「やりがい搾取」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。仕事に誇りを持ち、情熱を持って働くことは素晴らしいことですが、その思いが企業によって都合よく利用されるケースがあります。やりがいを持って働くことと、それを搾取されることの違いはどこにあるのでしょうか?
本記事では、やりがい搾取の定義や実例を紹介し、企業と個人が取るべき対策について考えてみました。
「やりがい搾取」とは? ビジネスシーンでの実態と影響
「情熱を持って働くこと」と「不当に労働力を提供させられること」の境界線はどこにあるのでしょうか? ここでは「やりがい搾取」の定義や問題点を整理していきましょう。

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「やりがい搾取」の定義と基本的な特徴
「やりがい搾取」とは、労働者が持つ仕事への熱意や社会的意義への共感を利用し、正当な対価を支払わずに働かせる状況を指す造語です。特に、次のような特徴が見られる場合、やりがい搾取の構造が疑われます。
・「やりがいがある仕事だから多少の犠牲は仕方ない」とされる
・低賃金または無報酬にもかかわらず、高い労働負担が求められる
・「成長できる」「社会に貢献できる」という理由で待遇の改善が後回しにされる
このような状況は、特にクリエイティブ業界・福祉・教育・NPOなどの職種で発生しやすいと指摘されています。「情熱」や「自己成長」という言葉が強調されるほど、労働の適正な価値が軽視されがちになるため、注意が必要です。
「やりがい搾取 何が悪い?」に対する論点整理
「やりがい搾取」という言葉には批判的なニュアンスが含まれますが、一方で「好きな仕事なら、報酬よりも経験ややりがいが大事なのでは?」と考える人もいます。このため、「何が問題なのか?」という疑問が生じることもあるでしょう。
しかし、この問題の本質は、働く側の意思ではなく、企業や組織が意図的に低コストで労働力を確保し、適正な対価を支払わないことにあります。主な問題点として、以下のような視点が挙げられます。
・適正な賃金が支払われないことで、生活基盤が不安定になる
・「やりがい」を前提にした労働環境が常態化すると、労働者の権利意識が希薄になる
・長時間労働や過重労働が「当たり前」になり、働く人の健康が損なわれる
・業界全体の賃金水準が下がり、新たな人材確保が難しくなる
適正な労働環境を整えることは、企業だけでなく、業界全体の持続的な成長にもつながる重要な課題です。単に「好きな仕事だからいい」という視点ではなく、労働の対価が適切に支払われる仕組みがあるかどうかを、多角的に考えることが求められます。
話題になった「やりがい搾取」の実例と影響
「やりがい搾取」は、私たちの身近なところでも起こり得る問題です。ここでは、具体的な事例を通じて、社会に与えた影響を考えていきます。
ボランティアにおける「やりがい搾取」|東京2020大会のケース
オリンピックやパラリンピックの成功には、ボランティアの力が不可欠です。東京2020大会では、開催期間前後を含め約8万人の大会ボランティアが募集されました。彼らは大会運営の中心的な役割を担いましたが、一方で「大学生はボランティアに参加すべきか?」という議論や、「やりがい搾取ではないか?」といった批判の声も上がりました。
ボランティアとは本来、自発的な貢献活動ですが、「無償であたりまえ」「名誉のために働くべき」という風潮が広がると、労働の価値が軽視される危険性があります。この問題を機に、ボランティアの適正なあり方が改めて問われるようになりました。
参考:『現代用語の基礎知識』(自由国民社)
『逃げ恥』が描いた「やりがい搾取」の現実
ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)は、契約結婚という独特の設定を通じて、労働の価値や対価について深く考えさせられる作品です。特に第10話では、主人公のみくり(演:新垣結衣)が商店街の会合で「やりがい搾取」という言葉を用い、人の善意につけ込み、労働力を無償で利用しようとする行為に対して断固反対する姿勢を示しました。 このシーンは、視聴者に強い印象を与え、ブラック企業などで問題視される「やりがい搾取」への関心を高めるきっかけとなりました。
さらに、みくりは「愛情の搾取」という概念にも言及し、「好きだから」「愛があれば」という理由で無償の労働や過度な負担を強いることへの疑問を呈しました。 これらのテーマは、家事や介護、福祉などの分野での無償労働の問題を再認識させ、社会全体で「やりがい搾取」に対する理解と議論を深める契機となりましたよ。

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やりがい搾取を避けるために必要な考え方
やりがい搾取の問題を避けるためには、企業側の適正な労務管理と、働く個人の意識改革が欠かせません。ここでは、企業と個人それぞれが取るべき対策について掘り下げます。
企業が取るべき対策とは?
企業が「やりがい搾取」に陥らないためには、適正な労働環境を整備することが不可欠です。特に以下の点を意識する必要があります。
1. 適正な賃金と労働時間の確保
・「やりがい」の名のもとに、低賃金や長時間労働を強要しない
・業務の内容に見合った報酬体系を明確にし、適正な賃金を支払う
・労働時間の管理を徹底し、過剰な労働を防ぐためのシステムを導入する
2. やりがいと待遇を両立させる仕組みの構築
・「やりがい」を搾取の言い訳にしないために、成長機会と適正な対価をセットで提供する
・インセンティブ制度や評価制度を整え、努力が適切に報われる仕組みを作る
3. 働く人の声を反映できる仕組みづくり
・「やりがい」の押しつけではなく、個々の価値観に応じたキャリアパスを尊重する
・定期的な従業員満足度調査を実施し、職場環境の改善に取り組む
・パワーハラスメントや過重労働が発生しないよう、労務管理を徹底する

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個人としてできる「やりがい搾取」への対処法
個人としても、無意識のうちに「やりがい搾取」に巻き込まれないための意識改革が求められます。
1. 労働の価値を正しく認識する
・「好きな仕事だからお金は二の次」という考えに縛られすぎない
・自分のスキルや労働に正当な価値があることを理解し、適正な対価を求める意識を持つ
2. 会社の待遇や労働環境を冷静に分析する
・「やりがい」ばかりが強調され、待遇面が軽視されていないかをチェックする
・労働時間や報酬、評価制度など、待遇面が適正であるかを見極める
3. 労働契約や条件を事前に確認し、交渉する
・契約書や就業規則をしっかり確認し、不明点は事前に質問する
・給与交渉を恐れず、自分の働きに見合った報酬を求める姿勢を持つ
4. 無償労働や過剰な責任を安易に受け入れない
・「この仕事を経験すれば将来のためになる」という言葉に流されない
・本来の業務範囲を超えて負担を強いられる場合は、適切に上司や人事に相談する
5. 自分のキャリアを主体的に考え、選択肢を持つ
・「ここで頑張らなければならない」という思い込みを捨てる
・複数のキャリアパスを考え、必要に応じて転職や副業の選択肢を検討する
最後に
「やりがい搾取」を防ぐためには、企業と個人の双方が意識を変えることが不可欠です。企業は適正な報酬と労働環境を整え、従業員の成長と待遇を両立させる仕組みを作ることが求められます。一方、個人も「やりがい」の名のもとに不当な扱いを受けないよう、自分の労働の価値を正しく認識し、待遇や労働条件をしっかり見極めることが重要です。
仕事にやりがいを持つことは素晴らしいことですが、それが搾取の道具とならないよう、適切なバランスを意識することが大切ですね。
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