「自惚れ」の正しい意味とは
「自惚れ」は「自惚れが強い」、「自惚れる」のように用いられる言葉です。日常生活でよく耳にする表現ですが、意味についての説明は難しいことも多いのではないでしょうか。
まずは「自惚れ」の正しい意味や「自己肯定感」との違い、言葉の使い方についてご紹介します。
「自惚れ」は自分自身に惚れていること
「自惚れ」とは、自分自身に惚れていることやその気持ちを表す言葉です。「己惚れ」と表記し、「おのぼれ」と読むこともあります。
そもそも「惚れる」という言葉は、誰かに心惹かれ夢中になったり、心奪われたりする様子を表す言葉です。
惚れる対象の多くが人や物であるのに対し、「自惚れ」は自分自身に惚れ込んでいるという大きな特徴があります。自分に対し、心酔している状態ともいえるでしょう。
うぬ‐ぼれ【▽自×惚れ/▽己×惚れ】
うぬぼれること。また、その気持ち。おのぼれ。「―が強い」
(引用〈小学館 デジタル大辞泉〉より)
「自惚れ」と「自己肯定感」との違い
「自惚れ」と近しいニュアンスの言葉に、「自己肯定感」があります。どちらも自分を認め、肯定する表現です。
ただし、両者の具体的な意味はまったく異なります。そのため使用時は注意が必要です。
そもそも「自己肯定感」は、自分の存在をかけがえのないものとして、ありのまま受け止めることを意味します。「自惚れ」のように自分の魅力に心奪われているのではなく、至らない点も受け入れ肯定していることが特徴です。
自己肯定感は、自分の努力が他者に認められたり、ネガティブな一面も自らを構成する大切な要素として受け入れたりすることで育まれるといわれます。
自己肯定感が高いほど日々の感情は安定し、物事に対して前向きに取り組む意欲も生まれてくるでしょう。
「自惚れ」の使い方
「自己肯定感」とは異なる「自惚れ」は、会話のなかで以下のように用いられます。自分自身に心酔しているという意味が強いため、他者に向けて使用する際は失礼のないよう気を付けましょう。
・今回の成功に自惚れず、今後も精進を重ねていきたい。
・自分が一番の実力者だと言い切れる自惚れの強さに驚いた。
・自分ならできるというその気持ちは自惚れではないですか?
「自惚れ」の類語や言い換え表現
「自惚れ」には、以下のような類語や言い換え表現があります。いずれも自分の能力に価値があると思うことや、その様子を表す言葉です。ここからは、それぞれの言葉の意味や使用例について確認していきましょう。
気取り
「気取り」とは、体裁をつくろったり、もったいぶったりすることです。また、素直で遠慮がない様子は「気取りのない性格」と表現されます。
「芸術家気取り」のように、何かになったつもりでそれらしく振る舞うことも意味します。体裁ぶっている人を「気取り屋」と呼ぶなど、使い方によっては良い意味にも悪い意味にも捉えられる表現です。
き‐どり【気取り】
1 体裁をつくろうこと。もったいぶること。「気取りのない性格」
2 (現代語では多く接尾語的に用いる)そのものになったつもりで、それらしく振る舞うこと。「芸術家気取り」「夫婦気取り」
「八人のそこつ者もいっぱし役者の―にて」〈滑・八笑人・四〉
3 気だて。性格。
「立居振舞ひ髪容かみかたち、第一―を大切とし」〈風来六部集・里のをだ巻評〉
4 趣向。工夫。
「屏風びゃうぶの―はどうでごぜんす」〈洒・軽井茶話〉
5 ようす。感じ。
「まだどうか夢の覚めぬやうなお―ぢゃ」〈黄・見徳一炊夢〉
(引用〈小学館 デジタル大辞泉〉より)
・いつまでも学生気取りでは困ります。
・彼はいつも誠実で、気取りやいい加減なところがない。
・彼女の気取りのない性格は多くの人から支持されている。
思い上がり
「思い上がり」は、「自惚れ」と非常に近い関係にある言葉です。以下のように、辞書の解説でも「自惚れ」について触れられています。
【思い上(が)り】おもい-あがり
思い上がること。うぬぼれ「ーもはなはだしい」
(引用〈小学館 デジタル大辞泉〉より)
自分の能力が実際以上に優れていると思い込む点において、「思い上がり」と「自惚れ」は共通しています。日常生活でも、「自惚れ」と同じようなニュアンスで用いるケースが多いでしょう。
・すべてを解決できるなんて、思い上がりもはなはだしい。
・彼の思い上がった態度には驚いたよ。
・思い上がりもいい加減にしてもらいたい。
虚栄心
「虚栄」とは、自分を実質以上によく見せようとすることです。「虚栄心」は、見栄を張りたがるその心を指しています。
「自惚れ」との大きな違いは、他者の視線を気にしている点にあります。また、内面ではなく、外見をよく見せようとするケースが多いことも特徴です。
きょえい‐しん【虚栄心】
自分を実質以上に見せようと、みえを張りたがる心。「虚栄心が強い」
(引用〈小学館 デジタル大辞泉〉より)
・彼の傲慢な振る舞いは虚栄心からくるものだろう。
・虚栄心を満たすことばかりに必死になってどうするのだ。
僭称
「僭称(せんしょう)」は、身分を越えた称号を勝手に名乗ることを意味します。また、名乗った称号そのものを意味する言葉です。
法律では真の相続人ではないのに、その地位を得ている人のことを「僭称相続人」と表します。日常生活での使用頻度は少ないものの、以下のような使用例があることも覚えておきましょう。
せん‐しょう【×僭称】
[名](スル)身分を越えた称号を勝手に名乗ること。また、その称号。「帝王を僭称する」
(引用〈小学館 デジタル大辞泉〉より)
・戦国時代には自らを国司と僭称する武将も多かった。
・学位がないにもかかわらず博士号を僭称することはできない。
ナルシシズム
「ナルシシズム」には、自己愛や自己陶酔といった意味合いがあります。自分自身に心酔するという点では、「自惚れ」と近い意味をもつ言葉です。また、自己陶酔型の自惚れ屋は「ナルシシスト」と呼ばれます。
「ナルシシズム」も「ナルシシスト」も、ギリシャ神話に登場する美青年「ナルキッソス」の名を由来とする言葉です。ナルキッソスは泉に映る自分の姿に見惚れ、満たされぬ思いにやつれ命を落とし、水仙の花になったと言い伝えられています。
ナルシシズム(narcissism)
1 精神分析の用語。自分自身を性愛の対象とすること。自己愛。ギリシャ神話のナルキッソスに由来。
2 自己陶酔。
(引用〈小学館 デジタル大辞泉〉より)
・彼はナルシシズムが強すぎて周囲の評価が目に入らないのだろう。
・誰もが多少なりともナルシシズムな感情を抱えているのではないか。
自分に自信があるときほど「自惚れ」には気を付けよう
「自惚れ」とは、自分自身に惚れ込み心酔するさまを表す言葉です。「自己肯定感」とは、ありのままの自分を受け入れているかという点に大きな違いがあります。
類語に「思い上がり」や「気取り」が挙げられるように、「自惚れ」は使い方に気を付けたい言葉です。伝え方によっては、他者にネガティブなイメージを与えてしまいます。
また、自分に自信があるときほど「自惚れ」には注意が必要です。必要以上に自分を過信していないか振り返りながら、言葉を正しく使い他者とコミュニケーションを図っていきましょう。
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