「矩尺」とは直角に曲がった物差しのこと
「矩尺」は「かねじゃく」と読み、直角に曲がった物差しのことです。大工職などで使用される物差しであり「大工金(だいくがね)」と呼ばれる場合もあります。
アルファベットの「L」に似た形をしており、長い辺を「長手(ながて)」、短い辺を「短手(つまて)」と呼びます。一般的には長手を50cm、短手を25cmとしているものが多く、使用される素材はステンレスや真鍮、鋼などです。
「矩尺」は中国で発祥し、春秋戦国時代の魯の工匠である「魯班(ろはん)」が初めて作ったとされています。さらに、中国で発祥した矩尺を日本に広めたのは、十七条の憲法や冠位十二階の制定などを作った「聖徳太子」であり、のちに「大工の神様」とも呼ばれるようになりました。
ここでは、「矩尺」に関してさらに理解を深めるために、言葉の意味や成り立ちを詳しく見ていきましょう。
「矩」は直角を意味する
「矩尺」に使われる「矩」という漢字は「かね」と読み、直線や直角を意味する用語です。大工の中では直線を出すことを「矩を出す」、直角の確認を「矩を確かめる」といいます。
また、「矩」を使った言葉に「矩勾配(かねこうばい)」があります。「矩勾配」とは、底辺と高さが同じ割合の勾配のことです。この勾配を図形で描くと二等辺三角形になり、角度は「45度・45度・90度」となるため、ここでも「矩」が直角を意味していることが分かります。
長さの単位を表す場合もある
「矩尺」は直角に曲がった物差しだけでなく、長さの単位を表す際にも使用します。この時の単位を「尺」といい、一般的に土木建築などで用いられる単位です。
1尺は「約30cm」として認識されており、諸説ありますが、手のひらを広げて親指から中指の先までの長さが由来とされています。日本では大宝元年より唐から伝えられた尺を導入し、歴史の移り変わりを同じくして各地でその長さを変化させながら、明治まで使用されました。
しかし、明治からは「メートル」の単位で長さを定義づけられたため、1958年に導入された尺貫法により、「尺」が廃止されています。
「曲尺」の漢字が使われるケースも多い
「矩尺」は「曲尺(かねじゃく)」の漢字が使われるケースも多く「さしがね」と呼ばれる場合もあります。「曲尺」を「かねじゃく」と読む場合の意味は、「矩尺」と同じく直角に曲がった物差しのことです。一方「さしがね」と読む場合は、裏で人を操るという意味にもなります。
ここでの「さしがね」は大工道具ではなく、人形浄瑠璃や歌舞伎などの舞台で利用される人形を操作するための棒を意味します。つまり「裏で操る」という意味は、人形を操作する様にちなんでいるのです。
「矩尺(曲尺)」の3つの用途
「矩尺(曲尺)」には、直線の長さや直角の角度を測る以外にもさまざまな用途があります。
代表的な用途は次の3つです。
・木材の等分割
・角度の計測
・円周の長さの測定
建築業界では「矩尺」が当たり前のように利用されているものの、一般的にはイメージしにくいものです。ここでは、「矩尺」の詳しい用途を参考に、その理解を深めていきましょう。
木材の等分割
「矩尺」は、木材を正しく分割する際に利用されます。ちなみに「等分」とは、同じ分量に分けることです。
例えば、木材を3等分にするとしましょう。等分する木材の幅が12cmである場合「12÷3=4」という計算によって、4cmごとに印を付けます。
一方、幅が10cmの木材を3等分する場合は計算上割り切れず、3等分の位置で印を付けるのが難しいです。このような時に矩尺を利用して印を引けば、簡単かつ正確に3等分ができます。まず、矩尺の角を木材の片端に固定し、長手の方の目盛が3で割り切れる数字になるように反対側の端に合わせます。12cmで合わせたとすると、長手の目盛4cmごとに印を引けば正確な三等分ができるのです。
角度の計測
「矩尺」の角度は直角(90度)になっているため、角度の計測にも役立ちます。その方法は、「矩尺」の角を角度を測りたい対象の角に当てるだけです。
そこでぴったりと角があっていれば、その角が直角であると判断できます。さらに、「矩尺」を上手く利用すれば「30度」「45度」「60度」を正しく測ることも可能です。手元に分度器がなくても、「矩尺」さえあればさまざまな対象物の角度が測れます。