美しい人は、美しい物語を持っている。それは、甘くきらびやかという意味ではなくて、バラにトゲがあるように、さなぎが蝶になるように、美しさとは真逆の痛みや忍耐をも含んだ、真に美しい物語。
形成外科医であり抗加齢学会専門医として、アンチエイジング医療の最前線を走り続ける医師・松宮敏恵さん。今、伝えたい本当の健康、本当のアンチエイジング、そして未来…! ロングインタビュー、最終回です!(全6回)
世の中をもっと面白くしたい!
数々の経験からたどり着いて、現在、松宮さんがもっとも力を入れているのはアンチエイジング。形成もリハビリもダンスも、すべて“健康”の2文字につながっている。
「楽しそう、面白そう、と好奇心から入ったアンチエイジングの世界ですが、やってきたことは全部繋がっているような感じがします。ダンスやリハビリはカラダを鍛えることだし、形成は美容面からのアプローチになる。医療に限らず、食やコスメティックなどあらゆるジャンルとつながれることも面白いです。それぐらい“ウェルネス”という概念は大きくなってきている。
リハビリ科にいたときに、往診で寝たきりの方のお宅や老人ホームをずいぶん回りました。間近で見た介護の実態は、体力的にも精神的にも経済的にも辛いもの。看取りの現場への立ち会いも多数ありましたが、ご遺族からは悲しみ以上に『ありがとうございます、楽になりました』という言葉を聞くことが多かったです。
病気や寝たきりの状態では、患者さんの人生の選択肢も狭まってしまうし、家族にも負担がかかる。自分の体と健康を、本気で守っていかなければいけない時代だと思います。
病気って日々の積み重ねで、水面下で進んでいき、気がついたときには後戻りできないことになっている。だから、本当は治療以前に、体をケアしておくことが何より大切なんですよね。健康ベーシックをもっと上げていくこと。今はそのために、正しい情報を得て、多くの人に届けていきたいと思っています」
日々、学会や展示会に足を運び、最新の論文をチェックする。真面目で勉強熱心な彼女のブログは、一般の人が見ても、アンチエイジングについてわかりやすいと評判だ。オーガニックの食材や美容製品にも詳しく、気になったものはすぐにInstagramにアップ。ヘルシー&ビューティの伝道者として、各メディアからも注目を集めている。ウェルネス企業との商品開発やブランド立ち上げも進行中だ。
「世の中でこんなにも健康ネタばかり話されているのは、健康に不安があるからだと思うんですよね。でも、できることならば健康の話よりも、他の話をしたい。よく女性同士の話題は『20代は恋愛、30代は美容、40代は健康』なんて聞きますが、40代にもなったら仕事のこともプライベートのことも、ずっとずっと深い話ができる。なのに、不安に駆られて健康のことばかり話していたら、もったいないじゃないですか。健康であることは常識、というぐらいに意識を変えていきたいです。
私自身、健康への意識が変わって、現実もリアルに変わったし、自分を大切にすることの重要性を、嫌という程思い知りました。どん底の時は『老けたね』と言われていたし、体力もいつも限界で。でも体が元気になると、やりたいことができるようになって、人生の充足度が変わってくる。だから、体にちゃんと目を向けて、慈しんで、愛して、知っていくことを、続けたいし伝えたいです。
いちばんの目標は、父を納得させること(笑)。同じ医者だからか、すぐ『エビデンスは?』と聞かれるんですよね。これが体にいいよと言っても、父も常に情報収集をしているのでなかなか論破できない。時間はかかるかもしれませんがエビデンスをつくって、父を説得したいですね!」
医者の仕事は、二番目にやりたいこと
それでも、医者の仕事は二番目にやりたいこと、と明言する松宮さん。では、いちばんやりたいこととは何なのだろう?
「何か新しいものを作り出す、表現する。自分が作り出さなくても、これがいい!と思ったものを人に伝えていくことがしたいです。
あの『キャッツ』を見たときのように、人に感動を与える仕事をしたい、ってずっと思ってきました。医者の仕事はマイナスをゼロに近づける仕事。でも、本当はゼロからプラスに持っていくようなことがいい。世の中に、美しいものが溢れるようにできたらなって思います。美しいものって周りのことを癒しますよね。誰かが綺麗になると、周りの人も嬉しくなる。健康であることも、美しくあることに必要な、大事なエッセンスのひとつ。それを、できるだけオシャレに、面白く、みんなとシェアしていきたいです。
ずっと自由に生きていきたいと思ってきて、海外にも住みたかったけれど、医者の免許は日本でしか使えないし、息苦しい生き方を選んだなと思うこともありました。
だけど、医者だから、とか、母親だから、とか、結婚している、とかじゃなくて。とらわれることなく、世の中をもっと面白くできたらなって思います。
何よりも、自分がワクワク楽しめる人生。本当の好奇心や感動に従って生きていく人生。それを選び続けていきたいです。それこそが、健康の基本だと思うから」
体と心は繋がっている。よく聞く話だけれど、きっと本当にそうなのだろう。不健康な時代など、もう想像もつかないぐらいに“ウェルネス”な人生を送っている松宮さん。
人は変われる。そして、人は元気になれる。アラフォーでもアラサーでもアラフィフでも関係なく。ただ、その人自身を生きること。“ドラマティック・エイジング”な時代は、もう始まっている。
写真/天現寺ソラリアクリニックのスタッフたちと。一緒に写っていない女医さんたちも含め、働いている女性同士の絆が支えてくれている。
松宮敏恵
1979年生まれ。天現寺ソラリアクリニック院長。形成美容外科医、日本形成外科学会専門医、抗加齢学会専門医、リハビリテーション科学会専門医、分子栄養医学認定医。形成美容外科・リハビリテーション科・分子栄養学の3つの観点から、見た目・身体機能・栄養からのアンチエイジング医療を提唱している。美しくなる前には外面と内面(主に食事)両方からのアプローチが大事!がモットー。
公式サイト
天現寺ソラリアクリニック
撮影/萩庭桂太