「なんのために」を問い直すのも、ジェンダー教育
ジェンダーを意識するようになり、自分の価値観やものの見方が変わってきたことは、この連載を通して何度も書いてきました。そのなかでもいちばん変化が大きかったのは、「なぜなのか」「なんのために」と、当たり前のことを問い直す習慣ができたこと。今回は、この問い直すこと、さらにはそれを言語化することについて、改めて考えてみようと思います。
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勉強するのも「何のために?」が大事
昨年のステイホームのとき、家族でこんな出来事がありました。夫と息子が「なんのために勉強するのか」という議論になったときのこと。夫は「将来の仕事のために勉強をするんだ」と言うのに対し、息子は「将来、どんな仕事が残って、どんな仕事がなくなるかわからないのに、今勉強する意味がわからない」と本音をぶつけていました。
当たり前のように学校に行っていた毎日が、コロナ禍で急変し、友達にも会えず、家の外にも行けなくなってしまった。そんな数ヶ月を経て、息子は「何のために」という新たな疑問に向き合ったのでしょう。そこで感じたことが、家族の考えやこれまでの常識と違っても、自分の気持ちを認めて言語化したと感じました。そして、その変化や思いを大切にしたいと私は思いました。
夫や私の思い、息子の思いはどれも一個人の大切な意見で、家族の中でいろいろあって当たり前。それこそ、多様な考え方を認め合いたいと思います。私は私の考えとして、息子に「知識は何かことを動かしたいときの原動力になる」「パパが言うように勉強は必要だと思う」と、後から伝えました。ただし、私や夫の考えを押し付けるのではなく、息子自身でも考える余白を残すことを意識しながら。
▲息子たちとお手玉作り。子ども達は盛り上がっちゃって進まないし、でき上がっても中の小豆がポロポロごぼれて、てんやわんや。それでもいろんな経験を通してものを考える力を育んでいけたらなと思います。
心の中を言語化することで気づくもの
以前、教師経験のある知人が、「何のために勉強していると思いますか?と子どもたちに質問をしても、日本では約9割の子は答えられない」と話されていました。
そこで思い出したのが、私がアメリカの大学に留学したときのことです。授業でディベートやプレゼンをする機会がとても多く、「何を思うのか、なぜそう思うのか」を自分の言葉で表すことを何度も求められました。それに慣れていない私は強いストレスを感じながら、ついていくのに必死でした。
また、ブレイディみかこさんの著書『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』によると、「(イギリスでは)政治や社会の問題を批評的に探求し、エビデンスを見きわめ、ディベートし、根拠ある主張を行うためのスキルと知識を生徒たちに授ける授業」が7年生(日本の小学6年生程度)から義務付けられているとあります。
「何のために」を考える力は、ジェンダーに気づく上でとても大切で、今私が自分の子どもたちに伝えたい一番の力です。
▲朝日新聞主催のイベント「Think Gender」で文筆家の清田隆之さん(右)と、朝日新聞記者の伊木 緑さん(左)と。清田さんはジェンダ―について「個人と社会の関係性を往復しながら考えると、誰しもに関係のあること」と話します。
冒頭の話に戻りますが、夫が息子に「将来の仕事のために勉強するもの」だと疑わない背景には、知らず知らずのうちにできた「男は働いて家族を養うもの」というバイアスがあったかもしれません。夫の言うことは決して間違いではないけれど、バイアスがあるせいで、そこからさらに思考を深めていくこと、現状に合わせてアップデートしてくことを、止めてしまっているかもしれません。
かつてはそうだったかもしれないけど、今になってみると何となくモヤモヤする。今の自分にフィットしない。そんな感情に気づくことが、すべての問題意識の始まりではないでしょうか。気づいたことを言葉にしていく力は、アメリカやイギリスの授業のようにディベートやプレゼンで徐々に培われていくもの。日本でも、幼少期からその力を育める学校環境になることを、私は望んでいます。そして、家庭でも「話し合い」「どうして」を、丁寧に繰り返していきたいと思います。
モデル
牧野紗弥
愛知県出身。小学館『Domani』を始め、数々のファッション誌で人気モデルとして抜群のセンスを発揮しながら、多方面で活躍中。キャンプやスキー、シュノーケリングなど、季節に合わせたイベントを企画し、3人の子供とアクティブに楽しむ一面も。今年は登山に挑戦する予定。自身の育児の経験や周囲の女性との交流の中で、どうしても女性の負担が大きくなってしまう状況について考えを深めつつ、家庭におけるジェンダー意識の改革のため、身を持って夫婦の在り方を模索中。