「逆鱗」とは想像上の動物である竜のうろこを意味する
「逆鱗に触れる」とは目上の人を激怒させるという意味の言葉です。
【逆鱗に触れる:げきりんにふれる】
天子の怒りに触れる。また、目上の人を激しくおこらせる。
(引用〈小学館 デジタル大辞泉〉より)
「逆鱗に触れる」という言葉はビジネスシーンはもちろん、日常会話の中でもよく使われています。しかし「逆鱗」とはそもそもどんなものなのか、よくわからずに使っているケースも少なくないでしょう。
「逆鱗に触れる」の由来や、この言葉がどんな状態を表しているものであるかを解説します。
「逆鱗に触れる」の由来は『韓非子』
「逆鱗に触れる」の由来は中国戦国時代の思想家である韓非子の著書『韓非子』の「説難」の一節です。この中で韓非子が竜について説明している部分があります。
「竜は手なずけられたら、乗ることもできるが、のどの下に逆さまに生えている「逆鱗」といううろこがあり、ここに触ってしまうと竜に殺されてしまう。同じように君主にも逆鱗があるので、触れないようにして、説得する必要がある」という内容です。
つまり「逆鱗」とは想像上の動物である竜のうろこを表しています。君主を竜にたとえた言葉ですが、現在では目上の人や上司、立場が上の人に対して使われています。
「逆鱗に触れる」の例文
「逆鱗に触れる」は日常会話にもよく登場する言葉です。使う上でのポイントは、軽く怒っている状態ではなくて、激しく怒っている状態を表すところでしょう。
【例文】
・うちの課長は顧客情報の管理がずさんだったことが原因で、社長の【逆鱗に触れて】しまい、地方に飛ばされてしまいました。
・ひと言多いタイプのB子さんの失言が、ママ友グループのボス的な存在のAさんの【逆鱗に触れて】しまい、昨日は大変でした。
「逆鱗に触れる」を目下の人に使うのは誤り
「逆鱗に触れる」は目上の人に対して使う言葉なので、目下の人に使うのは誤りです。つまり会社の部下や、自分の弟や妹、子どもに対しては使いません。
例えば「就業時間が終わる直前に残業を命じたら、部下のA君の逆鱗に触れてしまった」「あまりにも勉強しないのでゲームを取り上げたら、息子の逆鱗に触れてしまった」といった使い方は誤りです。
「逆鱗に触れる」と「琴線に触れる」の違いは?
「逆鱗に触れる」と混同して使われることの多い言葉が「琴線に触れる」です。どちらも「触れる」という語句が使われていることから、意味を間違えて覚えている人が少なくありません。
文化庁が発表した2007年度の「国語に関する世論調査」によると、「琴線に触れる」の意味を「怒りを買うこと」であると考えている人が35.6%いるという結果が出ています。しかし2つの言葉の意味はまったく異なります。
「琴線に触れる」は素晴らしいものに触れて、感銘を受けるという意味です。琴線とは琴やバイオリンなどの弦楽器の糸という意味とともに、人間の心の中にある感じやすい心情という意味があります。
【例文】
・卒業生の卒業式での挨拶が多くの生徒たちの【琴線に触れた】ようで、泣いている子がたくさんいました。
・先日観た被災地での復興支援の様子を記録したドキュメント映画は、私の【琴線に触れる】素晴らしい作品でした。
「逆鱗に触れる」の類義語4つ
「逆鱗に触れる」にはいくつかの類義語があります。主なものは以下の4つです。
・忌諱に触れる
・不興を買う
・憤怒させる
・反感を買う
この4つの語句は、相手に対してマイナスの感情を与えるネガティブなニュアンスを持った言葉であるという点では共通していますが、意味は微妙に異なっています。それぞれの意味と例文をご紹介しましょう。
【類義語1】忌諱に触れる(ききにふれる)
「忌諱に触れる」とは目上の人が話題にしてほしくないことに触れて、相手の機嫌を損ねてしまうという意味です。「逆鱗に触れる」と同じように、自分よりも年上の人や地位の高い人に対して使います。
【例文】
・部長がかつて取引先とトラブルを起こしたことについて、A君があまりにもしつこく聞いたために、部長の【忌諱に触れて】しまいました。
【類義語2】不興を買う(ふきょうをかう)
「不興を買う」は自分のせいで相手の機嫌を損ねるという意味です。この語句も目上の人に対して使うのが一般的といえるでしょう。なお、「不興」という語句は機嫌を損ねること、興が冷めること、おもしろくないことなどの意味があります。
【例文】
・プロジェクトの失敗によって、社長の【不興を買って】以来、専務はずっと冷遇され続けている。
・営業の担当者が取引先の社長の【不興を買って】しまったため、我が社への発注が大幅に減少してしまった。
【類義語3】憤怒させる(ふんどさせる)
「憤怒させる」は相手を激しく怒らせるという意味の言葉です。憤怒は激しい怒りという意味であり、通常の怒りよりもさらに強い感情を表す言葉といえるでしょう。「逆鱗に触れる」との違いは、相手が目上でなくても使えることです。
【例文】
・妻の誕生日にフレンチレストランでディナーを予約していたのだが、仕事の都合で大幅に遅刻してしまい、妻を【憤怒させて】しまった。
【類義語4】反感を買う(はんかんをかう)
「反感を買う」とは相手に反抗や反発の感情を抱かせてしまうという意味です。「買う」という言葉には自分のしたことがもとになって、好ましくないことを身に負ってしまうという意味があります。
「反感を買う」の他にも「恨みを買う」「顰蹙(ひんしゅく)を買う」などの使い方が一般的です。
【例文】
・地域再開発の説明会でのプロジェクトリーダーの上から目線の発言が、地域住民の【反感を買って】しまった。
まとめ
「逆鱗に触れる」とは目上の人や地位の上の人を激しく怒らせてしまうという意味の言葉です。皇帝を竜にたとえて、怒らせると大変であると説明している中国の故事成語が語源になっています。
ビジネスシーンはもとより、日常会話でもよく使われる言葉ですが、目下の人や自分よりも地位の低い人に対しては使わないので、注意が必要です。「逆鱗に触れる」の意味を知って正しい使い方をしてください。
写真・イラスト/(C) Shutterstock.com
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