「医者の不養生」の意味や読み⽅とは?
まずは「医者の不養生」という言葉の読み方と意味、その語源から見ていきましょう。
意味
「医者の不養生」は、「いしゃのふようじょう」と読みます。意味は、頭ではわかっているのに自分ではその通りに行動しないことです。このように、本来は職業に関係なく、幅広く使われる意味を持つ言葉なのですが、「医者」という言葉が使われているため、医者やその他専門職の人に関して使われることが多いのが実情です。
なぜ、頭ではわかっているのに自分ではその通りに行動しないことを表す言葉に、「医者」という職業が使われているのか、次で詳しく解説していきます。
語源
「医者の不養生」は、江戸時代に生まれた言葉です。江戸中期の談義本(江戸中期に流行った滑稽な風俗小説)、風来山人(ふうらいさんじん)の『風流志道軒伝(ふうりゅうしどうけんでん)』に、「医者の不養生、坊主の不信心」という言葉が見られ、これが「医者の不養生」の語源とされています。
風来山人という人物の名を耳にしたことがない人も多いかもしれませんが、平賀源内(ひらがげんない)の名はご存じの人もいるはず。実はこの風来千人は、平賀源内のことなのです。平賀源内は、科学者であり、文人であり、芸術家であり、マルチな才能を見せた江戸中期の人物。また、今でいうプロデューサーのようなことも行っていました。
生活に身近なところでいうと、「土用の丑の日にウナギを食べる」という風習は、平賀源内が作ったといわれています。この風習の影響で、ウナギの旬が夏だと思っている人もいるかもしれませんが、本来ウナギがおいしい時期は、秋から冬にかけてです。
ではなぜ「土用の丑の日」にウナギを食べるようになったかというと、夏場にもウナギを売りたい店から相談されて、「本日、土用丑の日」というキャッチフレーズを考案し、これをウナギの販売に利用したのです。
もともと土用の丑の日には「う」のつくものを食べると夏バテしないといわれていたことも、「土用の丑の日にウナギ」が受け入れられて、全国的に広く知られるようになった一因かもしれません。
このように、平賀源内は、科学者、文人、芸術家の他、今でいうところのプロデューサー、コピーライター、インフルエンサーのような多才な人物であったと窺い知ることができます。
話が少し逸れましたが、この平賀源内(風来山人)の著書『風流志道軒伝』は、滑稽な身ぶりと世相風刺で人気の講釈師、深井志道軒(ふかいしどうけん)をモデルとした談義本。この本の中で出てくる「医者の不養生、坊主の不信心」というフレーズから「医者の不養生」ということわざが生まれたとされています。「医者の不養生」は、当時のパワーインフルエンサーが生んだ言葉だったといえるでしょう。
この「医者の不養生」という言葉は、医者は他人には養生の大切さを説くのに自分自身は注意をしないという意味で、口では立派なことを言いながら自分では実行しないことのたとえとして使われます。
また、『風流志道軒伝』で、「医者の不養生」と並ぶ「坊主の不信心(ぼうずのふしんじん)」は、仏道に身を置く僧侶が仏を信じないことを意味し、「医者の不養生」と同じ意味として使われる言葉です。
「医者の不養生」の使い⽅を例⽂でチェック
実際に「医者の不養生」がどのように使われるのか、例文でチェックしていきましょう。
「医者の不養生」というが彼は若い頃からのヘビースモーカーだ
「タバコは体に悪いので禁煙してください」と言いながらも、医者自身がタバコを止められないヘビースモーカーで、肺を悪くすることも。こういう場合に、「医者の不養生」というが彼は若い頃からのヘビースモーカーだという表現が使えます。
先生が生活習慣病だなんてまさに「医者の不養生」ですね
最近のお医者さんは自身の体形維持や健康管理ができている人が多いようですが、昔は恰幅のいいお医者さんも多かったものです。会社などで生活習慣病の検診を受けて引っかかると、医者から運動や食生活の改善などを指導されることがあります。
しかし、その医者自身が普段の生活習慣を原因とする糖尿病や高血圧、肥満だったりすると、先生が生活習慣病だなんてまさに「医者の不養生」ですねと言いたくもなります。