すなわち、酪酸菌が腸内フローラの乱れ(ディスバイオーシス)を改善し、糖尿病を予防するのではないかと考えられています。つまり、酪酸菌は1型糖尿病の発症を抑えるということです。
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筋肉を増やすには肉より酪酸菌
「将来の日本人は、男性はメタボ(メタボリックシンドローム)で早死にし、女性は筋力低下で寝たきりになる」。そんな暗い予想が医学者たちによって立てられています。といいますのも、近年、日本の女性の筋力が低下し、骨粗しょう症の筋肉版ともいわれる「サルコペニア症候群」の人が増えているからです。
サルコペニア(サルコ=筋肉、ペニア=喪失)とは、主に加齢による体を動かす筋量および筋力の減少で、高齢化が進む日本において、いまや深刻な健康問題となっています。
たとえば、四肢体幹の筋肉のサルコペニアが進めば寝たきりになります。そこまでは想像がつきますね。それ以外にも、嚥下(えんげ)筋や呼吸筋、舌の筋肉が衰えれば、嚥下障害、窒息、誤嚥(ごえん)性肺炎、呼吸障害が起きてきます。こうなると生活の質が下がるだけでなく、介護が必要になってきます。
実は、日本人の死因第3位は老衰です。病気が原因ではなく、全身が衰えて亡くなる老衰。つまり、日本人の寿命を決めるのは、内臓でも血管でもなく、筋肉といえるのではないでしょうか。
「フレイル」という言葉を聞いたことはありませんか?「寝たきり寸前」というような意味です。日本人の死因の第3位が老衰ということは、サルコペニアによってフレイルに陥り、そのまま亡くなる日本人が多いことを意味しているのです。つまり、まだまだ元気で長生きできる人たちが、筋肉の衰えによって死を招いてしまうのです。
長寿地域の住民にはサルコペニアの人は少なく、命が尽きるときまで自分の脚で歩き、寝たきりにならないということがわかっています。
では、長寿地域の人々は、肉などのたんぱく質をたくさん摂っているのでしょうか?
答えはNOです。日本の長寿地域、京丹後市での調査では、筋肉量とたんぱく質摂取量とは関係ありませんでした。日本人にとって筋肉量と相関していたのは、「酪酸」でした。
つまり、筋肉を増やすために摂るべきは、肉よりも酪酸菌を増やす海藻、豆、野菜、果物だということです。昔から食べられてきた日本食が筋力低下を防いでいたのです。海藻を食べて、酪酸を腸のなかで増やすことのほうが、ずっと自然で、日本人らしい筋肉の増やし方なのです。
しかも、酪酸が増えると新型コロナウイルスなどの感染症にもかかりづらくなるなど、さまざまな副次効果があります。通常の食事から摂取できるので経済的でもあります。
ぜひ「プロテインよりも海藻を」と覚えておいてください。
最近では、高齢者向けのプロテインも登場しています。それは高齢者の一度落ちた筋力を回復させるのは難しいからです。深刻な状態になる前に、普段の食事から意識して筋肉を増やしたいものです。
江田クリニック院長 医学博士
江田 証(えだ あかし)
1971年、栃木県生まれ。自治医科大学大学院医学研究科修了。日本消化器病学会奨励賞受賞。日本消化器病学会専門医。日本消化器内視鏡学会専門医。米国消化器病学会(AGA)インターナショナルメンバーを務める。毎日、国内外から最新の治療法を求めて来院する、お腹の不調をかかえた患者を胃内視鏡・大腸内視鏡で診察し、改善させることを生きがいにしている。著書に『医者が患者に教えない病気の真実』『病気が長引く人、回復がはやい人』『おなかの弱い人の胃腸トラブル』(すべて幻冬舎)、『腸内細菌の逆襲』(幻冬舎新書)などがある。
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