東京・丸の内、仲通り沿いの明治安田生命ビルの上層階。皇居前広場を一望できる広い窓、広々とした1.3フロア(18階のワンフロアと17階の1/3フロア)のスペース、そこに置かれたこだわりの一流家具と日本人アーティストによる壁画、オフィス内にあるニュージーランド発の人気カフェ――。そんな憧れの環境にオフィスを構える、CBREは、法人向けの不動産サービス企業として世界111カ国に450以上の拠点を構える、グローバル企業。丸の内オフィスに移転したのは4年前で、本社オフィスの移転を機に、大規模な「働き方改革」に踏み切ったとのこと。「今いちばんおしゃれなオフィスで働くってどういうこと?」を調査すべく、CBREでリアルに働く、女性社員に取材しました。
【目次】
ひとりひとりが“プロフェッショナル”として働ける!おしゃれなオフィスはその自覚を促す
まず、話を聞いたのは、現在、CBREのワークプレイス改革に大きく携わっている、金子千夏さん。4年前、他のオフィスデザイン会社で働いていた金子さんは、CBRE丸の内オフィスの移転・設計に関わり、そのコンセプトとワークスタイルの考え方に共感。それをきっかけに、CBREに転職をしたという経歴の持ち主。
――こちらのオフィスの設計は、金子さんがご担当されたとのことですが、その際に「目指したこと」を教えてください。
金子千夏さん(以下、金子さん)「新しいオフィスへの想いを社長(当時)からヒアリングした時に、『 CBREの社員には、一人ひとりが“プロフェッショナル”としての自覚を持って働いて欲しい』との言葉がありました。それぞれが、独立した専門性や知識を持っていて、自分に課せられた責任や課題に向けて、自由に考え、自発的に行動できる、そんな個が集まった自由闊達な集団であって欲しい。このような働き方をサポートできるよう、設計したのがこの丸の内のオフィスです」
――具体的には、どのようなオフィスのデザインや仕組みになっているのでしょうか。
金子さん「働く環境の選択肢をたくさん用意しました。仕事と一言で言っても、一日中デスクに座っているのではなく、作業は細かく分かれていますよね。打ち合わせ、調べ物、電話での応対など、その時々の仕事内容に合わせて、適切なスペースが選べるようになっています」
フリーアドレスの一歩先を行く、「ABW=アクティビティベース型ワークプレイス」
――いわゆる、フリーアドレス制というものですか?
金子さん「我々は、ABW(アクティビティベース型ワークプレイス)と呼んでいます。世界的にはフリーアドレスの一歩先をいく制度として定着している言葉ですね。ABWは、オフィスの内外を問わず、働く時間と場所を選べる、よりフレキシブルな働き方を可能にする仕組みです」
▲オフィスはロンドン、パリ、シドニー、ロサンゼルス、ニューヨーク、そしてトーキョーという6つのゾーンに分かれており、それぞれのゾーンにちなんでアーティストが制作した壁画が描かれている。ここは都会的な雰囲気の「ニューヨークゾーン」。
金子さん「CBREでは、ノートパソコンさえあればどこでも仕事が出来る環境が整っているので、社員は様々なタイプのスペースを、その時々の目的によって使い分けることができます。基本的なデスクワークを進めるためのスペース、まわりを気にせず電話ができるフォーンブース、フォーマルなミーティングルームはもちろん、気軽にディスカッションできる窓際、壁際のスペースや、自然と会話が生まれるハイカウンターなど。さらに、社員同士が自由にオフィスを動き、交流が活発になるように、端から端まで約130mある広大なオフィスフロアの中心にカフェを設置するなど、オフィス内での動線にも気を配って設計しました」
▲応接室は、皇居を見渡せる眺めの良い場所にある。
▲電話での会話を禁止している集中スペース。図書館のような雰囲気のため、まわりの声を気にせず仕事に集中できる。電話で話す際には、左奥の防音のフォーンブースを使用できる。
▲ニュージーランドの人気カフェが運営する社内カフェ。からだにやさしい軽食とドリンクが揃っている。社内イベントで利用されることも。アフターファイブにはワインやビールなどのアルコールも提供される。
金子さん「最近は、カジュアルなデザインのオフィスも増えていますが、当社のオフィスは、あえて少しエッジのきいた雰囲気にしています。それは、最初に話した、『“プロフェッショナル”になってほしい』という社長の想いを受けてのこと。少しだけ背伸びして、場にふさわしい人間になれるよう、ひとりひとりが努力する。それくらい高いモチベーションで働いて欲しい、という気持を込めています」
▲異なる雰囲気の壁画によってゾーンに個性が生まれている。受付や応接室は日本をイメージした「トーキョーゾーン」にある。
一日の満足度が全然違う!「自分で仕事を組み立てる」という働き方
▲今里真理子さん/ビル営業本部 ビル営業1部 アソシエイトコンサルタント
4年前までは浜松町にオフィスを構えていたというCBRE。当時は、部署ごとにフロアの分かれた、従来の島型オフィスだったとのこと。今回のオフィスの移転によって大きく働き方が変わったという今里真理子さんに、リアルな経験を聞きました。
――まず、オフィスの在り方が大きく変わる、と会社から発表があった時の皆さんの反応はいかがでしたか?
今里さん「戸惑い半分、楽しみ半分、といったところだったでしょうか。不安な声はたくさん聞きましたね。固定席がない、ということで、朝出社して、自分のスペースはちゃんとあるのか?とか、システムのデジタル化についていけるのか?など。会社からはスマートフォンとノートパソコンだけで仕事ができるように、移転の9カ月前から働き方の意識改革トレーニングを受けました。また、移転に伴う社員の不安や心配を取り払うために、デジタルツールの使い方に関するトレーニングのほかにも、紙の書類を減らし、デジタル化を促すためのパージパーティなど様々なイベントが企画・開催されていました。ついていく我々も必死で頑張った、と思います(笑)」
――その結果、いまの働き方についてどう感じているか教えてください。
今里さん「9カ月にわたる移転までの準備期間のおかげで、とてもスムーズに新しい働き方に移行でき、自分でもびっくりしています。新しい働き方では、自分で仕事をする環境を細かくカスタマイズできるので、すごく充実しています。例えば、私は営業職なのですが、集中して資料を作りたい時は集中ブースにこもる、社内でのミーティングが比較的多い時は、みんなの目につきやすい長テーブルの席に座って作業する、外出が多い日は、PCを持ち出して空き時間にカフェで、といったように、仕事の内容に合わせて環境を選んでいます。働き方をセルフマネージメントできることで、一日が終わった時の達成感と満足度は非常に高いと感じています」
▲通常業務は、複数のモニターや電話機が設置されたデスクで。
▲プレゼン資料などを作る際は、集中ブースにこもることが多いそう。
今までの固定席の時よりも、逆に社内コミュニケーションが増えた
――自分で自由に決められる、というのは、反面、自分で考えて決断することが多い、ということでもあると思います。ある意味、大変になった面もあるかと思いますが・・・。
今里さん「そうですね。確かに自分で仕事を組み立てるからには、責任を持って、効率がよく、成果が出せる予定を立てなければなりません。一方で、自分で自由に決められることで、ラクできるのではないか?と思われる方もいるかと思いますが、実は、ABWという環境では、ほとんどみんな毎日違うデスクにいますので、自ら積極的に行動し、主体的に発信し続けなければなりません。実際、移転前のオフィス環境の時よりも、上司やチームへの相談・報告といったコミュニケーションが増えたねと、部内でも話しています。上司も私たちの座っている場所を気に留めてくれていますし、私も上司やチームの居場所は、朝一番に確認しています!(笑)。タイムリーに情報を共有することで、課題や問題の早期発見に繋がることも多く、仕事の時間を効果的に使うことができ、とても生産性が高い環境になったと思います。そういった意味では、自分で自由に仕事を組み立てられることと、それぞれ自律的に行動するメンバーやチームと一緒に効率的に働けるという点が、やりがいにつながっていると思います」
――他にはどんなメリットを感じていますか?
今里さん「ライフワークバランスも、以前よりも良くなり満足しています。仕事が忙しい時期は残業をすることもありますが、定時で帰る日には、仕事帰りに勉強会や異業種交流に顔を出したり、習い事に行ったりと、時間を有効に活用できていますね。そういった“課外活動”が、仕事のチャンスにもつながればと、オンもオフも両方楽しんでいます」
▲カジュアルに話のできるハイカウンター。ちょっとした情報共有をする時に便利とのこと。
今里さん「丸の内に移転してくる前は、オフィスが5フロアに分かれていたため、他の部署との交流はほとんどなかったのですが、今では、話したことのない他の部署の人が、隣に座っていることも珍しくありません。例えば、そこから会話が生まれ、他の部門の仕事の内容を理解することで、『自分もそういう仕事にチャレンジしたい!!!』と感じるような、新しい発見もあります。実際、私は他部署の人との会話がきっかけで、現在の部署に異動希望を出しました。ABWによって、働き方だけでなく、キャリア設計の可能性もさらに広がったと感じています」
これからのダイバーシティにおいて、ワークプレイス改革は必要不可欠!
――みなさん、働きがいやメリットを多く感じているとのことですが、逆にこれからの課題などがあれば教えてください。
金子さん「当社のオフィス改革では、“個人の働き方の自由度を上げる”、といった目標を大きく掲げていました。更に部門を超えた“横ぐし”の連携を強化できるようなレイアウトにすることで、お客様へのサービスの向上に繋がったほか、優秀な人材の確保、生産性や社員満足度の向上も達成することができました。次のステージとして、中間管理職と現場のメンバーとの関わり方、が課題に挙がっています」
――具体的には、どういった対策を考えていらっしゃいますか?
金子さん「今まではいつも部下が目の届く場所にいたため、管理しやすかったわけですが、ABWのような環境では、様々な形のコミュニケーションを取っていく必要があります。例えば、日々の業務の管理はチャットツールなどのITテクノロジーを有効活用して、こまめにやりとりしたり、中長期的なキャリアプランは対面の1 on 1ミーティングでじっくりと話をしたりなど、中間管理職にも目的や状況に応じたマネージメント方法が求められます」
今里さん「私たちの立場としても、中間管理職である直属の上司が我々の情報をキャッチアップしやすいように、意識して上司の近くに行く場合もあります。上司も部下も同じく、コミュニケーションに対する意識が高まっている。働く場所がバラバラになることで、逆にみんながひとつになっていると感じます」
金子さん「育児をしている女性からも、『働きやすくなった』という声をよく聞きます。一人ひとりが“自分らしく”働くことで仕事のやりがいや向上心も高まるでしょう。私が一緒にお仕事をさせていただく企業をみても、イキイキ働く人材が多い企業ほど、活気がありますし、成長しているように思えます。“自分らしく”働ける、新しい形のワークプレイス作りをお手伝いしている私としては、これが日本の大きな流れとして、広がっていくといいなと考えています」
ワークスタイルだけでなく、ワークプレイスを見直し、より働きやすい環境づくりに取り組む企業が増えている。“自分らしく”働けることを大切に。そんな世の中の流れは、女性が社会で活躍する大きな追い風となっているようです。