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利益相反とは何か
一般的にいわれる「利益相反」は、ある行為によって一方が利益を、他方が不利益を被ることを指す言葉。日常的にはよくあることですが、ビジネス上の取引などでは問題になるケースがあります。「ついうっかり」では済まされないので、知識として身につけておきましょう。
利益相反行為とは?
「利益相反」を辞書で引くと、以下のように記載されています。
利益相反行為
当事者の一方の利益が、他方の不利益になる行為のこと。一定の利益相反行為は法律で禁止されている。<小学館 デジタル大辞泉>より
では、「一定の利益相反行為は法律で禁止されている」ということはどういうことでしょうか。法律に抵触する場合の「利益相反行為」について、いくつかのケースに分けて見ていきましょう。
会社取引におけるケース
会社取引において「利益相反取引」が発生するのは、「株式会社」と「取締役」の間で利益が相反する場合です。「株式会社」は人間ではなく、“法人という人格”として法律上は捉えられます。しかし法人としての「株式会社」は自分の意思で行動はできません。「株式会社」の意思決定は「株式会社」の執行機関である「取締役」が行います。つまり「取締役」は「株式会社」の意思であり、「取締役」という役割の人間でもあります。
このように「取締役」は一人で2つの役割をもつことになります。一人の人間がそれぞれの役割で金銭の貸借や不動産の売買などを行ったときに、片方だけの利益になる場合。すなわち「取締役」が利益になり、「株式会社」が不利益になるような操作をしたときに「利益相反取引」となります。
会社取引での具体例
具体的な事例を見てみましょう。
例えば、Xという「株式会社」が持つ土地をYという「取締役」に売買する場合、Yは土地価格を操作することができます。Yが安く買いたいと思えば、YはXという「株式会社」の意思を決定できる立場にあるために、価格操作ができるわけです。このようにYが利益を得て、Xが不利益を被るのは「利益相反」取引にあたります。
利益相反取引には2種類ある
「利益相反取引」として、会社法の第356条(競業及び利益相反取引の制限)に下記の2つが規定されています。
1つ目は、「取締役」が当事者として取引をする場合。
「二 取締役が自己または第三者のために株式会社と取引をしようとするとき」
2つ目は、「取締役」以外の第三者と取引する場合。
「三 株式会社が取締役の債務を保証すること、その他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき」
前者を直接取引、後者を間接取引と呼びます。
直接取引とは、「取締役」が直接「会社」と契約を行う当事者である場合で、下記のようなものがあります。
・取締役と会社間の売買契約
・会社から取締役への贈与
・取締役から会社への貸付(利息が発生する場合)
間接取引とは、「取締役」が「会社」以外の第三者と取引契約を結ぶ場合で、下記のようなものがあります。
・会社が取締役個人の第三者との間に生じた債務を保証する
・会社が取締役個人の債務を引き受ける
利益相反にならないためにすること
このような「利益相反行為」については、絶対にやってはいけないというものではありません。株主総会または取締役会において、取引内容を開示し、説明を行った上で過半数の賛成があれば承認となります。たとえ会社側が損失を被ることが分かっていても、承認されればその取引や行為は有効です。
承認がなければその取引は無効となります。ただし、間接取引などで第三者が存在する場合は、第三者の利益を守るため、すぐに無効にはできません。第三者に悪意があったかどうかが問われます。第三者がその取引自体に「利益相反」の承認がされていないことを知らなかった、という証明ができない限りは、無効にはできません。
また、親会社と完全子会社間での取引や、取締役が100%の株主である場合は、承認がなくても「利益相反」には該当しません。
会社以外のケース
それではビジネス以外ではどのようなケースがあるのか見ていきましょう。
遺産相続における利益相反
遺産相続の際に、相続人が複数以上で、その中に未成年が含まれるケースが「利益相反」に該当します。未成年は遺産相続の分割協議には加われないため、通常は故人の配偶者が代理人になります。しかし、この配偶者自身も遺産相続人であるため「利益相反」となる可能性があります。この場合は、家庭裁判所に代理人の選定を要求し、第三者を代理人に立てる必要があります。
銀行取引における利益相反
2つのケースが考えられます。1つ目は金融事業者と顧客の利益が対立するケース。2つ目はある顧客の利益と他の顧客の利益が対立するケースです。
1つ目のケースは、自社の利益を考えて手数料の高い商品ばかりを推奨する場合です。2つ目は、顧客同士が競合関係や対立関係にある場合、片方の企業だけに資金調達やM&Aに対して助言を行ったりすると、もう一方の企業の不利益につながるので、「利益相反」に該当します。
医療分野における利益相反
医療の分野における「利益相反」は、医学の研究分野において生じます。妥当な研究を行わず、本来その研究から利益を受けるべき患者の利益が損なわれることです。例えば、資金提供を受けている製薬会社の意向に沿った有利な研究を行う、あるいは、その製薬会社の不利益につながる臨床結果を公表しないケースなどが該当します。
最後に
誰かが得をして誰かは損をするというと、「それはおかしい!」 と感じるのは当然。自分の役割を使って、自分だけが得になるようなことは、恥ずかしいと思ってほしいところです。そういうことを法律で取り締まらないといけないこと自体が悲しいですが、法律や事例を知っているのと知らないのとでは大違い。今回紹介した事例を踏まえ、「利益相反」についてしっかり押さえましょう。