皮肉とは?2つの意味をご紹介
皮肉(ひにく)には、さまざまな意味があります。漢字そのままの「皮と肉」を指すことや、「うわべだけ」という意味で使われることもあります。
たとえば、谷崎潤一郎の「蓼喰ふ虫(たでくうむし)」には、「年を取るに連れて趣味が皮肉になって行くんだね」という一文がありますが、この「皮肉」は「うわべだけ」の意味で使われていると解釈できるでしょう。
【皮肉】ひにく
1.皮と肉。また、からだ。
2.うわべだけなこと。また、そのさま。皮相。
3.遠まわしに意地悪く相手を非難すること。また、そのさま。当てこすり。
4.期待していたのとは違った結果になること。また、そのさま。
(引用〈小学館 デジタル大辞泉〉より)
日常会話では、次の意味で使われることが一般的とされています。それぞれの使い方やニュアンスの違いについて、例文を通してご紹介します。
期待していたのとは違った結果になること
期待していたのとは違った結果になることや、その様子を指して「皮肉」と表現することがあります。たとえば、次のように使います。
・皮肉なことに、教育実習先で受け持ったクラスに仲たがいしている友人の妹がいた。
・転職先で別れた恋人と再会した。皮肉な巡り合わせといえるだろう。
・手塩にかけて育てた長男が家を出て行き、疎まれて育った次男が親の世話をしているそうだ。何とも皮肉な話だ。
遠まわしに意地悪く相手を非難すること
遠まわしに意地悪く相手を非難することや、その様子を指して「皮肉」と表現することもあります。たとえば、次のように使います。
・彼女は褒めているかのように見せかけて皮肉をいう。
・辛辣な皮肉ばかり言われて育ったからか、他人の好意を素直に受け取れない。
・彼は、少し口をゆがめて皮肉な口調でからかった。
皮肉と類似する意味で使われる言葉
「遠まわしに意地悪く相手を非難する」という意味の「皮肉」は、次の言葉で言い換えられることがあります。それぞれの使い方やニュアンスの違いについて解説します。
嫌み
「嫌み(いやみ)」とは、人に不快な思いを与える言動のことです。あてつけや皮肉、また、それによって不快感を与える様子を指すこともあります。「厭み」とも表記します。
・「こんなに遅く起きてくるなんて、いいご身分ですね」と妻は嫌みをいうが、昨日は夜勤だったのだから仕方がない。
・ちらちらとわたしのほうを見ながら、彼は嫌みたっぷりな口ぶりで話し出した。
・彼女はわたしを見るたびに嫌みをいう。彼女の顔を見るのも苦痛だ。
「嫌み」は、ことさらに気どっていて、いやらしい様子を指すこともあります。
・二枚目ぶって、嫌みな男だ。
・シンプルにすればいいものを……。凝りすぎて嫌みな装飾だ。
・嫌みなくらいにゴテゴテと着飾っているが、不思議と上品にまとまっている。
なお、「嫌味」や「厭味」と表記することもありますが、こちらは当て字とされています。
風刺
「風刺(ふうし)」とは、社会や人物の欠点・罪悪を遠まわしに批判することや、その批判を嘲笑的に表現することです。遠まわしに批判することは「皮肉」と同じですが、意地悪なニュアンスがある「皮肉」に対し、「風刺」には意地悪なニュアンスが含まれているとは限りません。
・あの漫画家は世相を風刺するのが上手だ。
・壁には現首相を風刺した詩が書かれていた。うまく表現できているが、公共の建物に書くのは好ましくないだろう。
・彼女の新作は風刺のきいた小説だ。モデルとなる人物が誰にでもわかるように書かれている。
当てこすり
「当てこすり(あてこすり)」とは、あてこすることや、その言葉のことです。「当て擦り」と表記することや「あてつけ」ということもあります。
・彼女が何度も妹に対して「あなたの夫は優しいわよね」というのは、僕への当てこすりに違いない。
・彼は大きな音をたててお皿を食卓に並べた。体調が悪く寝ているわたしへの当てこすりだろう。
・販売数が少ない地域ばかりを担当させられる。営業成績のよいわたしへのあてつけだろうか。
皮肉の反対の意味で使われることがある言葉
皮肉は、遠まわしで意地悪な言葉や態度です。反対の意味で使われる言葉としては、次のものが挙げられます。それぞれの使い方やニュアンスの違いについて解説します。
直球
「直球(ちょっきゅう)」とは、野球の投球で、変化をしないまっすぐな球のことです。「ストレート」とも呼ばれます。しかし、正々堂々、真正面から向かい合うことを指して、「直球」と比喩的に表現することもあります。
・彼の発言は常に直球だ。
・「彼女と付き合っているんですか?」と、彼は直球の質問をわたしに投げかけた。
・父親の言葉はいつも直球なので、ときには傷つくが、裏の意味を考える必要がなく、信用できる。
なお、直球の反対語は「変化球」です。打者の目の前で曲がったり落ちたりするボールを指す野球用語ですが、策略を用いて物事をおこなうことを指して、比喩的に使われることもあります。
・首相の答弁は変化球でね、裏がある。
・彼女の発言はいつも変化球のため、とっさには意味が理解できない。
・変化球ばかり投げていると、本当に伝えたいことが伝わらないよ。
正々堂々
「正々堂々(せいせいどうどう)」とは、態度や手段が正しく立派な様子のことです。「皮肉」のように遠まわしではなく、正面から物事や人に当たる様子を指します。
・勝ち負けではなく、正々堂々と戦うことが大切だ。
・正々堂々と勝負をして、彼に負けた。
・正々堂々と試合に勝った。
世辞
「世辞(せじ)」とは、他人に対する愛想のよい言葉や、人に気に入られるような上手な口ぶりのことです。「お」をつけて「お世辞」ともいいます。
・彼はいつもわたしを褒めてくれるが、明らかにお世辞だ。
・彼女の文章は、お世辞にも上手とはいえない。
・彼はお世辞ばかりいっているから、本心では何を思っているのかわからない。
皮肉に受け取られないように言い方を工夫しよう
皮肉は、遠まわしで意地悪な表現です。
意図的に皮肉をいわないときでも、相手は「皮肉をいわれた」と感じるかもしれません。言い方や表情などにも注意をして、皮肉だと受け取られないように工夫しましょう。
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