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LIFESTYLE スキルアップ

2022.11.18

「部下が離れる上司」がやっている残念な言葉遣い|悪い情報を部下へ伝えるときどう語りかける?

 

リーダーに一番必要な力は、言葉を使って人を動かす力です。たとえカリスマ性や自信がなくても、「リーダーの話し方」を習得することはできます。古今東西の優れたリーダーたちが実践している「秘伝のテクニック」とは?

NHKでキャスターとして活躍しながら大学院でスピーチ研究に取り組み、博士号を取得後、経営者や政治家などトップリーダーのトレーニングを行っている矢野香さんの新著『最強リーダーの「話す力」』より一部抜粋し再構成のうえ、リーダーに必要な言葉づかい3ポイントをお届けします。

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主語は自分で、はっきり自らがしている行為として語る

リーダーの言葉づかい:能動態で語る

「基準を示す」とは、リーダーが何を考え、どのような判断をしているかを、聞き手にはっきりとわからせるための話し方です。

その第一歩は、「受動態」をやめること。つまり受け身をやめ、すべて「能動態」、すなわち、はっきり自らがしている行為として語ることです。主語は「自分」です。

例を挙げましょう。

 

△ 「こうした事態を打開するため、来月、全体会議が行われることになりました」

◯ 「こうした事態を打開するため、来月、(私は)全体会議を行います」

 

聞き手の立場では、どちらがより「この事態は打開しなければならないのだ」という危機を感じて、どちらがより「事態が打開できそうだ」とリーダーに期待するでしょうか。

受動態=受け身を多用すると、責任の所在をわざと曖昧にすることができます。全員で意識を共有するためには受動態は便利です。謙虚に聞こえ、マナーに配慮しているようにも感じられます。

ところが、リーダーが受け身で語ってしまうと「自分は責任をとりたくない」という逃げ腰の印象を与えます。この例でいうと、危機を感じ、会議を行うのはリーダーの意志です。主語を自分にして、能動態で話すことが基本です。

受け身で伝えると傍観しているように聞こえる

さらに例を挙げてみましょう。

 

△ 「コロナ禍に戦乱、そしてインフレの進行に世界中が苦しめられています……。しかし、こうしたときこそ、イノベーションは起こりやすいものです」

△ 「不確実な時代だからこそ、確実に信頼いただける企業として、一歩一歩着実に歩んでいきたい……」

 

これらは穏当なようですが、受け身で伝えているためにすべてを傍観しているような、他人事として話しているような印象を与えかねません。聞く側も同様で、まるでテレビで評論家の話を聞き流しているような感覚になり、当事者意識が生まれません。

 

◯ 「コロナ禍に戦乱、そしてインフレの進行で、私たちは苦しんでいます。しかし、こうしたときこそ、あなたの力でイノベーションを起こすチャンスともいえます!」

◯ 「不確実な時代だからこそ、私たちは確実な信頼を獲得する企業であり続ける。そのためにあなたが今できることを一歩一歩着実に進めていきましょう!」

 

「私たち」「あなた」という主語を入れて、受動態を能動態に変えてみました。話し手から他人事が抜け、聞いている側にとっても自分事となり、「では、自分は何をしなければならないのか?」を考え始めます。

「〜させていただきます」を乱用はNG!

能動的なビジネスマンたちのイラスト

リーダーが話す以上、話の内容を受け入れるべきか、行動するべきかを相手にゆだねてはいけません。話の内容を「受け入れさせ」て、「行動をおこさせる」。能動態にすることによってそれが可能になります。価値判断の主体は話し手であるリーダー自身です。もちろん同時に、能動態で伝えるため、発言内容には責任も伴います。

これは、経営者など肩書きとしてのリーダーに限った話ではありません。会議や打ち合わせの進行担当、現場の仕切り役を任された人など、その場において実質的にリーダーの役割を担う方は、積極的に能動態で話すべきです。上席者や先輩を過剰に気づかい、受動態ばかり使っていると、やがて会議や現場そのものが現在位置を見失い、混乱してきます。

受動態の多用とよく似たものに、過剰に丁寧な言い回しの多用があります。もしあなたに「〜させていただきます」を乱用する話し癖があるのであれば、すぐに修正するべきです。

 

× 「一言、ご挨拶を申し上げさせていただきます」

◯ 「一言、ご挨拶を申し上げます」

 

「〜させていただきます」は敬語として使う方が多いのですが、そもそも許可を要していない場面では使う必要はありません。「ご挨拶を申し上げます」で、何ら失礼はありません。すっきりと言い切ることで、自信を持って語り出そうとしている印象が強まります。

「主語は必ず自分。能動態で、シンプルに言い切る」

主語は必ず自分。能動態で、シンプルに言い切る。基準を示すうえでもこの原則に従って語ります。

 

× 「今回つくられた人事制度では、何も挑戦しない人は高く評価されないような制度とさせていただいています」

◯ 「今回つくった人事制度では、何も挑戦しない人は、認めないような制度にしました」

 

リーダーの言葉づかい:言い切る

もって回った表現を避け、ズバリ言い切るのがリーダーです。

これをもう少し掘り下げてみましょう。正直にいうと、何が正解かわからないような曖昧な場面でも、さも確信しているかのように、堂々と言いきることができるかどうか。そこで腹をくくれるのがリーダーです。つまり、「素の自分」では言い切りにくいと思えることでも、「セルフ・パペット」として言い切るわけです。

大衆はリーダーに「丁寧なうそ」を期待している

部下とグータッチする上司

古代ローマで最も偉大な雄弁家であり、人類史上最も優れた弁論家の一人とされるマルクス・トゥッリウス・キケロ。その弟が兄のために記した一般大衆を味方につけるための話し方の秘訣が、「率直な真実よりも、丁寧なうそ」を語ることでした。「人々は現実よりも、うわべの体裁に心を動かされる」として、大衆はリーダーに「丁寧なうそ」を期待していると説いたのです。

例えば、「難しそうだ」「とてもできない」と思っても、正直に否定するのではなく、「興味深い。挑戦してみよう!」と「丁寧なうそ」を言い切る。これこそがリーダーの話し方の要諦です。それによってキケロのいうように周囲を味方につけることができ、「頼もしいリーダー」という印象を与えることもできます。

 

× 「この案は難しそうだよ。とてもできそうにないと思えるけどなぁ……」

◯ 「この案は面白いし、興味深いね。挑戦してみよう!」

 

言い切るためにまずやるべきことは、「〜と思います」の根絶です。無意識で話しているとつい「〜と思います」という言い回しを使いがちです。ここまで悪しき話し癖とお伝えしてきた受け身形と「思う」を合わせた「〜と思われます」となると、絶対的にアウト。

さらに、「ただ今から会議を始めさせていただきたいと思います」という典型的な言い回しも断固やめるべきです。このような言い方は不要な表現を含むばかりか、必要もない許可を請う、仕切り切れていない、弱々しい姿を無意識にさらしてしまっています。

「思わないでよいところ」は言い切りましょう。「ただ今から会議を始めさせていただきます」で十分です。さらには、「させていただく」許可を他人からもらう必要がないところは言い切りましょう。「ただ今から会議を始めます」で十分です。リーダーは、許可をもらう立場ではなく、許可を与える側の存在です。

「〜と思います」はこう言い換えよう

もっとも、「〜と思います」が口癖になっているリーダーも少なくないということは、それだけ便利な言い回しだという証左でもあります。どうしても言い切りづらい場合は、次のように言い換えてください。

 

× 「来期は10%の増益を達成できると思います/思われます」

◯ 「来期は10%の増益を達成できると考えています」

◯ 「来期は10%の増益を達成できる見込みです/予定です」

 

リーダーの言葉づかい:定義する

次に「定義する」です。ここでいう「定義」とは、辞書的な意味ではなく、ある状況にリーダーが「意味づけ」する行為と考えてください。例として「コロナ禍」を使って説明しましょう。

辞書的な意味での「定義」

コロナショック……「新型コロナウイルスの感染拡大による経済危機」。「フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションが制限され」た結果、「世界的に人・物の動きや経済活動が制限される中で」陥った世界経済の「歴史的な低迷」。

この辞書的な定義に対し、リーダーが自分の基準に照らし合わせ、独自に定義をし直すのです。例えば、

リーダーが意味づけした「定義」例

コロナ禍……全世界的な大変化、大変革。古いやり方、考え方が急速に通じなくなり、新しい方式に転換しなければ生き残れない時代。ピンチでありチャンスでもある。

このように、リーダーには世間一般の共通認識とは別に、基準に基づいた独自の意味づけをして話す力が求められます。

10%減益になってしまった時あなたは何と語りかける?

ビジネスへの応用を考えてみましょう。リーダーとして、今期の業績が10%もの減益になってしまったことを語る際、

 

× 「今期は10%の減益となりました。来期は必ず取り返しましょう」

 

これでは数値を示しただけで、リーダーの基準が示されていないため、来期への改善を訴えられても説教にしか聞こえません。そこで減益についてどのような意味づけをするか、定義します。

 

◯ 「今期は10%の減益となりました。非常に残念です。このままでは、より悪化しかねない局面に来ています。しかし、常々申し上げているように、私はピンチはチャンスだと考えています。背水の陣ともいえる今だからこそ、思い切ってこれまでの常識を変えることができます。この減益は、私たちにとっては古いやり方を再考するチャンスでもあります」

 

今期は業績が悪かった、という事実を、リーダーである自分はどう定義しているのか。

その定義はどういう基準が根拠となっているのか。明確に基準を示すことで、従う人たちの不安を払拭し、安心させることができるのです。

 

『最強リーダーの「話す力」』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

国立大学法人長崎大学准教授・スピーチコンサルタント

矢野 香(やの かおり)

専門は、心理学、スピーチ・コミュニケーション論。NHKでのキャスター歴17年。おもにニュース報道番組を担当し、番組視聴率20%超えを記録。NHK在局中から心理学の見地からスピーチ研究に取り組み博士号取得。政治家の選挙演説対策、大手企業の株主総会対策、役員候補者研修などエグゼクティブからビジネスパーソン、学生まで幅広い層に指導を続けている。話し方・表情・動作のトータルな指導に定評があり、過去の受講者にはプロの話し手も多数。

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東洋経済オンライン

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