もちろん遺伝子はあくまでも設計図であり、放っておいたままで筋肉が大きくなることはありません。
人間の下半身の筋肉は、生まれてからハイハイをし、つかまり立ちをし、ヨチヨチ歩きをすることで、少しずつ発達して太く大きくなり、さらに成長して走ったり、跳んだりといった刺激を受けることで、どんどん強くなっていくのです。この筋肉量の増加は通常10代まで続きます。
10代までに筋肉が急速に発達するのは、遺伝的プログラムに加え、運動刺激を受ける機会が多いからです。学生時代は体育系の部活動を行っていなくとも体育の授業があったり、さまざまな行事があったりと、活動が活発です。
ですが、就職して仕事を始めるようになると、体を動かす機会は激減し、徐々に筋肉は衰えていきます。最も顕著なのが下半身の筋肉です。下半身が体を支え、動かしているのですから、運動不足の影響を最も強く受けるのです。
この下半身の筋肉の衰えこそ、体力の衰え、もっと言えば老化の正体といってよいでしょう。
宇宙空間では下半身の筋トレが不可欠
最近、日本の実業家が宇宙に滞在して話題になりましたが、重力のない宇宙空間で生活する宇宙飛行士が、出発前や宇宙滞在中に重点的に鍛えるのは、下半身の筋肉です。
人工的に重力と同じ条件を作って下半身に負荷をかけ、スクワットやランニングなどを行います。これを怠ると地球に帰還した後、歩くどころか立つこともできず、正常な日常生活が送れなくなってしまうからです。
宇宙空間では、しっかり筋トレをしても1年間で筋肉が30%以上も減少するといわれています。重力の影響を受けている地球上の生活ではそれほど急激ではありませんが、一般的に年間0.5%程度は筋肉量が減少し、50代では20歳の筋肉量の8割程度まで落ち込むといわれています。この際に減少する筋肉の大半は、やはり下半身の筋肉です。
しかも、これは平均的な生活を送っていた場合です。今のように自粛生活、リモート生活によって立ったり歩いたりする時間が減り、いすに座る生活が長くなれば、下半身の筋肉はもっと急速に衰えていきます。
最近、立っているのがつらくなった、少し歩いただけで脚が疲れる、ちょっと階段を駆け上がっただけで息が切れる、といった経験をするようになっていませんか。その原因は下半身の筋肉の衰えである可能性が大ですから、それを解決するクスリは下半身の筋トレしかありません。
下半身の筋肉を鍛えると、よいことがたくさんあります。
1つは、これまでお話ししたように、下半身の筋肉は体を支えて移動する原動力ですから、鍛えることで体力が回復し、疲れにくくなることです。もう1つは太りにくくなる、あるいは体脂肪を減らすことにつながることです。
「筋トレで筋肉を太くしたら、体重が増えてしまうのでは?」と感じる方もいるかもしれませんが、それは大きな間違いです。むしろ下半身を鍛えないと、中年太りに陥るリスクは高まります。