story3 目指すのは「世界一過酷なレース」での完走。ナオミの挑戦は続く
Profile
ナオミ(仮名) 48歳
職業/歯科医師
住まい/東京・港区で夫とふたり住まい
story1 飽きっぽ女子がホノルルマラソンに挑戦1?
story2 毎月1試合。挑戦しないことがストレスになる
マクロビもグルテンフリーもやりました
「私の故障の原因は、自分がいちばんよくわかってる。頑張りすぎて練習をやりすぎるし、大会でもリタイアしたくなくて、無理をしてしまう。もともと、体力はあるほうじゃないし、40歳すぎまで本気で運動をしてきていなかったんだから、ダメージが大きいのは当たり前ですよね。
あまり練習ができないときは、食事を改善するほうにハマりました。マクロビの料理教室に通ってみたり、いっときは一日三食マクロビ食にしてみたり。肌の調子はいいし、体臭もなくなったんだけど、夫からは不評でした。肉も食べたいって(笑)。私のほうも、ヘルニアがよくなってきて、動けるようになって、少しずつ走り出すと、もっといろいろ食べたくなって。
そこで、次に極めたのがグルテンフリーでした。これなら夫婦そろって大好きな焼肉もたくさん食べられる。やるとなったら完全に小麦粉は排除して、大好きなパンやパスタは一切食べなくなりました。自然とごはんを中心に和食で。スイーツだって手作りしていたし、お醤油も小麦不使用のを探して使って。糖質も減るから、狙ったわけではないけれど、体重は減っていきました。やっぱり私、やるとなったらストイックすぎるくらいにやってしまうんです」
ただ、その頃マラソンを再開したナオミにとっては、体重が減ったことで、同時にスタミナの減少にもつながってしまった。その結果、「グルテンフリーもほどほどに」「安心安全な、自然のものを、適量に」「おいしくいただく」ことが、いちばんいいのだということに、落ち着いた。
60歳までは走り続けたい
ヘルニアはずいぶんよくなって、フルマラソンも目指せるくらいには体力も回復した。大会出場のときに知り合ったランナーたちと、毎週木曜の夜にトラックでの練習会に参加しているが、タイムはその中でナオミがいちばん遅い。
「その練習に来ている人たちは、サブスリーランナー(フルマラソンで3時間以内の記録をもつランナー)だから、私とはレベルが違う。たぶん一生かかっても追いつけないんじゃないかな。でも、そんな仲間に入れて、先輩の話を聞けて、教えてもらって、ありがたくって。うれしくって」
自分の体力と実力以上にハードに練習をすることもなく、無理して大会に出ることもなく、少しずつ走る距離を伸ばすことを目標にしている。目指すは、水泳3.8キロ、バイク180キロ、マラソン42.195キロの「世界一過酷なレース」アイアンマンレースの完走だ。
練習を終えて家に帰ると、ナオミはいつもつけているノートにその日に走った距離と、その月のトータル練習距離を記録する。かつてのような毎月の大会参加は今はないけれど、冬はマラソン、夏はトライアスロンに出ながら、トレーニングを続けている。
「そのノートと別に、10年前のホノルルマラソンから始まってすべての大会の記録も、手帳につけてあります。毎年、手帳は買い換えるんですが、その度に10年前からもう一度すべての記録を自分の手で書き写します。年に一度のその作業は、私にとって自分を見つめ直す作業。と同時に、今年もこの作業ができることに感謝をする。夫は『エクセルに入力してあげようか』と言うけれど、それじゃだめ。自分の手で書き写すことに、意味があるんだから。写経みたいに(笑)」
儀式のようなこの「書き写し作業」と、日常のトレーニングを、60歳まで続けるのが、今のナオミの目標だ。もし辞めてしまったら、「人生を諦めるのと同じ」。タイムではなく、「いったん目標に掲げたら、絶対に途中棄権しない」ことが、ナオミの人生のレースだから。(終わり)
南 ゆかり
フリーエディター・ライター。『Domani』2/3月号ではワーママ10人にインタビュー。十人十色の生き方、ぜひ読んでください! ほかに、 Cancam.jpでは「インタビュー連載/ゆとり以上バリキャリ未満の女たち」、Oggi誌面では「お金に困らない女になる!」「この人に今、これが聞きたい!」など連載中。