「私らしい」母親像や家族の形が、夫婦別姓を後押し
ジェンダーについて関心をもち、学んでいくほど、自分が知らないうちにつくり上げていた家族の形にとらわれていたことは、この連載でも書いてきました。アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)という概念を知って、私を含む多くの人がこの点によってモヤモヤしているのではと思うようになったのです。
そうした中で、「私らしい」母親像はなんだろう、夫婦関係や家族の関係はどんな形なんだろう、と考え続けること約2年…。その解決法のひとつとして2020年秋、「夫婦別姓」を家族に提案しました。
祖母が「牧野姓を残してほしい」と言っていた意味
ずっと以前から私の根底にあったのは、生まれ育った「牧野」姓へのアイデンティティでした。私が育った実家が牧野姓の本家にあたるということもあり、姉と私は小さいころから祖母に「牧野姓を残してほしい」と言われてきました。
結婚するとき、「結婚はしたいけれど、姓を変えたくはありません」と言ったものの、それを強行する知識も勇気もなく…。いつかまた、時がきたら話し合おうと、いったん自分の気持ちを収めて入籍しました。その後も、私がこの思いを持ち続けることで家族や子どもたちに迷惑をかけるのかと、ずっと葛藤がありました。
私の実家の両親は、「結婚は家同士の結びつき」とか「(女の子を)嫁にやる」という、昔ながらの感覚を持ち合わせています。そのため、私に子どもができても、自分たちの孫というより「結婚した先のご家族の子ども」という考え方です。お祝い事も「相手のご家族のやり方を優先しなくちゃ」「私たちの老後のことは考えなくていいから」「迷惑はかけないから」と話します。それは両親の考えなので尊重すべきとわかっていても、姓を変えて戻る場所がなくなったようで寂しい気持ちがこみ上げます。
家族は個の集合体。その考えに家族も賛同してくれました
ジェンダーという言葉を知ったのは、結婚10年目になってから。育児、家事、仕事の板挟みで余裕がなくなり、「私はこんなにやってるのに、にゃんちゃん(夫のこと)は何もやってない」とけんかをしていた頃です。姓を変えたことで夫の姓に所有されているような感覚があり、それが家庭内のジェンダーギャップにつながっているのではと思うようにもなりました。そこで、弁護士さんに夫婦別姓のメリット・デメリットを聞きに行き、別姓にするなら今かもしれないと検討を始めました。(詳しくは、こちらの記事に)
それから1年半。弁護士さんに聞いたことを踏まえ、何度も自分の感情と向き合いながら、「私らしさ」を考えるようになりました。そこでたどり着いたのが、「家族は個の集合体」であるという答えでした。私、夫、子どもたちを結束しているのは苗字ではなく、信頼という絆です。一緒に住んでいても、家族の役割はフレキシブルでありたいし、父親という大黒柱の下にみんながいるのではなく、並列に存在していてもいいんです。初めは「夫婦別姓」に抵抗を見せていた夫も、この考え方には寛容でした。また、今の暮らしが大きく変わるわけではないとわかったことで理解を示してくれ、少しずつ話し合いが進みました。
家の表札を変えただけでも気持ちはスッキリ
ここでお話している「夫婦別姓」は、夫と戸籍も別々にして、それぞれの姓を使うもので、一般にいう事実婚と同じです。我が家の場合は、11年前に入籍をした(法律婚)ので、今の日本の法律では、夫と戸籍を分ける必要があります。そのため、届け上で離婚(通称「ペーパー離婚」というそうですが)を、これから手続きしていくことになります。
住まいの表札だけは2020年のうちに、夫の姓と牧野の姓とを並列するかたちに変更しました。仕事で旧姓を使っているため、荷物や郵便が牧野姓で届くこともよくあり、郵便物が迷子になったり確認の電話があったりという煩わしさがあったんです。いざ変えてみると、煩わしさがなくなっただけでなく、私の意思と家族の温かい理解が表示されているようで気持ちがスッキリ。同様に、入籍によって選択の幅を狭めていた介護やお墓の件も、自分たちがベストな方法を今後はフラットに話していけるのではと思っています。
さらにこれから、時間をかけて慎重に決めなくてはならないのが、戸籍、親権のことです。現時点での我が家の選択肢については、<後半/3/2 18時公開予定>で詳しくお話したいと思います。
取材協力/ウカイ&パートナーズ法律事務所代表 鵜飼 大
モデル
牧野紗弥
愛知県出身。小学館『Domani』を始め、数々のファッション誌で人気モデルとして抜群のセンスを発揮しながら、多方面で活躍中。キャンプやスキー、シュノーケリングなど、季節に合わせたイベントを企画し、3人の子供とアクティブに楽しむ一面も。今年は登山に挑戦する予定。自身の育児の経験や周囲の女性との交流の中で、どうしても女性の負担が大きくなってしまう状況について考えを深めつつ、家庭におけるジェンダー意識の改革のため、身を持って夫婦の在り方を模索中。