宝塚バージョンとはまた違う、重厚感たっぷりの『ポーの一族』に感動!
宝塚作品の再演…となるとどうしても比べたくなる人もいると思いますが、ストーリーは同じだけれどまったくの別作品と感じるほどの厚み。男性の声が重なったコーラス、パワフルで時にはアクロバティックなダンス…。オーケストラの生演奏が紡ぐ壮大な音楽と融合し、儚いけれどどこか強くて美しい世界観。
宝塚歌劇団在団中は花組のトップスターを務め、人気を博したエドガー役の明日海りおさん。退団後は活躍の場を広げていますが、〝やっぱり舞台の姿こそが真骨頂!〟と思わせてくれるほど素晴らしかったです。初めて血を求めたときの慟哭、自分がバンパネラであることの受け入れがたさとポーツネル男爵(小西遼生さん)への反発、家族を失ったときの絶望…。「人に生まれて 人ではなくなり 愛のありかを見失った」。複雑に渦巻くエドガーの感情がダイレクトに流れ込んできて、心が揺さぶられ続けます。
前作と比べてしまうのは無粋なのですが…、明日海さんは確実に進化していました。出てくるだけで会場の空気を変えてしまう存在感。哀しみまといながら、人を寄せつけないような孤高さに圧倒されました。見どころは終盤近くの、メリーベル(綺咲愛里さん)を撃ったクリフォード(中村橋之助さん)と対峙するシーン。なぜ生きているのか、なぜここにいるのか。エドガーの苦しみに胸が震え、息をすることも忘れるほど。
アラン役の千葉雄大さんは、今回がミュージカル初挑戦。金持ちのお坊ちゃんという恵まれた立場で、周りにいるのはその地位やお金にあやかろうとする人たちばかり。信じられる唯一の存在は、病床に伏した母親だけ。強がっていても心は孤独、そんな不安定な繊細さを醸し出していて、何度もハッとさせられました。現世の唯一の未練だった母に残酷な言葉を投げかけられ、エドガーとともにバンパネラとして生きることを選んだときのアランの心。アランの決意の眼差しがまた涙を誘うのです。
バンパネラである老ハンナ(涼風真世さん)の屋敷を村人が襲う場面や、ホテルブラックプールの場面などでは、アンサンブルの迫力を体感。男性が入ると人間らしさのリアリティが増し、バンパネラとの対比がくっきりするようです。
舞台美術にも目を見張りました。ホテルブラックプールのシーンから出てきた階段のセットが回って場面転換したりするのですが、それがなんだか有名なエッシャーの階段のだまし絵のようで。衣装も素晴らしかったです。粋を凝らした装飾と、カラフルだけど彩度を抑えた上品な色使いに思わずうっとり…。特に夢咲ねねさん演じるシーラのドレスは、どれも見応えのあるのもばかりでした。
感情が揺さぶられっぱなしの3時間(休憩込み)を終えると、まるでバンパネラにエナジーを吸い取られたかのようにぐったり…。
でも高揚感は抑えられず、誰かと感想を言い合いたいのに、でもこんなときだからまっすぐ帰らなくては…とやり場のない興奮に包まれながら帰路につきました。
ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』、東京公演は国際フォーラムで2月17日(水)まで。名古屋公演は御園座で2月23日(火祝)〜28日(日)。ライブ配信も決まっているので、ぜひチェックを!
撮影/岸 隆子(Studio Elenish) イラスト/春原弥生 構成/淡路裕子
ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』
■ライブ配信
配信公演:
2月7日(日)12:30 公演
2月13日(土)12:00 公演 【エドガーアングルバージョン】
2月13日(土)17:00 公演 【アランアングルバージョン】
2月28日(日)12:00 公演
料金:¥4,500(税込)→「Go Toイベント」適用で¥3,600
公演パンフレット郵送サービス付き¥6,500→「Go Toイベント」適用で¥5,200(数量限定)
※視聴券発売中 各回の開演30分後まで購入可能。チケットはこちら
※アーカイブはございません。
■国内ライブ・ビューイング
日時:2月28日(日)12:00 公演
会場:全国各地の映画館60館
料金:¥5,500(全席指定・税込)
※劇場公演・ライブ配信の詳細はこちら
▶︎オフィシャルサイト
▶︎オフィシャルTwitter(@poe_musical)
イラストレーター
春原弥生
すのはらやよい/1980年生まれ、長野県出身。 薄毛の夫タカ氏と共に姉弟2人の子育て中。『かわいく、わかりやすく、庶民的』をモットーにコミックエッセイ、レポ、マンガなどを手掛ける。楽しくわかりやすい表現法に定評があり、活躍の場はエンタメから語学、ビジネス、実用までと幅広い。著書に『宝塚語辞典』『ふたりの薄毛物語』等、共著に『マンガでわかる! 1時間でハングルが読めるようになる本』などがある。Twitterアカウント▶︎@suno_yayoi