蓮、家庭教師の先生、糖尿病の悪化で入院するから、もう勉強が見られないってメールが来たんだけど
【登場人物】
あん（私）…メーカー勤務のシングルマザー。8年前に離婚し、実家に出戻り。39歳。
蓮…生意気盛りの小学生。11歳。
臣斗くん…あんの会社の後輩・海斗くんの大学の同級生で再婚相手。34歳
結衣…蓮の彼女。4年生からS塾に通い中受予定。
お母様…臣斗の母。英語教師で蓮の中学受験を強力プッシュ。
【前回までの話】
シングルマザー歴8年を経て、事実婚という形で再婚に踏み切ったあん。義母から中学受験を進められるもあんは反対派でいたが、息子・蓮の前向きな気持ちと、夫・臣斗のサポートもあり中受へ臨むことを決意。臣斗と新居の選択を巡って意見の食い違いが見られた頃、あんの母親が癌の手術を受ける。術後の経過が良く、あんは家族3人で初の家族旅行へ行くも、臣斗と大げんか。その後、あんは臣斗とのセックスレスに気づいてしまう。また追い討ちをかけるよう疑惑の女性からのメッサージを見てしまうが、臣斗の姉と判明し、セックスレスについても話すことができ、家族として新しい一歩を踏み出した。一方、最後の夏休みと呼ばれる受験生にとっての正念場を過ごした蓮は、原因不明の夜泣きを始めるも理由が分からないまま1週間で止まる。蓮を支える中、あんは吐き気が止まらず妊娠を疑うがストレスによる逆流性食道炎と判明するも、それがきっかけで夫婦間のズレに気づいてしまう。9月に入り日曜日まで塾になる中、連から衝撃のトラブルを聞いてしまう。
前回の話▶︎中受をさせたことに後悔が押し寄せる私は、夫の前で…。【39歳、子連れ再婚の365日vol.27】
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新しく来た若い家庭教師が意外にもヒットの予感♡
こんにちは。8年のシングルマザー歴を経て、5歳年下の男性と再婚したあおいあんです。前回は夫・臣斗くんとママ友に塾でのトラブルを報告したところまでお話ししました。
そのママ友の娘であり、蓮の彼女である結衣ちゃんは他塾の模試を受けるそう。6年生から入塾した蓮はまだまだ身についていない単元も多く、そんなものに手を出している場合ではないと思いつつも、話を聞いてしまった以上、受けない不安も…。他塾の模試を受けるか否か、家庭教師に相談したいと思っていたところ、先生からタイミングよくメールが届いた。しかしそこには…
「こんにちは。入試直前期に大変心苦しいご連絡で申し訳ありません。持病の糖尿病が悪化し、入院することとなりました。最後まで私が支えていこうと思っていたのですが叶わず、もしよろしければ私の息子が代わりに授業をさせていただこうと思っております。息子は東大4年生で就職先も決まっているため、時間に余裕がございます。今までにもバイトで家庭教師をしたことはございますが、蓮くんとの相性もあると思いますので一度お試ししていただけたらと思います。今回このような事態になってしまい大変無念ですが、蓮くんの合格を心より願っております」
思わず「えーーーっ!!」と道端で叫びそうだった。入院するほど持病が進行していたのも気づかなかったし、この時期にもう勉強を見られないだなんて。どうすればいいのよ。環境が変わることが今一番避けたいことなのに。蓮がどんな反応するか聞いてみよう。
私
蓮
だからあんなに太ってたんだ(笑)
全然深刻じゃないのね。もう2月の本番まで3ヶ月しかないっていうのに、この呑気な感じがイラッときたりする。私も”命の母”飲もう。飲んで心の平穏を保つんだ！
私
でね、息子さんが引き継ぐって言うんだけどどうかな？東大生だって
蓮
全然いいんじゃない？東大生なら頭いいし大丈夫でしょ。それより結衣ちゃん他塾の模試受けるんだって。俺も受けたい！
あぁ知ってしまった。結衣ちゃんが受けると知ったらそりゃ受けたいよね。
私
それね、私も結衣ちゃんママから聞いたけど、蓮には必要かな？と思って悩んでる。結衣ちゃんは4年生から塾に行ってるけど、蓮は6年生からでまだ理解が薄い単元があったり、計算ミスも多いよね。模試を受ける時間があるなら、そこを習得する時間に当てた方がいいのかなって
蓮
うーん。結衣ちゃんはその模試を受けると、他塾のライバルの中で自分が何位くらいなのかわかるよって言ってた
「だー、かー、らー、その順位を知る前にやることが残ってるって言ってるんだろう！」と言いたかったがグッと堪えて
私
じゃあ、臣斗くんとその東大生の息子さんに聞いてみよう。それでOKが出れば受けよう。いいね？
蓮は渋々「うん」と言ったが、納得していないようだった。臣斗くんにはその場ですぐ聞いてみたが「受ける必要はない」と言った（もちろん私が先に相談していての結果だ）。蓮は「なんで？どうして？」と臣斗くんに迫ったが、返ってくる言葉は私と同じ内容だった。
そして家庭教師の先生へ息子さんに授業をお願いしたいと連絡をし、その当日が来た。
蓮
はじめまして。蓮です。よろしくお願いします
蒼先生
はじめまして。早田 蒼です。よろしくね
太めのお父さんと似ても似つかないほどスラッとした、爽やかイケメンだった。
私
母です。よろしくお願いします。お父様、大丈夫ですか？ 大変な時にすみません
蒼先生
全然気にしないでください。糖尿病なのに食事制限もせず自由に過ごしていたので、しょうがないんです。さぁ蓮くん、早速始めようか
確かにお父様はお茶の脇に添えたお菓子をいつもペロッと食べていた。糖尿病だと言ってくれれば出さなかったのにな、なんて思いつつ、蒼先生へお茶を持っていき、授業をしばらく見ていると
蓮
先生、他塾の模試って受けた方がいい？
蒼先生
蓮くんは御三家を狙っているわけじゃないから、順位だったり偏差値だったり、結果を気にしないならやってもいいと思うよ。でも他塾の模試は時間の無駄だと思うな。解き直しだったり、計算ミスの分析をした方が合格に近づくし。計算ミスは人それぞれ癖があるから。書き出してみるといつもどこで引っかかってるのか分かるから、やってみて
蒼先生の授業ペースはお父様よりゆっくりで、蓮が話しかけるとすぐ話に乗っちゃうし、癖なのか髪の毛を指でクルクルしながら教えてるのが親としては気になるが、蓮と年齢が近いこともあり、授業自体が楽しそうだし、入試本番に向けた細かい対策話も多い。お父様とは慣れも出てきていたところだから、息子さんとチェンジすることで心機一転、やる気に火がつくかもしれない。
授業が終わり、蒼先生が帰ると
蓮
蒼先生、めっちゃイケメンだったね。続けたい！
そう言うと思ってたよ。「はいはい」と返事をし、その旨を蒼先生にLINEした。蒼先生からは
「今日はありがとうございました。蓮くんの苦手分野がなんとなく分かったので、次回はそこを重点的にやっていきたいと思います。他塾の模試ですが、結果がS塾よりよく出る場合もあります。良く出てしまうと気が緩んでしまうので、なるべくなら受けない方向性がいいと思います」
やっぱり受けない方が良さそうだな。模試を受けた以上、結果はやはり気になると思うし、良い結果を見たら「俺、天才だし～」って言ってる蓮が想像できてしまう。
私
蓮、やっぱり模試はやめておこう。蒼先生も模試よりやることがあるって教えてくれたし。先生の言ってた計算ミスのパターンを探そうよ
蓮
え～！ 結衣ちゃんに受けるって言っちゃったよ。それに計ミのパターン見つけるのダルい
なんで結衣ちゃんに受けるって言うかね。
私
結衣ちゃんママには受けないって言ってあるし、結衣ちゃんママも、今回だけしょうがなく受けさせるって言ってたよ。塾の周りの友達が受けるから仲間はずれにならないようにだって。だから蓮は受けなくて大丈夫
蓮は不貞腐れた顔でドアをバタンと閉めた。このイライラを全身で受け止める役があと3ヶ月も続くと思うと、胃が痛くなる。「受験生の母親は女優であれ」なんて言われるけど、私にできるのだろうか。次のSOも目前だし、マンスリーテストも追いかけてくる。世の中の受験生ママはどう乗り切っているのだろう…。
あおいあん
契約社員でメーカー勤務、現在38歳のシングルマザー。高学年になりちょっと生意気になった10歳の息子と実家に出戻り。40歳を前に「もう一度、女としての人生を！」と一念発起。離婚をしてから7年という恋愛ブランクを埋めるべく奮闘し、5歳年下の彼氏と再婚を決めた。
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