ESとは〝従業員満足度〟のこと
ESとは「Employee Satisfaction」の略で、「従業員満足度」を意味します。従業員が自社にどのくらい満足しているかを表す指標で、職場環境や人間関係、福利厚生、給与など、総合的な内容をもとに判断されます。従業員満足度の具体的な数値は、ES調査によって計測が可能です。
ここでは、企業がESを重視する背景や、CS(顧客満足度)との関係についてご紹介します。
■企業が重視する背景
近年、ESを重視する企業が増えており、その背景にあるのは少子高齢化による労働力人口の減少です。人材不足が深刻化するなかで優秀な人材を確保するためには、働きやすい職場環境を確保しなければなりません。
ESが下がると従業員のモチベーションは下がり、離職につながります。定着率を高めるためには、ESを高めることが重要です。
■CSとの関係
ESはCS(顧客満足度)と関係します。
企業が業績を上げるためにはCSを高めなければなりませんが、CS向上のためには、ESを高めることが欠かせません。ESによって社員のモチベーションが高まると業務の質がよくなり、CSにつながるからです。そのため、「ESなくしてCSなし」というスローガンもあります。
つまり業績を高めて会社が成長するには、ESを高めることが必要なのです。
ESを高める3つのメリット
ESを高めることは、企業にいくつものメリットをもたらします。なかでも大きいのは従業員のモチベーションアップです。モチベーションが上がった従業員は意欲的に働き、生産性の向上につながるでしょう。生産性が高まることで、業績も上がります。
働きやすくESの高い職場は離職が減り、定着率も高まるでしょう。ここでは、ESを高めることで得られるメリットとして主なものを3つご紹介します。
1.従業員のモチベーションが高まる
ESの向上により、従業員の働くモチベーションが高まります。満足度が高いことで企業への愛着も高まり、自社の商品やサービスに対する理解を深めることにもなるでしょう。
顧客に自社の商品・サービスを提供したいという気持ちが強くなり、顧客へのサービスの質も向上します。その結果、CSにもつながる結果になるでしょう。
2.生産性が向上する
モチベーションが上がった従業員は、仕事に対し意欲的に取り組みます。それが生産性の向上にもつながり、業績アップの数字に現れてくるでしょう。
厚生労働省の調査では、CSのみを重視している企業に比べ、CSとESの両方を重視している企業の方が、売上高や営業利益率が増加傾向にあるという結果も出ています。
3.定着率がアップする
ESを高めることで、従業員の定着率が上がります。会社への不満による離職が減るからです。前の項目でも紹介した厚生労働省の調査によると、ESを重視している企業は人材確保の数字も向上しています。多くの企業の課題となっている人材不足を解消できることが、ESの大きなメリットといえるでしょう。
離職率の低い職場は高いアピール効果があり、企業イメージも高まります。さらに優秀な人材を集めることにもつながるでしょう。
参考:厚生労働省| 「魅力ある職場づくり」で生産性向上と人材確保
ESの低下がもたらすリスクとは
ESを向上させることには多くのメリットがある一方、低下した場合はリスクが大きくなります。ESが下がることで従業員のモチベーションは下がり、働く意欲を失った従業員のサービスも悪くなるでしょう。CSは下がり、業績の悪化へとつながりかねません。
また、ESの低い職場は活気がなく、モラルの低下の恐れもあります。ここでは、ESの低下がもたらすリスクについてご紹介します。
■離職率が高くなる
ESの低下により、不満による離職も増えやすくなります。人材不足になり、ますます業績は悪くなってしまうでしょう。
離職率の高い職場は採用を行っても、何か問題があるのかと思われて応募が集まりにくくなります。ESが低いままでは採用できても定着しづらく、採用のコストが増えるだけです。
経営が苦しくなればますますESが低下するという、悪循環に陥ることにもつながります。
■従業員のモラルが低下する
ESが下がることで、従業員のモラルが低下するリスクもあります。職場に不満があると働く意欲がなくなり、勤務態度への影響が生じることも考えられます。
モラルの低下は、顧客情報や機密情報などの漏洩といった重大なレベルにまで発展する可能性をはらみ、経営に大きな影響を与える場合もあるでしょう。
ESを高める6つの方法
会社が健全に成長するためには、ESを高めることが大切です。ESを高める方法としては福利厚生の充実が思いつきますが、それだけではありません。
経営理念を共有して仕事へのやりがいを持ってもらう、従業員の声に耳を傾ける、働く環境を整えるなど、いくつもの効果的な方法があります。
ここでは、ESを高める方法として挙げられる6点についてご紹介します。
1.経営理念やビジョンを共有する
ESを高める要素には、仕事へのやりがいや誇りがあります。給与や福利厚生などの待遇がよくても、仕事にやりがいを持てなければESは高くならないでしょう。経営理念やビジョンを共有し、仕事への誇りを持つことがESを高めるポイントです。
経営理念やビジョンを共有することにより、従業員同士に一体感が生まれます。会社への愛着心が高まり、将来への期待感も高まるでしょう。
さらに、ビジョンをチームの目標に落とし込むことも有効です。より納得して仕事に取り組むことができ、モチベーションも高まります。
2.従業員の意見を取り入れる
従業員の意見を積極的に取り入れることも、ESを高める方法です。意見が反映されることで、責任感も生まれます。ただ指示に従って働くのではなく、主体的に仕事に取り組むという姿勢を持てるでしょう。意欲的に働けるようになり、ESも高まります。
具体的には、定期的にアンケートをとる、経営層や上司との面談を定期的に行うなどして、上がってきた意見を取り入れていくようにするとよいでしょう。
3.福利厚生を充実させる
福利厚生の充実は、目に見えて効果のある方法です。住宅補助や食事補助、社員食堂など、衣食住に直結するものは高いESを与えます。
有給休暇が取りやすい環境を整える、長期の特別休暇を用意するなども、ESを高める効果があるでしょう。ほかの企業にはない福利厚生を設けることも高いESをもたらし、人材の定着につながります。
4.労働環境を整える
労働環境も、ESのために重要な要素です。設備を充実させたり、業務効率が上がるシステムを取り入れたりすれば、働きやすくなります。環境が整いスムーズに仕事が進むことは、ESの向上とモチベーションのアップにつながるでしょう。
もちろん労働時間の改善も必要です。仕事量を見直して無駄な残業をなくす、残業をしない日を設けるなど、改善に取り組むことがESの向上をもたらします。
また、評価制度の整備も、労働環境を整える取り組みのひとつです。努力が正当に評価されることで従業員のモチベーションが高まり、ESの向上につながります。
5.コミュニケーションを促進する
従業員のモチベーションを高めるには、社内コミュニケーションの活性化が不可欠です。従業員同士のコミュニケーションがうまくいかない職場は、仕事もスムーズに運びません。仕事に必要な情報も迅速に伝わらないでしょう。
円滑なコミュニケーションができる仕組みを導入することが、ESを高めるために役立ちます。「社内SNS」で部署を超えた交流ができるようにする、自由に集まってコミュニケーションできるスペースを設けるなどの工夫をするとよいでしょう。
6.ES調査を実施する
ESを高める取り組みをするとともに、ES調査を定期的に実施することも有効です。どのような点に不満があるのかを明らかにして、改善に努めることでESが高まります。
ES調査により、普段のコミュニケーションでは把握できない従業員の本音を聞くことができるでしょう。上司に対して面と向かっては言いにくいことでも、調査であれば率直に意見できることもあります。
また、ES調査を行うことで、客観的なデータを取得できるのもメリットです。そのときの客観的な従業員の意見を集約することで、的確な改善を図ることができます。
ES調査の方法については、次の項目で詳しくご紹介します。
ES調査の方法
ES調査を行う前に、調査の目的を明らかにしましょう。目的を定めずに調査をしても、改善に結びつく成果は得られません。目的を決めたら、それに応じて調査対象とする従業員の範囲を決め、目的に沿った質問項目をつくります。
さらに、アンケートかインタビュー形式かなど調査の方法を定め、実施の手順を決めていきましょう。ここでは、ES調査の方法についてご紹介します。
■質問項目
ES調査では、目的に沿った質問項目を考えます。質問項目の例をいくつか挙げました。
・基本情報
・仕事内容
・上司・部下に関すること
・会社全体の社風や風土に関すること
・経営層に関すること
・人事制度や福利厚生に関すること
・コンプライアンスに関すること
調査の目的に応じて、質問内容を具体的に組み立てましょう。
■調査の方法
次に、調査の方法を決めます。次の項目を決定しましょう。
・記名か無記名か
・アンケートで行う
・インタビュー形式で行う
・Webツールを利用する
・自社で行う
・外部コンサルティング会社に委託する
従業員の多い会社でまとめて調査したい場合は、アンケート式が最適です。Webツールを利用すれば、集計も簡単にできるでしょう。個別の意見を聞きたい場合はインタビュー式で行うという手もあります。
■実施の手順
ES調査は、次の手順で行います。
1.目的を明確にする
2.調査対象を決める
3.質問項目を具体的につくる
4.調査方法を決定する
5.調査を実施する
6.集計して施策を検討し改善する
まず、目的を明確にします。「売上が下がっている」「最近離職が多い」といった課題を洗い出し、その原因を明らかにできるような調査目的を設定しましょう。
次に、調査対象を定めます。会社全体の問題であれば社員全員、特定の部署の成績が悪いなどの場合はその部署のみというように、対象を明確にしてください。
対象を決めたあとは、質問項目を具体的に設定します。課題に対し仮説を立てると、より適切な質問項目がつくれるでしょう。
たとえば、「売上が悪い」という課題がある場合、「仕事に意欲的ではない」「やりがいを感じていない」と仮説を立てて仕事内容や会社全体についての質問を設定します。「離職が多い」という場合は、「会社の評価や待遇に不満がある」と仮定して、人事制度や福利厚生に関する質問も追加するとよいでしょう。
調査方法を決定したら調査を実施し、集計します。得られた内容に基づき、具体的な施策を検討してください。
調査は定期的に行い、改善をしながらESを高めていきましょう。調査を積極的に行って従業員の声を取り入れようとする姿勢も、ESを高めるポイントになります。
働きやすい環境がESを高める
ESは従業員満足度のことで、今日の会社経営に欠かせないものです。ESが高いことはCSの向上につながり、業績アップへと導きます。ESを高めるためには、ビジョンの共有や働きやすい環境の整備が大切です。
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