「無用の長物」とは役に立たないもの
「無用の長物」は「むようのちょうぶつ」と読みます。あっても役に立たないもので、あればかえって邪魔になるものという意味です。仏教用語が由来となっています。
【無用の長物】
あっても役に立つどころか、かえってじゃまになるもの。「かつての最新工場も今では無用の長物となった」
(引用〈小学舘 デジタル大辞泉〉より)
「無用の長物」は役に立たないという意味のほかに、芸術上の概念を表す場合もあります。
ここでは、「無用の長物」の言葉の由来や、芸術上の概念についてご紹介しましょう。
仏教用語が由来
「無用の長物」は仏教用語が由来の言葉です。仏教では昔、出家するときの荷物の数が決められていました。仏教の宗派により6個、もしくは18個のみとされていたのです。それぞれを「六物(ろくもつ)」「十八物(じゅうはちもつ)」と呼び、それ以外の物は「長物」と呼ばれていました。
「長物」の長は超えるという意味で、所持するべきものを超えているという意味です。仏教では必要ないものという意味で、現代では無駄なもの、あっても邪魔になるものというニュアンスになりました。
芸術上の概念になる場合も
「無用の長物」は芸術上の概念としても使われます。「超芸術トマソン」と呼ばれるものです。登った先に何もない「純粋階段」や、塞がれていて用をなさない「無用門」など、不動産と一体化しながら「無用の長物」となっている建築物の一部のことを表します。
トマソンの語源は元プロ野球選手である読売ジャイアンツのゲーリー・トマソンで、四番打者でありながらチームに貢献できなかったことを例にした言葉です。
「超芸術トマソン」は芸術目的で作られた建築物ではありませんが、芸術を超えた芸術であるとして「超芸術」と呼ばれています。
「無用の長物」の例文
「無用の長物」の例文をいくつか紹介します。文章の中で、「無用の長物」の意味を確認しておきましょう。
【例文】
・サイズの合わない服を買ってしまい、一度も着ることなく【無用の長物】となった
・長年【無用の長物】となっていたスペースを有効活用することができた
・大掃除を兼ねて、【無用の長物】と思われるものはすべて捨ててしまおう
・どんなに優れているものの、使い方がわからなければ【無用の長物】だ
「無用の長物」の類語
「無用の長物」には多くの類語があります。役に立たないという意味の類語として、「毒にも薬にもならない」「うどの大木」といった言葉があります。また、必要ないものという意味では「月夜に提灯」と似ており、余分なもの、無駄なものという意味の「蛇足」も類語といえるでしょう。
それぞれの類語の意味を詳しくご紹介します。
【類語1】毒にも薬にもならない(どくにもくすりにもならない)
「毒にも薬にもならない」とは、害はないが役にも立たないという意味です。役に立たないという意味で「無用の長物」と共通しますが、「無用の長物」のような「かえって邪魔になる」というニュアンスはありません。邪魔ではないが、役にも立たないものを表現するときに使います。
例文を紹介しましょう。
【例文】
・講義は【毒にも薬にもならない】内容で、聞いている者は皆飽きてしまっている
・今回の求人では即戦力を求めていたが、応募してきた者は【毒にも薬にもならない】者ばかりだった
【類語2】うどの大木(うどのたいぼく)
「うどの大木」は、体ばかり大きくて、役に立たない人を指す言葉です。うどは山菜の一種で春先の若いうちに収穫すると食用になります。しかし、収穫の時期を逃して成長すると食用にできず、柔らかいため木材としての利用もできないことを例えています。「無用の長物」は物に対して使われる言葉ですが、「うどの大木」は人に対してだけ使います。
例文を見てみましょう。
【例文】
・以前は【うどの大木】と揶揄されたが、今ではチームの大黒柱になっている
・見た目は立派な体格をしているのに運動神経はさっぱりで、【うどの大木】のようだ
【類語3】月夜に提灯(つきよにちょうちん)
「月夜に提灯」とは、不必要なものという意味です。月夜は夜道も明るいため、提灯が不要であることを例えにしています。
提灯自体は役に立つもので、「無用の長物」のような「役に立たないもの」という意味合いはありません。不要であり、行き過ぎて贅沢であるというニュアンスがあります。
例文は以下の通りです。
・一人暮らしなのに大容量の冷蔵庫を買うなんて、【月夜に提灯】だ
・ピアノを習い始めたばかりで高額なグランドピアノを購入するのは【月夜に提灯】だね
【類語4】蛇足(だそく)
「蛇足」とは、なくてもよいものという意味です。中国の故事が由来で、蛇の絵を早く描く競争をしたときに、一番早く最初に描き上げた者がつい足まで描いてしまい、失格になったという逸話が語源になっています。
「蛇足」は「蛇足ながら」という言い回しで使われることも多く、メールなどで一言付け加える場合に謙譲のニュアンスで使われます。
例文を紹介しましょう。
【例文】
・講演は途中まではいい内容だったが、途中から個人的な話を入れてきたのは【蛇足】だった
・【蛇足ながら】、この件は穏便に済ませていただけたらと思う
「無用の長物」の対義語
「無用の長物」には対義語もあります。役に立つという意味合いの言葉で、「枯れ木も山の賑わい」や「無用の用」といった言葉があげられます。どちらも役に立たないものはないというニュアンスがありますが、特に「無用の用」はどんなものでも何かの役に立つという前向きな言葉です。
ここでは、無用の長物の対義語についてご紹介します。
【対義語1】枯れ木も山の賑わい(かれきもやまのにぎわい)
「枯れ木も山の賑わい」は、つまらないものでも、ないよりはあったほうがよいという意味です。木が生えていない山は殺風景であり、たとえ枯れている木でも趣を添えることができるため、ないよりもあった方がよいことを例えにしています。
「枯れ木」はつまらないものの例えであり、使う場面には注意が必要です。例えばパーティーなどに招待する側が招待をした相手に使うのは失礼な表現になります。招待された側が「枯れ木も山のにぎわいと思い、参加しました」というのが正しい使い方です。
【対義語2】無用の用(むようのよう)
「無用の用」は、役立たないとされているものが、別の意味で大事な役割を果たしているという意味です。
中国の思想家である老子の思想に基づいた言葉で、無駄だと思っているものでも別のところで役立つ場合があり、世の中には役に立たないものがないことを表しています。無用なものはないという意味で、「無用の長物」とは対極にある言葉です。
まとめ
「無用の長物」は役に立たないものという意味です。仏教用語が由来の言葉で、もとは必要でないものという意味合いでしたが、今日では「あればかえって邪魔になる」というニュアンスも含むようになりました。
毒にも薬にもならないなど、「無用の長物」に似た言葉はたくさんあります。合わせて覚えておけば、場面に応じて使い分けできるでしょう。
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