野暮の意味
野暮は、「やぼ」と読みます。「あの人は野暮ったいよね」「野暮なことをするものではない」などと聞いて、何となく意味はわかっているような気がしている、という方も多いと思います。
本当はどんな意味なのか、使い方も含めて解説していきましょう。
野暮にはおもに次のような意味があります。
1:融通がきかないこと、人情の機微がわからない人。
2:洗練されていないこと、人。
1の意味は、特に遊里の事情がわからない人に使われたとされています。遊里とは遊女が多数いる遊び場のことで、おもに、男女の機微に鈍い人を野暮と呼んでいたようです。
井原西鶴の作品『好色一代女』にも次のような記載があります。
野暮はいやなり。ちゅうぐらゐなる客はあはず…
(現代語訳:野暮な客は嫌だ。(野暮でも粋でもない)ちょうどいいくらいの客にはなかなか出会わない)
今風にいえば、その場の空気が読めない人、といったところでしょう。
野暮の語源
野暮の語源には諸説ありますが、いずれも「野暮」という字は当て字です。代表的なものを紹介します。
笙(しょう)
日本の古典音楽のひとつ、雅楽(ががく)で使用する笙(しょう)という楽器があります。笙には17本の管があり、それぞれの穴を押さえ息を吹き込むことで音を出します。その中で、「也」(や)と「毛(もう)」の音が使用されないことから「ある意味がわからない」が転じて人情がわからない、という意味になったといわれています。
野夫(やふ・やぶ)
田や野に出て働く男性を指し、自分を卑下して「田舎者」といった意味で使う言葉が転じた、という説があります。いわゆる洗練されていないことを指します。
野暮の使い方
では「野暮」という言葉はどのような場面で使うのか、具体的な例を見ていきましょう。
1:彼の服装は野暮ったく見える
ファッションセンスがない、というだけでなく、身のこなしも含めて洗練されていないという意味で、否定的な意味合いが含まれています。
2:彼女に年齢を聞くなんて、野暮なことをするな
年齢はプライベートな情報であり、デリケートな話題とされることが多いです。この例文には、そのシーンにおいてタブーとされる行為であるニュアンスを含んでいます。
3:ちょっと野暮用で出かけてきます
野暮用とはちょっとした、つまらない用事のことを指します。理由や行き先を、それとなくぼかすときに使われる言葉です。
4:彼は野暮天だから、パーティーには呼ばないほうがいい
野暮天とはきわめて野暮なこと、また、その人を指す言葉です。この場合、彼が社交的な場で何らかのネガティブな行動をとる可能性が高いという意味で使われています。
野暮の類義語は?
野暮の似たような表現にはどのようなものがあるか見ていきましょう。
無粋(ぶすい)
無粋とは読んで字のごとく「粋(いき)では無い」という意味です。人情の機微、特に人間の間の微妙な情愛を解さないときに使われます。例文をあげます。
1:レストランで課長と一緒にいる彼女に声をかけるなんて無粋な人だ。
2:パーティーで、彼は無粋な提案をした。
3:再婚だからといって、無粋なことを言うものではない。
無骨(ぶこつ)
無骨とは一般的には、繊細さや優雅さ、洗練された様子がなく、無作法な性質や態度を指す言葉です。この言葉は、人の性格や行動または形状やスタイルに対して使われることが多いです。以下に例文をあげます。
1:彼は無骨な性格で、言葉遣いも直接的ですが、その正直さが人々に知られています。
2:彼は社交的な場でも無骨な態度をくずさないが、その真摯な性格で多くの信頼を得ている。
3:その家具は無骨なデザインでありながら、機能性は非常に高い。
粗野(そや)
粗野とは行動や言葉遣い、態度などが乱暴で、洗練や優雅さに欠けることを指します。社交的な場面でのマナーや礼儀に及ぶような行為を指す場合があります。以下、例文です。
1:彼は怒ると急に粗野な言葉遣いになるので、周囲の人々は驚いている。
2:彼女は食事中に大声で話したり、食べ物を口から出したり、粗野な行動が多い。
3:誰かの話を遮って自分の意見を主張する彼の態度は、周囲から粗野だと感じられている。
野暮の対義語は?
では対義語にはどんなものがあるのか、紹介します。
粋(いき)
粋とは気持ちや身なりがさっぱりとあか抜けているうえに色気を持っていることです。一般的には、洗練された態度や行動、優れた趣味やセンスを持つことを指す言葉です。マナーや礼儀に優れているような行為を特に指す場合もあります。以下に例文をあげます。
1:彼はデートでの細かい計らいが粋で、デート相手からの評価が高い。
2:彼女の服装はいつも粋で、多くの人から注目されています。
3:彼のちょっとした言葉遣いはとても粋で、話を聞いているだけで心地よい。
洗練(せんれん)
洗練とは、磨きをかけて、優雅なもの、高尚なものにすることです。一般的には、優雅で品のある態度、行動、またはスタイルを指す言葉。この言葉は、人の性格や行動、または物や状況に対して使われることが多いです。以下に例文をあげます。
1:そのスマートフォンは、ボタンや装飾を排除した洗練されたデザインが特徴だ。
2:彼女の洗練された言葉遣いと礼儀正しい態度は、ビジネスの場でも高く評価されている。
3:そのシェフは、洗練された技術で、シンプルな食材から絶品の料理をつくり上げています。
まとめ
野暮とは融通がきかないことや、洗練されていないことを指す言葉。現代風にいうと、「空気が読めない」「ダサい」という言葉に置き換えられるでしょう。この言葉の意味や背景、使い方を知ることで、より豊かなコミュニケーションが可能になりそうです。
執筆
武田さゆり
国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
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