「にべもない」とは愛想もそっけもないこと
「にべもない」とは、愛想もそっけもないことを意味する慣用句です。あたたかみに欠ける、あるいはビジネスライクと表現することもできるでしょう。自分の言動や態度について「にべもない」と指摘されたら、対応を改めるべきだといえます。
辞書には以下のように意味が記載されています。
【鰾膠も無い:にべもない】 愛想がない。取り付く島もない。「―・い態度」「―・く断られる」
(引用〈小学館 デジタル大辞泉〉より)
「にべもない」の意味は、前後の文脈からなんとなく汲み取れたとしても、そもそも「にべ」とは何かということまで知っている人は少ないのではないでしょうか。ここからは「にべ」の正体と、「にべもない」の由来を解説していきます。
「にべ」はいしもちと呼ばれる魚
「にべ」は魚の名前です。関東では「いしもち」として知られるスズキ目ニベ科の魚であり、「にべ」は近畿圏での呼称です。「にべ」の大きく発達した浮き袋を煮詰めると「膠(にかわ)」という接着剤になるため、漢字では膠にちなんで「膠鰾(にべ)」と書きます。
「にべ」という魚から作られる接着剤が言葉の由来
「にべ」から作られる膠は粘着力が強いことが特徴であるため、そこから転じて人間関係を保つための執着や親密性を「にべ」というようになりました。
「にべもない」というのは、つまり人間関係の維持に必要な親密性もないということで、愛想や思いやりがないという意味で使われるようになったといわれています。「にべもない」と同じ意味で「にべない」という言葉もあります。
ちなみに、執着などがあることを「にべがある」とはいいません。否定形でしか使わない言葉であるため、誤用しないように注意しましょう。
「にべもしゃしゃりもない」はさらに強調した言葉
「にべもない」をさらに強調した、「にべもしゃしゃりもない」という言葉もあります。にべもないに「しゃしゃり」が加わっています。
「しゃしゃり」とは、「しゃしゃり出る」というような厚かましくでしゃばる、という意味ではなく、さらりとした様子をあらわす言葉です。そのため「にべもしゃしゃりもない」は「人に対する気遣いや親密な感じがなく、さっぱりとしている」ことをあらわし、つまり愛想もそっけもない、かなり無愛想な様子をたとえた言葉といえるでしょう。
【例文付き】「にべもない」の使い方
「にべもない」の意味や由来を確認したところで、実際の使い方を確認していきましょう。「◯◯で、にべもない」というように使うほか、「にべもなく◯◯」と副詞的にも使います。
【例文】
・こちらがどんなに心を開こうとしても、【にべもない】対応が続くため気持ちが折れそうだ
・彼女に思い切ってアプローチしてみたものの、笑顔一つもなく、【にべもない】
・思い切って提案したアイディアだったが、【にべもなく】却下された
・相手が好みそうなプランを考えて遊びに誘ってみたものの、【にべもなく】断られた
「むべなるかな」「よるべない」と混同しない
「にべもない」と間違えやすい言葉として、「むべなるかな」と「よるべない」の2つがあります。「むべなるかな」とは、いかにももっともなことであるという意味であり、「彼女がそう主張するのはむべなるかな」などと用います。
「にべ」と「むべ」の響きが似ているため、「むべもない」あるいは「にべなるかな」などと混同しないように注意しましょう。
また、「よるべない」とは身を寄せるあてがないことを意味する言葉です。「よるべない」も、「にべもない」と間違えやすいため、それぞれの意味をしっかりと確認しましょう。
「にべもない」の類語3つ
愛想も素っ気もないという意味の「にべもない」には、同じようなニュアンスの類語がいくつかあります。
ここでは、「けんもほろろ」「取り付く島もない」「木で鼻を括る」の3つの類語の意味や使い方を解説します。「にべもない」の意味とあわせて覚えることで、さらに語彙が豊かになるでしょう。それでは、一つずつ確認していきます。
けんもほろろ
「けんもほろろ」は、人からの頼み事や相談を冷淡に拒絶する様子をあらわす言葉です。「けん」も「ほろろ」も、無愛想に聞こえるキジの鳴き声が由来とされます。
「にべもない」よりも強く拒絶するニュアンスの言葉といえるでしょう。「けんもほろろな態度」「けんもほろろに断る」というように使います。「剣もほろろ」や「けんもほろほろ」などと間違えやすいため、注意しましょう。