「お茶を濁す」とはその場しのぎでごまかすこと
「お茶を濁す」は「おちゃをにごす」と読み、本人にとって望ましくない状況を、その場しのぎの適当でいい加減なことをいうことでごまかし、取り繕うことを意味する慣用句です。「お」を除き「茶を濁す」ともいいます。
辞書には、次のような意味が記載されています。
【御茶を濁す:おちゃをにごす】
いいかげんに言ったりしたりしてその場をごまかす。「冗談を言って―・す」
(引用〈小学館デジタル大辞泉〉より)
「お茶を濁す」は、日常会話でもよく使われる言葉です。しかし、そもそもお茶を「濁す」とはどういうことなのか、それがなぜその場しのぎをしてごまかすことを意味するのか、説明できる人は多くないでしょう。
ここからは、「お茶を濁す」という言葉の由来を確認していきます。
茶道の作法が由来
「お茶を濁す」という言葉の由来は、茶道の作法にあるといわれています。茶道には、亭主(先生)に点ててもらった抹茶を飲む際、決められた作法があります。
しかし、よく知らない者があたかも知っているかのようにそれらしくかき混ぜ、抹茶を濁らせたことから、その場しのぎをしてごまかすという意味で使われるようになったようです。
出されたお茶の濁っているさまを話題にして、作法に関する話を逸らしたことを由来とする説もありますが、後からつくられた俗説である可能性も高いと言われています。
「濁す」は日本ならではの表現
「お茶を濁す」の「濁す」は、日本人の特性などを背景とした、日本ならではの表現といえます。日本では謙虚さや周囲との協調性が重視され、白黒はっきりさせずに濁すことで曖昧にし、波風をたてないことが求められる傾向にあります。
周りと良好な関係を維持するために「お茶を濁す」のは、日本独特の慣習であるといえるでしょう。
【例文付き】「お茶を濁す」の使い方
「お茶を濁す」は、望ましくない状況においていい加減なことを言ったり言い訳をしたりすることで、その場を取り繕うという意味で使われます。「お茶を濁す」を使用した例文を確認し、実際の使い方の参考にしてください。
・彼は肝心なことについてはいつも【お茶を濁し】、話そうとしてくれない
・年齢を聞かれたので【お茶を濁して】おいた
・答えたくない雰囲気を出していたにもかかわらず、相手からの質問があまりもしつこかったので【お茶を濁した】
「お茶を濁す」の類語・対義語
「お茶を濁す」には同じような意味をもつ類語、対象的な意味である対義語があります。「お茶を濁す」だけでなく、その類語や対義語も一緒に知ることでさらに理解が深まるでしょう。
ここでは、類語として「その場しのぎ」「取り繕う」、対義語では「明るみに出る」「正々堂々」の、意味や例文を解説していきます。それぞれ確認していきましょう。
類語は「その場しのぎ」「取り繕う」
「その場しのぎ」とは後のことを考えずに、とりあえずその場を取り繕うこと、またそのような態度や口実を意味する言葉です。「その場しのぎの嘘をつく」というように使います。
「取り繕う」には、整えて見栄えをよくする、不都合を隠すためにうわべを飾るという意味があります。「取り」には取り敢えずと同じで、急場をしのぐという意味があり、繕うは修繕するという意味です。「その場を取り繕う」といったような使い方をします。
対義語は「明るみに出る」「正々堂々」
「明るみに出る」とは、明るいところに出ることから転じて、隠されていた事柄が表面化して公になることを意味する言葉です。「ついに事実が明るみに出ることになった」というように使います。
「正々堂々」は「せいせいどうどう」と読み、態度や手段が正しく立派なさまをあらわします。もともとは軍隊などの陣構えが整い、盛んな勢いであることを意味する言葉でした。
「正々堂々と戦う」などと使います。いずれも、その場しのぎでいい加減に取り繕ってごまかすという意味の「お茶を濁す」とは対照的な意味の言葉といえるでしょう。
「お茶」や「濁す」を用いた言葉4つ
「お茶を濁す」以外にも古来、身近にあった「お茶」にまつわることわざや慣用句は数多くあります。また、既に述べたとおり日本独特の表現である「濁す」を用いた言葉にもいろいろなものがあります。ここで挙げるのは次の4つです。
1.お茶の子さいさい
2.お茶と情けは濃いごいと
3.言葉を濁す
4.跡を濁す
「お茶を濁す」と一緒に、これらの言葉も抑えておきましょう。それぞれの意味や使い方を解説します。
1.お茶の子さいさい
「お茶の子さいさい」は、物事がたやすくできることを意味する言葉です。
「お茶の子」はお茶と一緒に出される茶菓子、「さいさい」はもとは民謡や童謡に使われる「よいよい」「おいおい」などの囃し(はやし)言葉であり、勢いをつける言葉です。
そのため、「簡単に食べられる茶菓子のようなものだよ、ほらほら」という風に訳すことができるでしょう。「そんなのはお茶の子さいさいだ」という使い方をします。
2.お茶と情けは濃いごいと
「お茶と情けは濃いごいと」とは、人に出すお茶も義理人情も濃いほうがよいという意味の、鹿児島で生まれたとされる言葉です。
かつて、遠くからはるばる訪ねてくれたお客様に薄いお茶を出すことは失礼とされていたことが由来です。お茶が、日本人の暮らしと密接なものであったことをうかがえる言葉といえます。
3.言葉を濁す
「言葉を濁す」は、はっきりと言わないであいまいに言う、という意味の言葉です。「口を濁す」と誤用しやすいため、間違えないように注意しましょう。
「お茶を濁す」と似た意味ですが、「言葉を濁す」が文字どおり「言葉」をごまかすという意味であるのに対し、「お茶を濁す」は行動についても使われる点が違います。「言葉を濁すばかりで本音を言わない」というように使います。
4.跡を濁す
「跡を濁す」は、立ち去ったあとに醜い状態を残すことを意味する言葉です。関係性がなくなったあとに、不名誉やミスや悪い噂などを残すことをいいます。
ここでは「濁す」はごまかすではなく、汚くする、醜くするという意味で使っていることに注目しましょう。「跡を濁していったと思われないように、しっかり引き継ぎをしていく」といった使い方をします。
まとめ
「お茶を濁す」は、その場しのぎでいい加減なことを言ってごまかすことを意味する慣用句です。お茶とは抹茶のことで、茶道の作法に関する知識のない者が抹茶を適当にかき回して濁らせ、それらしく見せたことが由来といわれています。
謙虚さや協調性の高さが美徳とされてきた、日本ならではの表現といえるでしょう。基本的にはごまかす、取り繕うことは良いことではありませんが、その場の雰囲気によってははっきりと主張したり答えたりせず、「お茶を濁す」のが正解ということもあります。
「お茶を濁す」という言葉の由来を知って、正しく使いこなせるようにしましょう。
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