舌を巻くとは
「舌を巻く」と聞いて何を想像しますか? 決して焼肉やさんで牛タンを巻くという意味でも、舌をくるっとさせて変顔をする、という意味ではありません。
最近はあまり聞きなじみのない言葉かもしれませんが、舌を巻くとは、驚きや感心するあまり何も言えなくなる、あるいは言葉に詰まる状態を指します。日常会話で使用する際には、圧倒されたり、驚きのあまり言葉を失った状態を表現します。
以下、使用例です。
1:彼女のプレゼンテーションスキルには舌を巻いた
2:新製品の性能を見て、競合他社は舌を巻いた
3:新入社員の成長速度には舌を巻いた
このように、舌を巻くは、驚きとともに尊敬の念を含むときに使います。食べ物がおいしい、おいしくない、ということに使う言葉ではないので注意しましょう。
言葉の由来
由来は諸説ありますが、その一つが中国の歴史書『漢書』の「楊雄伝」からの出典といわれています。舌を巻物のように巻いて言葉が話せないという意味で、もともとは驚くとか感心するという意味はなかったようです。驚いたときに思わず言葉を失ってしまうというところから「非常に驚いて感心する」という意味として使われるようになりました。
日本でも、「巻舌」を訓読した「舌を巻く」は当初(平安時代くらいまでか)は「沈黙する」という意味で使われていました。しかし。中世以降から「驚く、おそれる、感嘆する」という意味でも用いられるようになったと見られています。
つまり、「言葉を失うほど驚く」という慣用的な言い方が「巻舌」と結びついて、日本で「非常に驚く、感心する」という意味が定着したようです。
舌を巻くの類義語
類義語にはどのようなものがあるか見ていきます。
驚嘆 (きょうたん)
とても驚いて感心することです。素晴らしい出来事や、思いもよらない物事に対して使われます。
《例文》
1:彼女の歌声には驚嘆した
2:彼の技術に驚嘆してしまった
3:その美術展示には驚嘆するほどの作品が多かった
驚愕(きょうがく)
思いもよらぬ出来事や情報に強く驚くことを指します。
《例文》
1:その突然のニュースに驚愕した
2:彼の急な辞職にみんな驚愕した
3:その裏切りには驚愕するしかなかった
仰天(ぎょうてん)
非常に驚くこと、しばしば驚きで我を忘れる程度の強い驚きを指します。
《例文》
1:その高額な料金に仰天した
2:彼女の突然の告白に仰天してしまった
3:彼が宝くじに当たったと聞いて、全員が仰天した
これらの類義語も「舌を巻く」同様に、特定の事象や人物に対して強く驚いたり感動したりする状況で使います。それぞれ少しニュアンスが異なるので、状況に応じて使い分けてみてください。
舌を巻くの対義語
舌を巻くには辞書的にこれといった対義語はありませんが、「驚きや感動のあまり言葉を失う」という意味と対照的な言葉を紹介します。
無感動(むかんどう)
漢字の通り、心を動かされないことやそのさま。何らかの出来事や情報に対して、感動や興味を感じない状態のことです。
《例文》
1:みんなが泣いている映画でも、彼は無感動だった
2:その美しい景色にも、彼女は無感動でいた
3:いくら素晴らしいプレゼンテーションでも、彼は無感動な顔をしていた
鈍感(どんかん)
精神的な変化や気配、感情などをなかなか察知しない性質や状態、気が利かないことを指します。
《例文》
1:彼は周囲の空気が読めないほど鈍感だ
2:父はそのニュースにも鈍感で、全く驚かなかった
3:彼女は彼の気持ちに鈍感すぎて、まったく気づいていない様子だ
興味がない(きょうみがない)
何らかの事象や情報、人物などに対して関心がない状態のことです。
《例文》
1:彼女はスポーツには全く興味がない
2:科学的な話題に興味がないと彼は言った
3:母はその雑誌の記事には全く興味がなかった
これらの対義語は、何かに感じる驚きや感動が少ない、または全くない状態を表現する際に使用されます。状況に応じて適切な言葉を選びましょう。
舌を巻くの英語表現
舌を巻くの英語表現にはどんなものがあるのか、一緒に見ていきましょう。
be amazed
極度に驚かされた、または感銘を受けた状態を表す言葉です。以下に例文をあげます。
1:I was amazed by her intelligence.
彼女の知性には驚かされた
2:They were amazed at the new technology.
彼らは新技術に驚いた
3:He was amazed that she could solve the puzzle so quickly.
彼は彼女がそのパズルをそんなに速く解けるなんて驚いた
be astounded
信じられないほど驚く、あるいは仰天するという意味です。以下に例文をあげます。
1:I was astounded by the amount of work she completed in one day.
彼女が1日で終えた仕事量に仰天した
2:We were astounded at his sudden change of attitude.
彼の急な態度の変化に驚いた
3:She was astounded by the beauty of the landscape.
彼女はその風景の美しさに驚いた
be stunned
ショックや驚きで一瞬言葉を失ったような状態を指します。以下に例文をあげます。
1:I was stunned when I heard the news.
私はそのニュースを聞いて驚きで言葉を失った
2:She was stunned by his unexpected proposal.
彼女は彼の予想外の提案に驚きで言葉を失った
3:The audience was stunned by his incredible performance.
観客は彼の信じられないほどのパフォーマンスに驚きで言葉を失った
このように、各表現は状況や程度に応じて使い分けられます。「Be amazed」は一番広く用いられる表現で、「Be astounded」はさらに強い驚きを、「Be stunned」はショックや仰天したことを強調する場合に使用されます。
まとめ
「舌を巻く」の意味と使い方について紹介しました。若い年代の方には聞きなれない言葉で、食べ物のおいしさを表す言葉と勘違いしている人も多いようです。ビジネスシーンや日常会話で、誰かや何かに圧倒され、言葉を失うほどの驚きや感動があったとき、ぜひ使ってみてください。
執筆
武田さゆり
国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
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