現代社会を映し出し、「人間らしさ」も垣間見れる、新しい仮面ライダーの世界
――誕生して50年を超えても、変わらない人気を集める仮面ライダーシリーズ。その中で本作品は、庵野秀明氏が脚本・監督を担当したことでも話題の映画『シン・仮面ライダー』。メインキャストは、仮面ライダー・本郷 猛に池松壮亮さん。仮面ライダー第2号となる一文字隼人に柄本 佑さん。そして物語のカギを握る緑川ルリ子に浜辺美波さん。3人そろったところで、撮影を振り返ります。
「全ての行程が、想像していた何倍も大変でした」(池松)
©石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会
池松:まさか自分が仮面ライダーに、それも30歳をすぎてからやることになるなんて。とても光栄でありながら、大きな戸惑いから始まりましたが、それを上回るワクワク感がありました。この作品の完成までにおける全ての行程が、想像していた何倍も大変で、長く途方もない道のりでした。撮影期間中、柄本さんとも浜辺さんとも、雑談する余裕もなかったから。今やっと、こうしておしゃべりする余裕ができました(笑)。
浜辺:私としては、負担の大きいライダーおふたりの体力を消耗させてはいけないと思い、撮影中は話しかけるのを控えていました。精神統一している池松さんを、“そっと”見ていました。
そしてルリ子ならではの長ゼリフは、とにかく緊張しました。仮面ライダーになった経緯や、作品の世界観を説明する立場を担い、かつ初めて聞く言葉の連続。朝から食事も水も喉を通らない経験は、初めてでした。でも、いざ撮影に入ると、現実世界でルリ子が「生きている」感覚になって、そこからは少しずつプレッシャーもなくなっていったのを覚えています。
池松:僕が庵野さんとのことを話し出すと1時間くらいかかりそうだけど…。簡単には言えないほど、底なしにストイックな方でした。カット割の方法、カメラの台数、映画技法、映画哲学、あらゆることが特異で、これまでやってきた映画のアプローチとはまったく違うものづくりを体感したという感触です。
柄本:庵野監督は人として「色っぽい」というか、とても「艶」のある方で、魅力でもある。それが、『エヴァンゲリオン』シリーズなどの作品にも表れているような気がしますね。
「ポーズひとつにしても、いろんな角度から注文が飛んでくる」(柄本)
浜辺:私も、庵野監督にお会いするまでは緊張していました。けれど、実際はシャイでありつつも人を寄せつけない感じはなくて。撮影がオフの日に、差し入れをもって見学にお邪魔したら、庵野さんは「これキープ」と言いながらケーキを喜んで食べてくださって。それからは心の中で勝手に「あんちゃん」と呼ばせていただいていました(笑)。
柄本:ともかく、庵野組は大変だと聞いていたけれど、想像以上だったからね。最初のライダースーツからして大変。ガッチガチに体を覆われた状態で変身ポーズやアクションをやらなければいけないんですから。でも僕も、池松くんの前ではそんなこと言えないな。この状態で池松くんは、僕よりずっと長く撮影していたんだから。
©石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会
池松:いやいやみんな大変でした。庵野さんは初代からの仮面ライダーファンだし、現場も仮面ライダーマニアなスタッフが勢揃いで。
柄本:だから、それぞれ大事にしているところがあって、ポーズひとつにしても、いろんな角度からいろんな注文が飛んでくる(笑)。
浜辺:それは確かにありましたね。
池松:仮面ライダーがジャンプするたびに涙ぐむスタッフがいたり。
柄本:仮面ライダーと仮面ライダー第2号が並んだとたんに泣き出す人も。
池松:そういった人たちに、僕らは仮面ライダーに“してもらった”んだろうなと思います。尋常じゃないくらいに仮面ライダーが大好きな職人たちの身を切るようなこだわりと仕事ぶりに。
「闘いながらも人間的な心も徐々に見えてくるのがルリ子」(浜辺)
――映画『シン・仮面ライダー』を語る上ではずせないのが、仮面ライダーだけでなく浜辺美波さん演じる緑川ルリ子の存在。映画『シン・仮面ライダー』では物語の重要な誘導役にもなっています。
浜辺:いつも淡々としていて、強くあろうとするルリ子の姿は、ものすごくカッコいい。それも、単にクールなのではなく、闘ううちに人間的な心も徐々に見えてくる。そんなところに魅力を感じながら演じていました。そしてルリ子が口にする『言ったでしょ。私は用意周到なの』というセリフ。これを何度も口にしているところがなんだか愛らしくもあります。
池松:今回はどのキャラクターも「孤高」(ルリ子のポスターにあるキャッチフレーズ)だけれど、その中でルリ子は最も孤高な人だったと思います。それを、どこかノスタルジーな雰囲気をもった浜辺さんが真っ直ぐクラシックに演じる。とてもカッコよくて、どこか放っておけない魅力にあふれてました。
柄本:そう、ルリ子は孤高だけど、とてもチャーミング。それに対して僕が演じた一文字隼人は、おしゃべりで明るいキャラクターです。人懐っこくて飄々としているけれど、譲れないものがしっかりとある。どこかしら寅さんみたいなところがあるなと感じています。だから、ヒーローといっても遠い存在ではないんですよね。
池松:人間らしかったですよね。そもそも石ノ森先生が書いた仮面ライダーはこうだったなと。この50年、仮面ライダーだけでなく、ヒーローを偶像化し過ぎてきてしまったのかもしれません。今回の自分の役割としては、誤解を恐れずに言えば「ヒーローを一回人間に戻す」こと。そうしないとこの物語は終われないし、次に継承もできないような気がしています。
浜辺:そこが本作の新しいところだと思います。テレビシリーズだと悪の象徴として描かれていたショッカー(秘密結社「SHOCKER」)でさえ、存在する目的や信念がしっかりあって、すごく深いんです。
池松:我々人間のこと、地球のこと、環境問題、暴力や命について、現代社会を映し出すさまざまなテーマが、仮面ライダーの世界に盛り込まれています。
柄本:現代風にアレンジされているけれど、根っこにあるテーマはとても普遍的なもの。ぜひ、楽しみにしていてください!
池松壮亮
いけまつ・そうすけ/1990年生まれ、福岡県出身。2003年に映画『ラスト サムライ』でスクリーンデビュー。その後も映画・ドラマを中心に活躍し、近年では映画『夜空はいつでも最高密度の青色だ』『斬、』『宮本から君へ』『ちょっと思い出しただけ』などで主演を務め、数々の映画賞を受賞。2023年4月28日には映画『せかいのおきく』が公開になる。
浜辺美波
はまべ・みなみ/2000年生まれ、石川県出身。2011年、第7回「東宝シンデレラ」オーディションニュージェネレーション賞を受賞し芸能界入り。2017年、映画『君の膵臓をたべたい』の主演で注目を集める。近年の出演映画に『思い、思われ、ふり、ふられ』『約束のネバーランド』、劇場アニメ『金の国 水の国』での声優など。2023年4月からは連続テレビ小説『らんまん』に出演。
柄本 佑
えもと・たすく/1986年生まれ、東京都出身。2003年、映画『美しい夏キリシマ』デビュー。『きみの鳥は歌える』で第92回キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞や第73回毎日映画コンクール男優主演賞等を受賞。近作に『痛くない死に方』『真夜中乙女戦争』など。『ハケンアニメ!』で第35回日刊スポーツ大賞・石原裕次郎賞助演男優賞、第44回ヨコハマ映画祭助演男優賞ほかを受賞した。
映画『シン・仮面ライダー』。脚本・監督には、総監督を務めた『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の大ヒットも記憶に新しい庵野秀明、主人公・本郷 猛/仮面ライダーには池松壮亮、ヒロイン・緑川ルリ子に浜辺美波、一文字隼人/仮面ライダー第2号に柄本 佑を迎え、1971年放送の「仮面ライダー」をベースに新たなオリジナル作品として描かれる。2023年3月17日(金)18時より全国最速公開 (一部劇場を除く) 3月18日(土)全国公開 配給:東映
©石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会
原作:石ノ森章太郎
脚本・監督:庵野秀明
出演:本郷 猛/仮面ライダー役 池松壮亮、緑川ルリ子役 浜辺美波、一文字隼人/仮面ライダー第2号役 柄本 佑
デザイン:前田真宏 山下いくと 出渕 裕
映画公式サイト:shin-kamen-rider.jp
映画公式ツイッター:Shin_KR
©石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会
柄本さん/ブルゾン¥374,000、パンツ¥138,600(すべてベルルッティ/ベルルッティ・インフォメーション・デスク TEL:0120・203・718)、その他スタイリスト私物 浜辺さん/ワンピース¥70,400・パンツ¥38,500(ラウタシー/ブランドニュース TEL:03・3797・3673) イヤリング¥3,300・リング¥3,300(ダナエ/ダナエ ザ ファッション) そのほか/スタイリスト私物
撮影/高木亜麗
スタイリスト/瀬川結美子(浜辺さん)、林 道雄(柄本さん)
ヘア&メイク/FUJIU JIMI(池松さん)、寺田祐子(浜辺さん)、東 みほ(柄本さん)
取材・文/南 ゆかり
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