「元の木阿弥」の意味と語源
「元の木阿弥」は、一度良くなったものが元の状態に戻った際に使う言葉です。さまざまな語源をもつのが特徴で、戦国大名の身代わりだった人物の故事や、長年の修行が無駄に終わった僧侶の話などがあります。
「元の黙阿弥」と誤って使われることもあるため、意味と一緒に正しい漢字表記も押さえておきましょう。ここでは、「元の木阿弥」の意味と語源について解説します。
「元の木阿弥」は一度良くなったものが元に戻ること
【元の木阿弥:もとのもくあみ】
いったんよくなったものが、再びもとの状態に戻ること。
補説 戦国時代の武将筒井順昭が病死した時、死を隠すために、その子順慶が成人するまで、声の似ていた木阿弥という男を寝所に寝かせて外来者を欺き、順慶が成人するや順昭の喪を公表したために、木阿弥は再びもとの身分にもどったという故事からという。
引用:小学館 デジタル大辞泉
「元の木阿弥」の意味は、一度良くなったり改善されたりしたものが元に戻ることです。ただし、元の状態が必ずしも悪い状態というわけではありません。状態の良し悪しにかかわらず、単に元の形に戻ることを表します。
また、一度は改善されたものが元に戻るという意味から、今までの努力や行いが無駄になるというたとえでも使われます。
「元の黙阿弥」と誤って表記されることがありますが、そもそも「木阿弥」は人物の名前であり、由来に基づいて「木阿弥」と表記されています。後述する詳しい由来と併せて、正しい漢字表記を知っておきましょう。
「元の木阿弥」の語源はいくつかあり
「元の木阿弥」にはいくつか語源があり、主な説は以下の3つです。
戦国大名の影武者説から出家後の修行に失敗した僧侶の話など、さまざまな説があることがわかります。それぞれの語源を知ると、「元の木阿弥」の意味に対する理解がさらに深まるでしょう。ここでは、主な3つの語源についてご紹介します。
戦国大名の身代わり
「元の木阿弥」の語源として有力とされているのが、戦国大名の身代わり説です。病気によって死が迫っていた戦国大名の筒井順昭(つついじゅんしょう)は、後継の順慶(じゅんけい)が成長するまでは自身の身代わりを用意して死を隠すことを遺言に残しました。
順昭の死後、遺言に沿って順昭にそっくりの身代わりを寝室に寝かせることになりました。この身代わりに選ばれたのが木阿弥という人物です。
順昭の身代わりが必要とされるのは、順慶が成長して家督を継ぐまでです。順慶が成人してから3年が経った頃、順昭の死が公表されて木阿弥の役目は終わりました。城主として贅沢な生活を送っていた木阿弥が、お役御免になって僧侶である元の木阿弥に戻ったことが由来とされています。
長年の修行を無駄にした僧侶
「元の木阿弥」には、長年の修行を無駄にした僧侶を由来とする説もあります。昔、妻と別れて出家した僧侶がいました。木の実を食べる「木食(もくじき)」という修行に励み、木阿弥や木食上人(もくじきしょうにん)と呼ばれて尊敬されていました。
しかし、年を取ってからは心身が弱くなり、僧侶は別れた妻のところへ戻ってしまいます。長年積み重ねた修行を無駄にしたことを知った人々が、「元の木阿弥」とからかって呼んだことが由来という説です。
元の木工阿弥
「元の木阿弥」の由来として知られている3つ目の説は、元の木工阿弥です。昔、農民の木工兵衛という人物がいて、僧侶に献金することで某阿弥(なにがしのあみ)という称号をもらいました。
しかし、周囲の人に新しい称号で呼ばれることはなく、呼ばれたとしても元の名前に引かれた木工阿弥という呼び方でした。せっかくの買名の苦労がむなしく終わったことから、元の木阿弥という言葉が生まれたとされています。
【例文付き】元の木阿弥の2つの使い方
「元の木阿弥」には主に2つの使い方があり、日常会話とビジネスシーンの両方で用いられます。いずれの場合も「元の木阿弥になる」という形で使うのが一般的です。
ここでは、日常会話とビジネスシーンごとに「元の木阿弥」の使い方を解説します。「元の木阿弥」を実生活で使えるように、それぞれの場面に適した例文も併せて確認しておきましょう。
日常会話での使い方
「元の木阿弥」は日常会話の中でも使われます。主に、一度は良い状態になったものの、何かが原因で元の状態に戻ったことを嘆くような場面で使うことが多いです。
日常会話で使える「元の木阿弥」の例文は以下を参考にしてください。
・失恋から立ち直りかけていたのに、振られた相手に遭遇して【元の木阿弥】になった。
・せっかく痩せたのに、休みの間にリバウンドして【元の木阿弥】になった。