こんにちは、editor_kaoです。
今回は、ちょっと遠回りをしながら、アイテム選びの視点について書いてみたいと思います。前置きが長いのですが、ついてきてー。
背伸びして手に入れた、作家ものの器
私がひとり暮らしを始めた約15年前。「素敵な大人はいい器を使っているらしい」という、ぼんやりとした情報に憧れて、雑誌の器特集を参考に、あるお店を訪ねました。でも、それまで作家の器を、きちんと見たことがなかったので、いったいどんなものが自分に必要なのか、どの作家がいいのか、価格は適正なのか、全然わからなくて……。さらにいえば、「こんなに無知な人間が、作家ものを買うことが許されるのか?」と、お店そのものにも、緊張してしまったんです。ちょうど「丁寧な暮らし」というキーワードが、世間に浸透していたころだったかも。結局、店員さんに相談もできないまま、どこかのライフスタイル本で見たことあるような黒い釉碗を、ひとつ購入して、お店を後にしました。今思えば、もっとお話しすればよかったのですが。
器の背景を知って、改めて感じたこと
そして、ときはあっという間に過ぎ、時代は令和に。人間、少しは学ぶものです。ある日、私は雑誌で、話題の器作家の特集を担当することになりました。さまざまなお店に、おすすめの作家を推薦していただく内容なのですが、そのうちの1軒が、偶然にもこの店だったのです!ただ私、お店のことも器のことも、すっかり忘れていて。取材準備で、お店の住所を見て、初めて「あれ……?」と、思い出したくらい。しかし今の私は、あのときの私とは違う!作家の器を手にするなら、最低限どんな人がつくったものかくらい、知っておくべきと、取材の最後に、事情をお話ししました。すると店長さんがご親切に、「写真を見ればわかると思うので、送ってください」と、言ってくださったのです(だからあのときも、いろいろ聞けばよかったのに!)。
そんなことで、自宅で撮影したものを、後日お店にメールしたところ、すぐに京都の作家さんのものだと、返信がきました。ただ、2年前に病気で亡くなられて、お店でも追悼展をされたのだそうです。いただいたメールには、どんな方だったのか、どういった気持ちで器をつくられていたのかが細かく記されていて、これまでいいかげんな気持ちで器を扱っていた自分を、深く反省しました。またそれと同時に、何もわからず買ったとはいえ、大事に使わなくてはという思いも、高まったんです。
ひとが時間をかけたものに、きちんと対価を払いたい
はい、前置きがだいぶ長くなりましたが、器に限らず、服選びだって、こういった視点は大事よね、と思った話です。まずは見た目から入るけれど、どんな人が、どんな気持ちで、どういった工程でつくっているのかという背景を知ると、もっと愛おしくなるし、大切にしたくなる。選び方だって、もっと深いところで考えることができます。現実には、ファストファッションを切り離すことは難しいけれど、それもありつつ、もうひとつの軸として、アイテム選びの基準となるのではないでしょうか。大人になると、ひとが時間をかけて生み出したものに、自然と尊敬が生まれます。対価を払うことにも、納得が。今って、器や服だけでなく、いろんなことが安く(ものによってはタダで!?)手に入ってしまう時代ですが、果たしてそれでいいのか……もう一度きちんと考えてみたい、今日このごろです。
【今日のひと手間】
今回の原稿を書いていて思い出した、数年前に私が「背景」に共感して、手に入れたシャツです。「蝶矢シャツ」というブランドのもので、なんと日本最古のYシャツブランド!あの三島由紀夫先生も愛用していたとか。なかでもこちらは、完全国内生産の最高峰のコレクションで、コットンの優しい肌触りやシルクのような光沢、細やかな縫製に、当時ため息が出たものです。もちろん価格もそれなりで、白シャツにこの値段……と、なかなか勇気がいったものの、素材の希少性や職人の方の話などを聞いているうちに、すっかりファンになってしまいました。
エディター
editor_kao
大人の実用ファッションを中心に、人物インタビューや日本の伝統文化など、ジャンルレスで雑誌やブランドサイト、ウエブマガジンで活動中。また、インスタグラム@editor_kaoでは、私服コーディネートを紹介するかたわら、さまざまなブランドや百貨店とのコラボレーションも手がけている。ライフスタイルWEBメディアkufura(クフラ)でも「4ケタアイテムで叶えるオシャレ」を連載中。
イラスト/柿崎こうこ
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