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LIFESTYLE 挨拶・マナー

2022.03.26

「父兄のみなさま」「お母さま」…… ちょっと待って、その表現

 

学校やPTAから届く何気ない案内文にある「父兄のみなさま」「お母さま」の宛名。これに違和感を持ったことはありますか? 日常的に使われる男女を分ける表現は、多くの人の考え方にどのような影響を与えているのでしょうか。

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何気ない案内文の宛名書きに…

「父兄の皆さまにお知らせ」

春、PTA活動も新たなスタートをきります。通学路の見守りにはじまり、クラス交流会、学校周辺の清掃など、さまざまな活動が展開されますが、会長は男性だけど、役員のほとんどは女性――という光景をよく目にしませんか。

手元に届いた学校やPTAの案内文に「父兄」と書かれていても、違和感を抱かない人も多いのではないでしょうか。何気ない案内文ですが、使われている表現が多くの人の考え方やものの見方に影響を与えているということを私たちはあまり気づいていません。「女は家、男は仕事」の性別役割分業は、家庭や職場だけではなく、PTAなど様々な社会的活動にも及んでいるようです。

たとえ、学校の案内文であっても、そこに書かれている言葉や考えが多くの人に配られ、広がることで、公的に受け入れられる社会全体の価値観を形作っていくのではないかと考えられます。もし、それが、「父兄」宛であれば、「子供を保護する人・社会で働く人=男性」という認識や価値観が、社会的に当たり前になっていくという力があります。案内チラシといえど、相手に意思を伝える媒体、メディアの一つと考えられます。

「お母さまへ」と書かれているチラシもあります

本来、育児、家事、仕事などの役割について性別によって分ける必然性はありません。清掃やスポーツ活動など、体力のいる仕事にかぎって、父親の参加を呼びかける表現も見かけます。この表現の背景には、子どもや学校のことは、仕事で忙しい父親が出るより母親が出るものだという性別役割分業が無意識に当たり前になっているからではないでしょうか。一方、職場では、主体的に家事や育児に取り組む男性に対する視線が冷たい、といったこともあります。「男らしさ」を求められて負担を感じてしまう男性がいるかもしれません。心当たりはありませんか。

父親や祖父母、養父母など、さまざまな立場にある人が育児の担い手という家庭もあります。「保護者の皆さまへ」とするなどの配慮一つで、違和感を抱く人が減るでしょう。案内チラシなどは、前年度のチラシを参考にすることが多いと思います。「これまでもこうだったから」ではなく、案内を作成する担当になったら、思い切って刷新してもよいだろうと思います。案内チラシをもらった相手がどんな気持ちになるか、まず考えることから始めるだけでもこれまでとは違ったものになるでしょう。

メディアに溢れる“性別表示”

性別をことさら強調する必要性や必然性があまりないということは案内チラシの件でおわかり頂けたかと思いますが、テレビやインターネット、雑誌、新聞を見れば、あふれんばかりに「女子◯◯」「女◯◯」という過剰な性別表示を見かけます。

「女子高生がお手柄!迷子助ける」「女社長が語る 起業の秘話」など。「女子アナ」「女医」などは見慣れた言葉ですが、ふと考えると、「男社長」「男子アナ」「男医」という表現はほとんど、見かけません。不思議です。

アナウンサーにいたっては、「女性」ではなく、「女子」と一段低く見る表現にもなっています。プロフェッショナルとして、単にアナウンサーという表現でよく、どうしても性別が必要な表現でも「女性アナウンサー」とすればいいわけです。さらに社長、医師については、女性であることを強調する背景に、その仕事は男性が多い仕事であって、「本来は女性の仕事ではない」などという固定観念が潜んでいます。

2021、2022年とオリンピックイヤーが続いています。そこでも目についたのが、「◯◯選手、勝利に男泣き」「男気あふれる決断」などの表現や見出しです。悪気があって書いているわけでもないことはわかりますが、好意的な記事であっても、「本来男は強いものだ」という固定観念が透けて見えます。男性に過剰な「男らしさ」を求めることも、実は男性側にもある種、固定観念を植え付け、その男らしさを振る舞うことに負担を感じているかもしれません。

ここまで、思い当たるケースを並べました。日常的に「なぜなんだろう」と思ったこともないかもしれません。それはあまりに当たり前の風景だからです。あなただけではなく、多くの人が同じです。

日本の“ジェンダー感覚の遅れ”

「日本のジェンダー感覚は遅れている」などと、専門家が解説しているのを見たことはありませんでしょうか。根拠となるデータがあります。世界経済フォーラムが発表したジェンダー・ギャップ(男女格差)指数で2021年、日本は156カ国120位。先進国の中で最低レベルの順位が続いています。

表現を仕事にしているテレビや雑誌、新聞などのメディアも、ジェンダー・ギャップが大きい業界です。無自覚に、表現を振り返ることなく、ジェンダー平等に配慮のない表現を垂れ流してきた一面は否めません。しかし、いま、新しい動きが生まれています。

ジェンダーに配慮がないからダメダメだ、と指摘されても、指針になるものがなければ改善できません。その指針を、現役の新聞記者たちがつくったのです。『失敗しないためのジェンダー表現ガイドブック』(小学館)。記者たちがこれまでの自分たちの反省をもとに、ジェンダー平等に配慮のないと考えられる、新聞やウエブの記事、イラスト、写真などを持ち寄り、改善に向けてどうしたら良いかを考えるために作成したものです。

SNS、PTA、地域の活動や企業の広報・宣伝、ポスター、配布物、公共機関の広報など、さまざまな形で発信に関わる皆さんにとっても、ジェンダー表現を考える指針になります。言葉狩りになってはいけませんが、何かを伝え、発信する際には、ふと立ち止まる。そのことからでもいいから、考えていくことが大事なのではないかと思います。

このガイドブックを、「ジェンダー」という概念にあまり馴染みのない人、言葉を聞いて気になるけど詳しく知ることができる一冊にまだ出会えてない人、そのような方にぜひ手に取ってもらえたら嬉しいです。また、弱者に寄り添う視点がジェンダーの表現を考える上でのポイントとして、「性暴力を伝える現場から」「性暴力被害の実態や被害者への偏見」「二次被害」などについても専門家から話を聞き、紐解いています。子どもたちを守るうえでも大切なことです。

希望に胸膨らみ、あちこちで新しく何かが始まるシーズンですね。ぜひ家庭やグループ、職場に一冊手元に置いて、ジェンダーやジェンダー表現について話すきっかけにしてみてはどうでしょうか。

『失敗しないためのジェンダー表現ガイドブック』(小学館)。税込み1,650円。3月22日発売。
(筆者・新聞労連ジェンダー表現ガイドブック編集チーム)

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