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【目次】
時候の挨拶とは?
時候の挨拶とは、手紙や葉書を書く際に文章の冒頭に記載する礼儀文のことです。
時候の挨拶を記載するのは四季のある日本ならではの書信の習慣であり、ビジネスの場面でもよく使用されています。時候の挨拶には慣用句がありますが、自分なりの言葉にすると気持ちがより伝わりやすくなります。
【時候の挨拶】じこうのあいさつ
日本における、手紙やはがきなどを書く際において、文章の冒頭に使用する礼儀文のこと。「時候」とは四季折々の気候のことである。
(引用:デジタル大辞泉より)
挨拶文の基本構成
時候の挨拶は、冒頭に書く頭語のあとに記載し、そのあとに主文となる本題を書き、末文には結びの言葉と結語を入れるのが基本です。後付では、日付や差出人、宛名を書きます。
挨拶文の基本構成は、以下の4項目に大きく分かれます。
【頭語】
「拝啓(はいけい)」や「謹啓(きんけい)」など、挨拶にあたる「頭語」を冒頭に記載します。
【前文】
季節感を伝える「時候の挨拶」をはじめ、相手の近況を訪ねたり自分の近況を知らせたりします。頭語で「前略(ぜんりゃく)」や「冠省(かんしょう)」を使用する場合は、前文を省略します。
【主文】
「ところで」「さっそくですが」などの起語を用いて挨拶文の目的や要件を簡潔に述べます。
【末文】
結びの挨拶を述べ、頭語に呼応する「結語」を添えます。頭語と結語は決まった組み合わせがあり、挨拶文を贈る相手によって使い分けることが必要です。
よく使われる頭語と結語の組み合わせは、以下の通りです。
【頭語】拝啓|【結語】敬具(けいぐ)
【頭語】謹啓|【結語】謹言(きんげん)
【頭語】前略|【結語】草々(そうそう)
結びの挨拶文について、ビジネスの相手は繁栄や活躍など、親しい相手は健康や幸せを祈る気持ちを添えましょう。最後まで丁寧に心を込めて書くことで、より印象の良い挨拶文に仕上げられます。
【後付】
書いた日付、差出人、宛名を記載します。
4月に使える季語
季語とは、特定の季節を表わす言葉です。挨拶文には贈る時期に応じた季語を記載します。
4月に使える季語の例は以下の通りです。
・陽春(ようしゅん)
・仲春(ちゅうしゅん)
・春暖(しゅんだん)
・温暖(おんだん)
・春日(はるひ)
・桜花爛漫(おうからんまん)
・春暖の候(しゅんだんのこう)
・春(はる)たけなわ
・春光(しゅんこう)うららかな
・春風駘蕩の候(しゅんぷうたいとうのこう)
4月の日本の暦(和名)
4月における日本の暦(和名)は卯月(うづき)と呼びます。正確には、陰暦4月の異名のことを指し、卯の花が咲く頃・卯の花月を指します。
春の季語として有名な「卯月」ですが、現在の暦の上では4月下旬から6月下旬までのことを指しており、春の季語であると同時に初夏の前触れを意味する言葉としても使われています。
時候の挨拶には季語を用いることが多く、俳句に用いられる意味に端を発したものもあります。
以下では、卯月を用いた著名な俳句を10点紹介します。
【正岡子規(まさおか しき)】
寝ころんで 酔のさめたる 卯月哉
意味:眠たげに寝そべっていると酔いから覚めるように卯月の訪れを感じるものだ。【夏目漱石(なつめ そうせき)】
溜池に 蛙闘ふ 卯月かな
意味:ため池でカエルが戦っていることで春の訪れを感じさせるものだ。【高浜虚子(たかはま きょし)】
蚊のいると つぶやきそめし 卯月かな
意味:『もう蚊がいるよ』とつぶやき始めるのが卯月というものだ。【与謝蕪村(よさ ぶそん)】
巫女町に よききぬすます 卯月かな
意味:巫女町では質の良い衣を清め洗いするような卯月であることよ。【野村喜舟(のむら きしゅう)】
過去帳に 卯月の仏 植えにけり
意味:故人を惜しむ過去帳に卯月の仏さまを植えてしまったものよ。【飯田蛇笏(いいだ だこつ)】
水虎鳴く 卯の花月の 夜明けかな
意味:河童に似た水の妖怪がなくような卯の花月の夜明けであるものよ。【長谷川かな女(はせがわ かなじょ)】
磧はしる 水筋多き 卯月かな
意味:河原を走るように流れる水の筋が多い卯月であるものよ。【桜井梅室(さくらい ばいしつ)】
水底の 草も花さく 卯月かな
意味:水底の草も花を咲かす卯月であることよ。【青木月斗(あおき げっと)】
牛蒡たく匂ひに 卯月曇かな
意味:ゴボウをたくにおいがこもると同時に卯月の雲が顔を出しているものよ。【阿部みどり女(あべ みどりじょ)】
椎茸の 山へ卯月の 水を引く
意味:シイタケが生える山へ卯月の水を引くことよ。
時候の挨拶における漢語調と和語調の使い分け
時候の挨拶においては、漢語調と和語調によって使い分けを行います。具体的には、ビジネス上かしこまった表現の場合は漢語調を用いる一方で、友人や家族間といったカジュアルな表現の場合は和語調を用います。
漢語調の場合、季語をワンフレーズほど含め、候の文字を添えます。
漢語調
・春暖の候、温かさを感じる季節となりました。
・桜端の候、桜が散り始める季節となりました。
・春光の候、春の日差しが差す季節となりました。
和語調の場合は、季語をワンフレーズほど含め、候の文字を添える必要はありません。
和語調
・春たけなわの季節となりました。
・桜花爛漫の季節を迎えました。
・春光うららかな季節を迎えました。
4月に使える時候の挨拶の例文
桜や木蓮など多種多様な花が咲き乱れる4月は、お花を楽しむ季節です。しかし、春らしい暖かい風が吹くと一気に花びらが舞い散ります。
一般的な時期に合わせて時候の挨拶を選ぶと、相手に届いた時には状況が大きく変化している可能性があります。一般的な時期にとらわれず、状況に応じて季節感あふれる時候の挨拶を選ぶことが大切です。
ここでは、4月に使える時候の挨拶をビジネス編とプライベート編に分けて紹介します。
ビジネス編
ビジネスで時候の挨拶を使用する場合、古くから用いられている漢語調の挨拶だけでは事務的な印象を与える可能性があります。ビジネスの場だからこそ、挨拶文では取引先や顧客など相手を思いやる表現を用いることが大切です。
ビジネスの相手に使える4月の時候の挨拶を確認していきましょう。
【4月上旬】
・桜花爛漫の候、貴社におかれましては、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
・花冷えの日が続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか。
・春の挨拶で春たけなわの季節となりました。貴社におかれましては、ますますご隆盛のことと存じます。
【4月中旬】
・新年度がスタートいたしました。気持ち新たに笑顔でご活躍のことと存じます。
・清和のみぎり、ますますご発展の由、お喜び申し上げます。
・春爛漫の季節を迎え、ますます気持ちが華やいできますがいかがお過ごしでしょうか。
【4月下旬】
・風が春から初夏の香りを運んでくるのを感じる季節。お健やかにお暮らしのことと存じます。
・花の盛りもいつしか過ぎて、行く春を惜しむ季節となりました。その後いかがお過ごしでしょうか。
・梅雨入り前の変わりやすいこの時季、くれぐれも体調にお体を付けてお過ごしください。
プライベート編
かしこまった相手には定型句を、親しい相手への挨拶文には少しカジュアルな表現を用いるのが一般的です。プライベートで使える4月の時候の挨拶を確認していきましょう。
【かしこまった相手】
・すっかり春めいてまいりました。
・桜花満開の好季節がやってまいりました。
・ようやく草木もえいづる季節になりました。
・春の夜のおぼろ月に風情を感じる季節となりました。
【親しい相手】
・色とりどりの花が咲きそろう季節となりました。
・葉桜が目に鮮やかな季節となりました。
・やわらかな春風を頬に感じ、心華やぐ頃になりました。
・もうすぐゴールデンウィーク、今年の予定はお決まりですか?
送付状に時候の挨拶は必要?
(c)Adobe Stock
ビジネスにおいて送付状を同封する場面として契約書などの書類を送る場合があります。そして、送付状の冒頭には、時候の挨拶を送付する月に合わせた形で記載するのがビジネスマナーとされています。
以下では、送付状の意味と4月の時候の挨拶の役割を合わせて解説します。
送付状とは
送付状とは、見積書・請求書・明細書・契約書・応募書類などのビジネス文書を送付する際に同封する文書のことを指します。
企業間においては、ビジネスマナーであるという意味合いの他に、もうひとつの役割として同封書類の明示という意味合いがあります。送付した書類の内容を記載しておくことで、送付内容の確認を促し、コミニケーション上の齟齬や重要事項の失念を防止することが可能です。
また、契約書のような企業間でやり取りするビジネス文書だけでなく、個人が企業に対して送る履歴書や応募書・嘆願書等にも送付状を同封するのがビジネスマナーとされる場合もあります。個人が企業に対して送付状を同封することは少ないかもしれませんが、よりかしこまったやり取り・コミニケーションを取る際には送付状を同封しておくと無難といえます。
個人が企業に対して送付状を添えるのは、かしこまったやり取りの際に添えられるとともに、日常でお付き合いのある方への感謝・お礼を伝えるという意味合いもあるのです。
送付状に添える時候の挨拶の例
送付状を同封することはビジネスマナーとして社会で浸透しており、さらに送付状の文頭には季節に合わせた時候の挨拶を記載するのが一般的です。
上述の通り、送付状はビジネス上において用いられる文書のため、時候の挨拶は漢語調で記載することとなります。
下記、4月における送付状に時候の挨拶を添えた例文を紹介します。
ビジネス(企業間)での例
4月度ご請求につきまして
拝 啓
春暖の候、貴社におかれましてはますますご盛況のこととお慶び申し上げます。
さて、この度貴社ご支援に際します3月度のご請求につきまして、下記の書類をご送付致します。
期日までにお振込みいただけますと幸甚です。
ご多用中誠に恐れ入りますが、ご確認・ご対応のほどよろしくお願い申し上げます。
敬 具
ビジネス(企業・個人間)での例
書類選考応募書類の件
拝 啓
仲春の候、貴社におかれましてはますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
平素は格別のご高配を賜りまして、厚くご御礼申し上げます。
この度、貴社のキャリア採用職にご応募させていただきたく、下記の応募書類をご同封致します。
ぜひご検討頂き、ご面談の機会をいただけますと幸甚です。
ご多用中誠に恐れ入りますが、ご検討のほどよろしくお願い申し上げます
敬 具
このように、送付状においては文頭に「拝啓」と記載し、その後漢語調にて挨拶文・内容の記載を行うということがわかります。
お詫びやお見舞いに時候の挨拶は必要?
お詫びの手紙では、申し訳ない気持ちを相手に伝えることが最大の目的です。時候の挨拶は記載せず、単刀直入に本題に入りましょう。お見舞いの手紙も、時候の挨拶は不要です。相手の安否と心情を気遣い、思いやりのある文面にまとめましょう。
また、お見舞いの手紙は、知らせを聞いたらできる限り早く送るのが礼儀です。しかし、送るタイミングを間違えると相手に余計な気遣いをさせたり、不幸を予期していたかのような印象を与えたりする可能性があります。お見舞いの手紙は、送るタイミングにも十分に配慮することが大切です。
4月に適した時候の挨拶を添えよう!
挨拶状を送る際は、状況に応じて季節感を表現する時候の挨拶を記載します。慣用句として用いられる挨拶の時候は多くありますが、自分なりの言葉で季節を表現すれば気持ちがより伝わりやすいです。
4月の時候の挨拶には、ビジネス(企業間、企業・個人間)関係で出す契約書やプライベート(友人・家族間)関係でのお礼状があります。そして、ビジネス関係向けの漢語調、またプライベートの親しい友人・知人向けのカジュアルな口語調があります。
今回はいつ使うのかをわかりやすくするために、上旬・中旬・下旬に分けて、また、例文や結びの文面を漢語調・口語調で分けて紹介しました。
家族や友達など親しい相手はもちろん、取引先や顧客などビジネスの場面でも使用できます。挨拶文を贈る際は、4月に適した時候の挨拶を添えましょう。
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