取締役は、企業経営の中核的な役職として、意思決定や業務執行に深く関わる存在です。しかし、「取締役」という言葉に具体的なイメージを持つ人は少ないかもしれません。そこで本記事では、「取締役」の本質を掘り下げ、実務的な役割やメリット・デメリットについて解説していきます。
取締役とは何か? 基本的な役割と重要性
まずは、取締役の基本的な定義について確認していきましょう。

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取締役の基本定義
まずは「取締役」について、辞書での定義を確認します。
とりしまり‐やく【取締役】
株式会社で、取締役会の構成員として、会社の業務執行に関する意思決定に参加する者。株主総会で選任される。
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
この定義をもとに、取締役の役割を詳しく見ていきましょう。
取締役は、株式会社に必ず設置される機関の一つです。会社法では、取締役の選任方法や業務の範囲、権限などが詳細に規定されています。基本的には、株主総会の決議によって選ばれ、会社の経営方針や重要な意思決定に関与する立場とされています。
ただし、取締役の具体的な権限や役割は、会社の体制によって異なります。
取締役の役割と会社の体制
取締役がどのような業務を担うかは、会社が「取締役会を設置しているかどうか」によって変わります。
取締役会設置会社(取締役会がある会社)
取締役は原則として意思決定を行う役割を担い、実際の業務執行は代表取締役などが行います。取締役の人数は3人以上必要で、取締役会の決議によって会社の重要な経営判断が行われます。
取締役会非設置会社(取締役会がない会社)
取締役は、会社の業務執行を直接担うことができます。また、代表取締役がいない場合は、取締役全員がそれぞれ会社を代表する立場になります。
なお、取締役の任期は、原則として選任後2年以内の事業年度の最終の定時株主総会の終結時までと定められています(会社法第332条)。
このように、取締役は会社の経営に関わる重要な意思決定を行う立場でありながら、その権限や責任は会社の組織体制によって異なるのが特徴です。
取締役になるメリットとデメリット
取締役は企業の経営に深く関わる重要な役職です。そのため、大きな影響力や報酬といった魅力がある一方で、責任やリスクも伴います。ここでは、取締役のメリットとデメリットを具体例を交えて解説していきましょう。
取締役のメリット|影響力と報酬
取締役の最大のメリットは、企業の意思決定に直接関与できる点です。新規事業の立ち上げ、資金調達、組織の方向性など、会社の未来を左右する重要な決定に携わることができます。特に、経営戦略を立案し、自らのビジョンを実現できる立場にあることは、大きなやりがいにつながるでしょう。
また、報酬面でも一般社員とは大きく異なります。取締役は役員報酬を受け取るため、一般社員よりも高額な給与体系が適用されることが多く、大企業の取締役では年間数千万円の報酬を得るケースも珍しくありません。中小企業の場合でも、企業規模や業績に応じた報酬が設定されるため、責任の大きさに見合った収入が期待できます。
さらに、社会的な信用力の向上もメリットの一つです。取締役の肩書は、ビジネスの場での信頼度を高める要因となり、取引先や金融機関との関係においても有利に働くことがあるでしょう。
取締役のデメリット|責任の重さとリスク
一方で、取締役には大きな責任とリスクが伴います。特に、法的責任の重さは見逃せません。会社法により、取締役は「善管注意義務(「善良な管理者の注意義務」の略)」を負い、会社や株主に対して適切な経営判断を行う義務があります。もし経営判断の誤りによって会社が損害を被った場合、取締役が損害賠償責任を問われることもありますよ。
さらに、プレッシャーの大きさもデメリットとして挙げられます。企業経営には常に意思決定が求められ、事業の成長戦略やコスト削減、人事管理など、あらゆる面で判断を下さなければなりません。そのため、長時間労働や精神的負担が大きくなることもあります。

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取締役の報酬はどれくらい?
取締役の報酬は、企業の規模や業績によって大きく異なります。報酬の決定には株主の意向が強く関わるため、企業の経営状況や市場の動向が影響を与えることも少なくありません。ここでは、取締役の報酬の決まり方や相場について解説します。
取締役の報酬の決まり方と特徴
取締役の報酬は株主総会の決議によって決定されます。株式会社は株主の出資によって成り立っており、企業の利益がなければ株主への配当も減少するため、役員報酬の設定には慎重な判断が求められます。
例えば、会社の業績が悪化し、利益が出なければ、株主が十分な配当を受け取ることができません。その結果、株主が株を手放し、株価の下落につながる可能性もあります。こうした事情を踏まえ、取締役の報酬は会社の利益や株主の利益とバランスを取る形で設定されるのが一般的です。