「鱶」とは?
「鱶」とはサメを意味しており、中でも大型のサメのことを指します。今ではなかなか使う機会がなく、古くに使われていた表現になります。そのため、サメといえば「鮫」の漢字を思い浮かべる方が大半なのではないでしょうか。
昔はサメの表現が地域によって異なっており、関東より北では「鮫」という表現をし、関西より南では「鱶」という表現をしていたとも言われています。実際には、どの種をどのように呼ぶかについては明確な定義はなく曖昧になっているそうです。
■読み方
このサメを意味している「鱶」という漢字は「フカ」と読みます。「フカ」と聞くと「フカヒレ」などはよく耳にする言葉ですよね。ご存知の通り、フカヒレは大型のサメ(フカ)のヒレを乾燥させた中華料理です。少しサメとの関連がイメージできてきたのではないでしょうか。
「鱶」の名前の由来とは?
「鱶」という漢字を分解すると、魚編と「養」に分けることができます。これは、サメの親が胎内で卵を孵化させて子サメを産む「卵胎生」であることから、「子どもを養う魚」という意味を持っており、「養」という字が当てられたという説があります。
また、「フカ」という読み方は「海の深い場所に棲んでいる」という意味に由来しています。
「鱶」の特徴を紹介
続いて、先ほども少し触れましたが「鱶」の特徴を解説しつつ、「鮫」との違いについて詳しくみていきましょう。
■「鱶」の基本情報
「鱶」は、脊椎動物で軟骨魚綱板鰓亜綱(なんこつぎょこうばんさいあこう)に属する魚類。板鰓亜綱には、「エイ亜区」と「サメ亜区」の2種類あり、分類学上ではエイと非常に近い関係にあります。エイとサメの違いは、鰓(えら)が下側にあるのがエイ、側面にあるのがサメと区別されているようです。
「鱶」のほとんどは、水の抵抗が少なく泳げるように滑らかな流線形をしています。また、皮膚や血液に含まれるタンパク質の臭いにとても敏感。とはいえ、映画『ジョーズ』のモデルにもなっている「ホホジロザメ」のように人を襲う「鱶」はほんの数種類ほどだそうです。
■「鱶」と「鮫(さめ)」の違いとは?
さて、今度は「鱶」と「鮫」の違いについて、動物的特徴と漢字表記の観点から別々に見ていきましょう。まず、動物的な特徴ですが、学術上では同じ生物とされています。サメという生き物の中に、「鱶」の和名を持ったサメが存在すると考えると分かりやすいかもしれません。たとえば、最も有名なメジロザメは和名では「ヤジブカ」と呼ばれていますし、サメの中でも最大種の一つであるイタチザメは和名で「サバブカ」と呼ばれています。
次に、漢字表記の違いについて解説します。「鱶」の表記は、先述したように卵胎生であることに由来。一方で「鮫」については、諸説ありますが一説には「牙が上下にあり、それらが交わるため」と言われています。他にも、魚は基本的に交尾を行わず、体外受精で小魚をつくりますが、鮫は交尾を行い子どもをつくります。そのため「交」という字が含まれているとも言われています。
覚えておきたい「魚編」の漢字を紹介
「鱶」の他にも、覚えておきたい魚編の漢字について紹介します。ぜひ、身近な人との会話のネタにしてください。
1:鯵
魚編に「参」を組み合わせた漢字ですが、みなさんわかりますか? この漢字は「アジ」と読みます。アジの由来は「味が良い」ということから名付けられています。元々騒がしいという意味で使われる「喿」が当てられていましたが、「参」と書き間違えられたことがきっかけで生まれた漢字だと言われています。
他にも、「鯵」の一番美味しい時期が旧暦の3月(新暦の5月頃)であることから「参」という字が当てられているという説も。
2:鰕
次に、魚編に「叚」と書く漢字ですが「エビ」と読みます。「鰕」というと、多くの人が胴体から尻尾にかけて曲がった姿を思い浮かべるでしょう。じつは「叚」には、「からだを曲げる」という意味があるのです。
また、エビといえば「海老」の漢字をイメージされる方も多いのではないでしょうか。「海老」の由来は、「海老」のもつ長い髭と曲がった姿が老人に似ていることから、これらの漢字が当てられています。「鰕」と「海老」の使い分けについては、海中を泳ぐ比較的小さなエビを「鰕」、海底を歩いているような大きなエビを「海老」と使い分けているようです。実際に高級食材として扱われ、サイズも大きい伊勢海老は「海老」という漢字が使われていますね。
3:鯆
最後に紹介するのは、魚編に「甫」と書く漢字。この漢字は「イルカ」と読みます。カタカナで表現することがほとんどですよね。「甫」には「育む」という意味があり、鯆は乳を飲ませて子育てを行うためこの漢字が当てられたと言われています。
イルカは「海豚」と表現することも。「海豚」は中国から伝わった漢字であり、由来は「外見が豚にそっくりだった」からだそうです。そんな由来を聞くと、イルカが豚に見えてくるでしょうか!?
最後に
今回は、「鱶」の解説とともに魚に関係する漢字を紹介しました。「サメ」を表す漢字として、「鮫」は知っていたけれど「鱶」は知らなかったという人も多いのではないでしょうか。いにしえ人はさまざまな由来を込めて、漢字を構成しています。成り立ちを知ると一層面白かったりします。漢字から魚を知るというのも、一興ですね。