〟。」より
撮影/三浦憲治 ヘア&メーク/渡辺みゆき 協力/プロップス ナウ、EASE 構成/南 ゆかり、上阪泰幸(本誌) 再構成/WebDomani編集部