ただの流行語にあらず! 「インスタ映え」は多様化している
2017新語・流行語大賞の年間大賞(ユーキャン発表)に「インスタ映え」が選ばれました。日本語版のインスタグラムが登場した2014年からアプリを使いこなしていた方は、「今さら?」という感覚を抱かれたと思います。しかし、ひと言で「インスタ映え」と言っても、その表現は実に多様化してきました。今の若者たちは、おいしそうな食べ物やきれいな景色、おしゃれなアイテムなら満足! …というわけではないのです。今回は、女子大学生のインスタからそんな若者たちの指向を探ってみたいと思います。
お店や商品の力を借りて自分のセンスや好みを表現
まずはインスタの定番である料理。最近、身近で話題になっているとして、漢方和牛・漢方豚のお店「GORI 西麻布」があがりました。多種のハーブが入った漢方飼料で育てられた、上品な甘みのお肉が特徴。夜はコース7500円〜ですから、大人でもちょっと高級だなと感じますよね。でも、「騒いで飲むだけのサークル飲み会を2回我慢すれば、学生でも行ける」「体にいいおいしいものをゆっくり食べたい」「仕送りしてもらっている親への感謝で連れて行けば、親孝行もアピールできる」と、彼女たちにとってのメリットが凝縮されていることがうかがえます。 そしてもうひとつ、日本初のりんご飴専門店「ポムダムールトーキョー」にも注目。2014年に新宿にオープンしたお店ですが、百貨店催事にも多数出店して口コミが拡散され、お店のファンは全国に広がりつつあります。ひとつ500円くらいなので高級というわけではないけれどおいしく、写真映えはもちろん、レトロな雰囲気で懐かしい気持ちになれるというのも人気の理由です。
多角的に自分をさらしているようで、実際は本音が言えていない若者たち
お店や商品の力を借りて自分のセンスや好みを表現する一方で、よりパーソナルな部分を見せる投稿も増えています。たとえば、「#ベストコスメ」の投稿。女性向けメディアではおなじみの年間ベストコスメ。それを真似て、ごく普通の子が愛用化粧品を紹介し、インフルエンサーっぽい振る舞いをするのが流行しています。また、美容情報メディアfasmeの『動物レンアイ診断』で診断された内容をシェアする女子も続出。本来自分だけで完結するはずの恋愛タイプを公表するのは、「ふだんインスタでは130%気取っているけど、自分はこういう恋愛観なんだよと見せちゃうことで素が出せる」「オモテの自分とウラの自分を知ってもらったほうが生きやすい」からなのだとか。 昨年11月ごろには「Sarahah(サラハ)」というアプリを使い、インスタのストーリー(通常のフィードとは別枠で写真や動画をシェアでき、24時間で自動で消える機能)上で自分宛に質問を募って回答する…というトレンドも生まれました。匿名でメッセージを受け取れるアプリで、元々は上司が部下の正直な意見を聞くためにサウジアラビアで開発されたもの。欧米の若者の間で流行し、数か月遅れで日本へ。その魅力について、大学生は「ありのままを聞かれるってステータス。知りたいと思ってくれる人がいるのはタレントみたいで、自分の価値が上がった気がする」「人から質問されると、自分のことを考えるきっかけになる」と語ります。 インスタで多角的に自分をさらしているようで、実際は本音が言えていない若者が多いという現状。いい部分だけ切りとって見せているのに、ありのままを知ってもらいたいという相反する欲求も感じられます。「インスタ映え」の追求を〝自己承認欲求の表れ〞と片づけてしまうのは簡単ですが、その動向から流行だけではなく、複雑化する若者の心情まで見えてくるような気がします。
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マーケティングアナリスト
原田曜平
1977年生まれ。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。学生や20代の社会人と共に、若者の消費行動について調査・分析を行う。マーケッターの立場から現代を読み解き、テレビ番組『ZIP!』(日本テレビ)、『新・情報7DAYSニュースキャスター』(TBS)などに出演。
Domani2018年3月号 新Domaniジャーナル「後輩世代のトリセツ」 より
本誌取材時スタッフ:構成/佐藤久美子